どこへ帰ろうか : いんげんの胡麻和え
ある晩、母が言いました。
「家に帰ります」
来た!と思いました。
それ以降、ほぼ毎晩、家に帰るという趣旨のことを口走るように。
夜中に布団の上にすっくと立って「帰ろっかな」と呟いてみたり、先日などは、やはり布団から起き上がって「ここはどこ?私の家ではないでしょ?私の家族がいないもの」。
落ち着いて話をしてみると、母が言う「私の家族」とは、自分の姉妹のことでした。「私の家」について聞いてみると、以前、母が姉妹と一緒に暮らしていて、今老健に入っている伯母が一人暮らしをしていた家の住所をすらすらと答えました。
教科書通りだな、と思います。
お手本通り。絵に描いたような認知症の進行具合ではありませんか。
認知症の進行というのはさほど激しくはないので、毎日一緒にいると「そんなに進んではいないんじゃないか」と感じることも多々あります。「このまま維持できるんじゃないか?」と。
でもその一方で、ほんの小さな変化やほころびに「あれ?」と気づくこともあります。
ゆっくりだけど、確実です。
あまり混乱が激しくない時でも、家族に関する記憶に問題が生じてきていることははっきりとわかります。その証拠に、母は家族について確認する質問を毎日毎日繰り返すようになってきました。
「Mちゃん(妹)の子供は誰?」「Sちゃん(姪)結婚したの?」「私がMちゃんを産んだの?」などなど。
曖昧になって、つながらなくなってきた頭の中の家系図を必死でつなごうとしているのだと思います。
気の毒だなと思いながらも、四六時中繰り返される質問に、私の神経も疲弊が始まっているような気がします。
「最近はどうですか?」と声をかけてくださったケアマネージャーさんに最近の母についてお話ししたところ、しばらく考えた末に「そろそろ次のステージを考えなければならないかもしれませんね」との答えが返ってきました。
グループホームに入ることも頭に入れて、これからどうするかを考えた方がいいとのことでした。
そりゃあ、揺れないと言えば嘘になります。
正直、四六時中母と一緒にいる生活が終わるならどんなに楽だろうと思います。
ショートステイやデイサービスの日の、あの伸び伸びとした心地よさ。それが毎日続くなんて夢のようです。
その一方で、もしグループホームに入所したなら、母は、今度はどこへ帰りたいと言う(思う)のだろうかと考えたりもするのです。
何が正しいのか。どうするべきなのか。
何も正しくはないし、何も間違ってはいない。こうするべきなんてはっきりとした形なんてありはしない。
困ったものです。
基本的に弱い人間なので(笑)、ちょっと心に引っかかる事があるとすぐに他の事に影響が出ます。
献立を考えることや、調理をすることにもあまり集中できなくなって、なんともおざなりな食事になってしまったり。(いや、何もなくても割とおざなりか?)
そんな時に意外と私が作るのが、今回の一品『いんげんの胡麻和え』です。
あとは出来合いや冷凍食品でなんとかしちゃえと思いながら、どっしりと腰を据えて、胡麻をごりごりとするのがなんとなく好きです。
『いんげんの胡麻和え』
- いんげんはさっと洗って、ヘタを切り落とします。
- 鍋にお湯を沸かして、塩を加えます。
- いんげんを茹でます。
2の鍋にいんげんを入れ、2分程茹でます。と言っても、2分はあくまでも目安。
1つ食べてみて、好みの固さになっていたらざるに上げ、すぐに冷水にとって冷まします。
いんげんを食べやすい長さに切ってから茹でるレシピもありますが、
私は切り口から水分が入ってしまいそうな気がして、切らずに茹でます。
ただ、ヘタを切り落としたら同じことだとも思うのですが…(ヘタは汚れもありそうなので切ります) - いんげんの熱が取れたら、キッチンペーパーなどで拭いてしっかり水分を取ります。
- 和え衣を作りましょう。
すり鉢で白胡麻をすります。あたり鉢であたってもいいですよ(笑)
好みによると思いますが、私は割としっかりすりつぶします。また、黒胡麻、金胡麻を使ってもOK。
砂糖、醤油を加えてしっかりと混ぜ合わせ、味を整えます。
ちなみに、伯母は黒胡麻を使ってお酢をほんの少し加えていました。 - 和え衣にいんげんを加え、よく混ぜ合わせて出来上がりです。
ポイントは、いんげんの水分をこれでもか!というくらい切ること。そして、食べる直前に衣と和えること。
時間が経つと、いんげんから意外と水分が出て、和え衣が水っぽくなります。いつ、どうやって、どんな決断をしたらいいのか。
よしんば決断を下したところで、その後もぐずぐすと後悔をしてしまいそうな気もします。
同じような経験をした皆さんに聞いてみたい。あなたは、どのタイミングでどんな決断をしましたか?ミカスでした。
ちゃま
母と二人で暮らしています。
母は、認知症で覚えることが出来なくなり、思い出すことも困難になってきています。
そんな母を見ていると「私(54歳)の30年後の姿だ」と、将来の自分を見ている気になります。
私より年上の方々で介護を経験した方は、私に言います。
母親を福祉のお世話になる事を躊躇してはダメ。
かわいそうと思わないで。
自分自身の事を考えよう。
仕事を止めてはダメ。
と。
正解は分からないけど、この先考えなくてはならないことが次々出てきそうです。
お墓のことも含めて。
何だかなぁと思いながら、目の前のことをこなしている毎日です。
ミカス Post author
ちゃまさん
私も、今の介護に四苦八苦しながらも、時々自分の老いた時のことを考えてぞっとします。
どうなるのでしょうね。
やはり、背追い込み過ぎないような、犠牲にならないような決断をしなければいけないと思います。
でも、いざとなると色々な感情に揺さぶられてしまいます。
これから先、まだまだたくさんの決断をしなければならないだろうと思うのですが、うまく乗り越えられたらいいなぁ。
ちゃまさんも決して無理をされませんように。
りかさん
私の父は母亡き後、今 特養に入所しています。
父が母と二人で暮らしていた頃、市内に住む私は 出来るだけ実家へ通って父の様子を見ていましたが、
判らなくなってきたことが判る この時期が当人には一番辛く苦しい日々だったと思われます。
お母さんもそんな時期なのでしょうか。
理想を言えば、判らなくなった事が目一杯になった頃に施設に入所するのがいいとは思いますが、在宅介護にシフトしようとしている政府を思うとそうも言っていられないのかなーと考えたり。
うちは認知症になる前から疎まれてた父親だったので、入所に家族は躊躇なかったですけど、
ミカスさんちのように母だったら、と考えると迷うお気持ちもわかります(娘3人なので)。
母が病に倒れていなかったらどうしていたのかな?
人生ってギャンブルですね。
折り合いをつけながら生きて行きましょう。
ぐっと寒くなりました、ご自愛ご自愛(^^)/
ひこうき
初めまして。実母と義母が認知症で、歳上の義母を追いかけるように実母が生きてます。2人とも施設にお世話になっています。最初は本人も我々もためらうものがありました。様々なパターンがあるとは思いますが、身内にしか出来ない事と他人の方がいいことの両方がありますよ。家族と暮らすだけが当人の幸せとは限らない。介護者のために親を犠牲にするのか、と思いがちですが、意外にも新しい局面が開いたりします。ご参考まで。
ミカス Post author
りかさん
判らなくなってきたことが判る…母はそれをわずかに超えた感じです。
まるきり判らなくなってしまった方が楽なのかもしれないと思うこともあります。自分が判らなくなってきている、忘れてしまうと自覚する瞬間があることで、母は取り乱したり怒ったりするからです。
りかさんのお父様もそうだったのでしょうね。
介護する者にとっても、この時期が最もしんどいような気がします。
色々な事情があって、私は、母が元気な頃からあまり好きではありませんでした。介護が始まってその感情が少しずつ増大していて、でも、その一方で自己嫌悪も感じています。
本当にギャンブルですね、人生は。
できれば勝ちたいけれど、どうなることやら。
りかさんもご自愛くださいね。
ミカス Post author
ひこうきさん
はじめまして。
お母様とお義母様、両方の入所について動かれた時はさぞかし大変だったでしょうね。
身内にしか出来ないこと、他人の方が良いこと…確かにそうですね。経験された方から言っていただけると心強いです。
新しい局面が開くという言葉にも、なるほど、と思いました。
本当にありがとうございます。
めーめ
ここしばらく、父の徘徊がひどくなり、預からなければならないギャン泣きする孫を車に乗せて、警察署に迎えに行くことが数回つづきました。
焦るし、腹も立つし、なんてカオスな状況!!と、最後は笑ってしまいます‥
40年住み続けた家も、今の父には家ではないのです。
自己嫌悪と、親をイヤになる気持ち‥よくわかります。
自分の将来もこんな風になるのか‥と思ったら恐怖でしかありません。
私は今、施設に入ってもらうことを考えて動いています。 考え方はそれぞれですが、たどり着けない過去を探してさまよい歩く父も、現実をやりくりしなければならない周りの人間も、幸せではない、と思うのです。
それと共に、自分の老後の覚悟も持たなければ‥と思う日々です。
ミカスさん、難しいと思いますが、ゆるゆると、出来るだけゆるゆると、毎日をお過ごしくださいね‥(^-^)
ミカス Post author
めーめさん
あぁ、大変だ。
めーめさんの心と体が心配です。
焦りも腹立たしさも、わかりますよ。痛い程わかります。
たどり着けない過去か。
本当にそうですよね。
母が、40年以上暮らした自分の家で「ここはどこ⁈」と声を上げるたびに、それにどう答えたらいいのか途方に暮れます。
めーめさんも私も、もう少し自分を楽にする策を取ってもばちは当たりませんよね。
一緒にゆるゆる行きましょう。