〈晴れ 時々 やさぐれ日記〉「ああ お正月。視線の東京メトロ」
———- 46歳主婦 サヴァランがつづる「晴れ ときどき やさぐれ日記」————
みなさんは、今年のお正月をどちらでいかがお過ごしだったでしょうか。
わたしは毎年、夫婦それぞれの実家のある名古屋で過ごすことが恒例です。
あ。今の今、「恒例」なんて書きましたが、
「恒例」という言葉、実はちょっとひっかかりのある言葉です。
「つね」とか「れい」とか、いったいどのくらいの連続性をもって
「恒例」という列に並ぶんでしょうか。
この言葉は始点と終点、そこもきちんと語れるんでしょうか。
「だって夏休みと冬休みは名古屋がうちの常識やろ!」
最近やたらと「常識」という言葉を使いたがる小学四年の息子。
「恒例」とか「常識」とか、「連続性」や「標準値」はさておき、
わが家3人を乗せた車は、山口~名古屋間を片道8時間強で移動します。
うちの車がこのルートを往復する時期には決まって、
新幹線も国内外向けの飛行機も 増便増発を重ね
空も陸も たくさんの人々がたくさんの思いを胸に
西へ東へ移動されているわけです。
あの車は随分と大勢で賑やかで楽しそうだな。
この車のご夫婦はエレガントな感じでいいな。
ところで今回のお土産はこれでよかったかな。
あの靴をもう一足持ってこれば良かったかな。
子どものパジャマは一式で大丈夫だったかな。
さてどのタイミングでお洗濯しようかな。
老親たちは変わりないかな。
ご近所はどうかな。親戚はどうかな。
来年もこうして バカ笑いしながらこの道を来られるかな。
子どもの頃とは明らかに違う大人のお正月のほろ苦さ。
家族や身近なひとにはかえって言えない胸の奥の気持ち。
「あらたまる」ということの大人ならではの緊張と重み。
「おめでたい」という言葉の向こうのあらがえない現実。
主には孫に注がれる温かな眼差しと和やかな挨拶の間に
老親たちの心身の変化を頭の先から爪先までつぶさに観察し、
声の調子 話の内容 笑いの中にも耳をそばだて、
キッチンカウンターの脇に積まれたお薬入り特大タッパーにどきんとし。
わたしだけであるはずがない。
あのおうちでもこのおうちでも、みんなみんな、
それぞれの家庭の「お正月文化」にひたりながら、首をかしげながら、
それらとは性質のまったく違う、ひりひりするような熱い思いを
お正月のご馳走やお屠蘇と一緒にゴクリと飲み込んでいるんだ…。
移動する側も それを待つ側も お正月というのは
あの賑々しい三段重のおせちのように
「口取り」的な軽い会話や
「祝い肴」的な重めの会話
時間をかけて煮含めた「お煮しめ」的会話をとりどりに楽しみながら、
「今、ここ」にあることを それぞれがしみじみ味わっているんだ…。
それにしても あ~たのそのヘアスタイル
ど~してそ~もおかしなことになってるの?
山口のその信頼してる美容師さん、
せっかくのお正月に あ~たそれでOKしたわけ?
ああ今年も。毒舌の母にバッサリ斬られて やさぐれる。
あら~ サヴァランちゃん
太ってると思ってたのに あなたケッコウ細いのね~。
お土産の美容液、嬉しいわ。
ケッコウあなた お肌 きれいだものね~。
ああ今年も。率直な義母にあっさり言われて わだかまる。
いいんです!紅白や歌会始におよばれしてるんじゃないんだから!
今時、お正月は何もかも特別!って思ってるのはママくらいです!
美容師さんはね、わたし 彼女が好きだから お互いトライ&エラーでいいんです!
いただいときます!おか~さまのセリフのそれぞれ最後の単語だけ!
「のに」とか「ケッコウ」とか、いろいろ詮索しません!
おか~さまは邪気のないいい方だから!ケッコウじゃなくとってもね!
――― なんだかんだで
た~っぷりのご馳走をお腹に収め、その上さまざまなお土産ももらって
往路より重くなって帰ってきたわたしたち。
山越~え 谷越~え はるばると~♪
山口の町の控えめな灯りが見える頃には
いつも決まって目に見えない不思議なエネルギーを満身に感じます。
これでいくしかない。
ここでいくしかない。
日本中のそこかしこで
ひとびとの現在 過去 未来が交錯するお正月。
その視線はきっと 東京メトロより複雑で複層的。
今年も安全運行で。
それぞれの運行を陰日向で支え合う目に見えないネットワークに感謝して。
sherry
はじめまして。sherryです。
あまりにもどんぴしゃな内容に,思わずコメントしています。
実家への帰省が嬉しいだけだったのはいつまでだったのか,今はもう,思い出せません。
老親二人をおいて,離れて暮らす私たち3人兄弟。
今年は,帰省を終えた早々メールで連絡を取り合い,
とにかく,親にエンディングノートを書いてもらおうということで一致しました(笑)
少々遅すぎたきらいはあるのですが,只今,メールで将来へ向けての作戦会議中!
さてさて,どうなることやら……。
サヴァラン Post author
sherryさま。
「どんぴしゃ」とおっしゃっていただいて
ありがとうございます(涙)
はじめまして。サヴァランです。
>実家への帰省が嬉しいだけだったのはいつまでだったのか,
今はもう,思い出せません。
ああ 本当に。わたしももう思い出せません。
せめて子どもには「嬉しい帰省」であって欲しいな と。
子どもの帰省、大人の帰省、
ルートは同じでも景色のいろどりが違って
だからこそ帰省はおもしろい&大事と確認します。
ご兄弟お三人の「作戦会議」、うらやましい!
「どうなることやら」の歳月ですが、
「どうにかなる!!」と念じて参ります。
どうぞ今後とも よろしくお願いいたします。