5歳児の脳内地図
先日甥と半日遊んだ。
甥は5歳で、体内の80%くらいは空想でできている。
だから彼と遊ぶときに、何してあそぶー?などと聞かれたことがない。
もう世界がそこにあるからである。
我々(レゴ)は朝、車に乗って出勤した。
途中踏切(ふすまの桟)で電車にはねられたりしながらも、勤め先の工場に到着。この工場は彼が所有している。
彼が、「さーあ今日も働くぞー」と張り切って言うので、やや働くのはいやだな…と思いながら、「これなんの工場なの?」と聞いたら、「これはねえ、はちみつ工場です!」と言った。そしてボウル一杯のブロックを指差して、材料はこーんなにいっぱいあるんだからね?と胸を張っている。
そうか、はちみつだけど固形でいいんだ……固定観念まみれの私はたちまち反省した。
黒はチョコレート味、赤はいちご、青はジュース、緑はキャベツ(?)とひとつひとつ説明してくれる。はちみつなのですよね…。
気を取り直して、仕事を始める。
ほんとうのことを言うと、この「はちみつ工場」は、じっさい「自動車整備工場」の転用である。
本式にはエレベーターに車を載せて、ハンドルを回すと一段ずつ車が上昇する。一番てっぺんからいくつかのチェックポイントを経て、最終チェックが済んだものがスロープをすべりおりてくる。
その車のかわりにはちみつ(色ブロック)を載せ、製品チェックを通して完成させる、というのが、彼のはちみつ工場の仕組みであった。
さっそく仕事に従事するわたし。
ブロック、もといはちみつを彩り良く数点選んでエレベーターに載せる。そして同時にハンドルを回す。ブロックにはタイヤがついていないので、指で押して次のエレベーターに移動させなければならないのが手間だ。非常に忙しい。もうやめたい…。
早々に弱音を吐いて手がおろそかになっていると、どこからともなくキツネの支配人がやってきて、
「なんだなんだ、全然できていないじゃないか。」
「こんなことでは間に合わないぞ!」
とやいのやいの言い出した。
そして、彼が「ほら、こんなに待ってる人がいるじゃないか、どうするんだ?」と指差してみせた先には、ありとあらゆる車両が一列に並べてあって、はちみつの完成をいまかいまかと待っているのだった。
こ、こんなに待っているなんて…。ぜったい作れそうもない…。
追い打ちをかけるようにキツネの支配人は続ける。
「休んでいるひまなんてないぞ!」
けっこうブラック企業なのですね…。私はやっていけそうもありません。
聞けばキツネの支配人は経験豊富な元・はちみつ職人だというので、だったら見本を見せてもらいたいと抗議し、まんまと代わってもらうことに成功した。
そうしてようやく一日の作業が終了し、家(空き箱)に帰ったが、夜の工場は別の従業員(ぬいぐるみ)が操業するとのことだった。シフト制か…。
5歳児の空想世界の、その他愛なさと思いがけないリアルのバランスには本当に驚かされる。
また、甥は今なぜがドラゴンボールに夢中だ。彼の80%が空想で出来ているなら、あとの18%くらいは目下ドラゴンボールである。
レンタルショップで借りてきた最初期のドラゴンボールのアニメDVDがあって、毎日見ているらしい。
「ちょっとドラゴンボールみようか?ね?」と、あたかも私が内心見たいと思っているのを斟酌してくれたがごとき態度で誘ってくるのがおかしい。
そして見始めてみると、悟空が弟子入りすることになるじっちゃん(亀仙人)の、あまりのエロさに腰を抜かした。画面いっぱいに80年代ファンシー&エロが炸裂している。
ところが、この、ある意味おおらかであけっぴろげのエロについて、妹と「いやー、エロいね。」「このエロはすごいねえ」と感嘆しあっていたところ、甥は「えー?『エロ』ってなにー?」となにひとつわかっていなかったのだった。そこで、「エロっていうのはねえ、エッチのことだよ!」と昭和のエートス溢れる返事をしたが、そのときにはもう彼は答えなんて聞いちゃいなかった。
さっきあんなにリアルな職業世界を再現してみせたくせに、エロセンサーはまだ生まれてもいないんだ。
5歳児が見る世界のまだらさ。もう少しでも大きくなれば、その脳内地図はまたがらりと変わるのだろう。
ある日突然、泉からあぶくと共にぽかりと出てきた新しい感覚が、汎図を塗り替えていくのだ。
byはらぷ
※「なんかすごい。」は、毎月第3木曜の更新です。はらぷさんのブログはこちら。
※はらぷさんが、お祖父さんの作ったものをアップするTwitterのアカウントはこちら。
つまみ
はらぷさん、「5歳児が見る世界のまだらさ」という表現が心にヒットしました。
×11の年齢の私の見る世界もかなりまだらではありますが(^_^;)人は生まれて1年の間に体重が3倍にもなったりもするわけで、若ければ若いほど、心身の成長っぷりは怒涛の勢いで、昨日の今日で見える世界は変わり、そこにいちいち「均等」とか「まんべんなく」という概念はなく、ある意味ガサツなのだろうな、と思ったりしました。
ところで、はらぷさんの甥ってことは、画像の「ピンクのキリン」の作者のひ孫さんかしら、と思い至り、そうなると、また違う想像力が喚起されたり致します。
はらぷ Post author
わー、つまみさん!
コメントありがとうございます!
よく駅などで、泣きすぎて吐きそうになっている子どもがいて、いったいぜんたい…!?と思うことがありますが、もし今の私がそんなことになったらあまりの非常事態にひと月ぐらい立ち直れないこと必至です。
ですが、彼らは小一時間後にはけろっと笑っていたりして、これが日常なのですよね。おそろしすぎます。。。
ほんとうに子どもって、毎日が「今日の私はちがう私」なのかもしれないですね。細胞的にも。
ある日とつぜんエロ方向だけが1キロぐらい伸びたりすることがあるのだろうなあ。
「ある意味ガサツ」ってまさにそのとおりだと思いました。
あッこれは、前の回で書いた「人間ってけっこう雑にできている」と同じようなことかもしれないです!
そして、そうです。甥はピンクの像の作者(100歳)の曾孫です。
思えば、ものづくりのほうにいった妹の息子なので、けっこういろいろ濃縮されているのでは…という気がしてきました。