〈 晴れ、時々やさぐれ日記 〉 ああ、ハンドメイド。look up と look down のあいだ
――— 47歳主婦 サヴァランがつづる 晴れ ときどき やさぐれ日記 ―――
先週、おもちゃアクセサリーなんぞを作って(?)いて、思い出したことがある。 「わたしの手芸度、ものすごく低い」
子どもの幼稚園の入園準備が大変だった。絵本袋、給食袋、体操袋、コップ袋、ティッシュケース、ランチョンマット…そうそう「アイマスク」なんて面倒なものも用意しなければならなかった。入園説明会で展示されていた「お見本」は、指定のかたちをしていることは言うまでもなく、一点一点がすばらしい「作品」だった。
あ、あんな高度なことは、わたしにはできない。。。
うちにあるミシンが、マイレージで手に入れた「なんちゃってミシン」であることも不安をつのらせた。
入園グッズを完成させたとたんミシンが壊れ、わたしの腰もおかしくなった。
「とにかく、これで一安心」と思ったのもつかの間、夏休み前のバザーに「手作り品」というものを出さなければならなかった。幼稚園のママたちの「手作り度」は、園児が制服の上に着るスモック(既製品)への加工の度合いと、そのお子さんが持つ絵本袋を見ればわかった。とてつもない「お作品」もぞくぞくあったけれど、わたしのような「粗品」も普通にあった。
バザーにはかなり厳格な「ノルマ」があって、遊休品と手作り品を決められた数提出する必要があった。バザーの主催者であるPTAの幹部は、そろって「手作り」の上級者であり、なおかつママたちのリーダー的存在として周囲から一目置かれていた。
やれやれ幼稚園もあと一年という年に、どんな間違いかPTAに突っ込まれてしまった。「わたしは入園グッズ作りで腰痛になったくらいですので」と自己紹介すると、一様に労りのまなざしが向けられ、場違い感を強くした。
年々役員選びに難航するのだと泣きつかれてしまった主任先生は、「大丈夫ですよ。忙しいのは夏のバザーまでですし、既に役員にお決まりの他の方々は、みなさん経験者で頼りになりますから」とおっしゃったのだけれど、その「バザー」というものがタイヘンだということを、新年度早々に理解した。
わたし以外の役員は、当然バザーを熟知されていた。役員会の席でまず議題に上がったのは、バザー当日の「手作りの部屋」の新設についてだった。わけのわからないわたしはただぽかんと話を聞いていたのだけれど、おいおいその「手作りの部屋」の意味がわかるようになった。
つまり、全保護者から提出を求める「ノルマ」とは別に、「手芸上級者の作品」を別室で売るようにしたい、ということらしかった。
「手作りの部屋」構想は、たしか幼稚園側の「別室確保が難しい」「会計が煩雑になる」などを理由にお流れになり、結局すべてのバザー品が陳列されるホールの一角に「手作り品コーナー」という特別なテーブルが置かれたように記憶している。
わたしはそもそも自分がノルマで精一杯な立場なので、「はー、こんなに手の込んだ手作りがちゃちゃっとできる方たちって、すごいわー。わたしは今までの歳月、何してトシくってきたんだろう」とうなだれていた。
その一方で、「ノルマがきつい」とか「乳児がいるのでバザーの係りはしんどい」とか、まーざっくりわたしサイドのママたちの声を会議の席でおそるおそる持ち掛けてみた。
「あはは。わたしは下の子に片手でオッパイやりながらバザーの仕事したよ」「妊娠中だとか乳児がいることを係りやノルマの免除の理由にしたら、どんどんルールが崩れてバザーが成り立たなくなるでしょ」
バッサリ切られて、「そ、そうですね。そうですよね」としか言えなかった。ああ、わたしが手芸の達人だったなら。。。
冬になって寒くなりだすと、そんな「手作り恐怖症」のわたしでさえ、「なーんか手を動かしたいなー」と思い始める。どんなにお粗末で拙い手仕事でも、針と布と糸の動きに没頭する時間は「喜び」を連れてきてくれる。消えて去るものだらけの家事の中で、「残る」ものの存在は小さくても大きい。
あーそういえば。実家のご近所のTさんはレース編み、Sさんは革細工、いろんなものを作っていただいたんだったなー。
「ごめんねー。わたし今、これが楽しくて。家の中、革細工だらけで家族にものすごく嫌われてるの。それなのにまた作っちゃうのよね。作ってることが楽しいから。だから、もらってくれると助かるんだけど」
あの頃のSさんと、わたしはたぶん同じくらいの年になった。Sさんのおっしゃっていたことが、あの頃よりわかる気がする。
ハンドメイドって、たしかにいいものだ。そこにそれがあるだけで、周囲が少し暖かくなる。ああ、こんなふうに作られたのねーと手の中のものの手の跡をたどることもまた楽しい。
「何かができること」は、すばらしい。「何かができあがること」もすばらしい。
平らなテーブルの上に「そういうものがそっとある」……… 一番好きな冬の景色だ。