結婚式における「天女スタイル」問題
若い女性向けの結婚式の服装というと、なぜかノースリーブワンピースに羽衣のようなショールを纏った「天女スタイル」が定番になっている。あれについては、私は非常に不満を感じている。なぜなら、あの格好は、ギャル系でもゆるふわ系でもない、見た目アラフォー疑惑女子の私には、致命的に似合わないからだ。一体いつから、結婚式の服装といえば、ああいうものになってしまったんだろう。多くの若い女性たちは、別に好きでああいったものを着ているわけではないと思う。若者向けの結婚式用ドレスとして売っているものが、ああいったものしかないからだ。大半の女子は、多く出回っている結婚式用の衣装があれだからという理由で、「天女スタイル」になっているのだと思う。
では、本来、洋服のフォーマルとはどういうものなのか。西洋式の礼装は、昼間と夜間の区別があり、夜間の礼装は、男性は燕尾服、タキシード。女性はイブニングドレス。華やかなアクセサリーをつけて、靴もヒールの高いものを履く。昼間の礼装は、男性はモーニング。女性はフォーマルなスーツまたはワンピースに、フォーマルな帽子。アクセサリーは、真珠などのあまり光らないものをつけて、靴も、夜間の礼装よりはヒールが低めなものを履く・・・ということになっているらしい。
これは、西洋の上流階級のパーティーでは、昼間は敷地の庭でお茶会、夜は屋内で舞踏会ということからきているのだろう。そう考えると、帽子の着用やスカートの丈、靴に至るまで、全て理にかなっている。時間帯によって服装が変化するのは、そもそも招待客が屋敷に泊まることを前提にしているからなのだろう。現代の礼装はずっと簡略化されてはいるものの、基本的にはこの流れの上にあるのだと思う(詳しくはわからないけれど)。
たぶん、洋服のフォーマルが「天女スタイル」のように迷走してしまう原因は、日本において、洋服文化の土台が固まっていないからなんだと思う。洋服のドレスコードは、先に挙げたような、西洋におけるパーティーの習慣や文化が、歴史を経て時代に合わせて変化してきた経緯があるわけで、どの場面でどういった装いをするかというのも、その習慣や文化の歴史の上にあるわけだ。
日本にはその土台がない。土台がないから判断基準がわからない。判断基準がわからないから、とりあえず日本国内でなら誰からも非難されないであろうと思われる「無難な格好」に走る。だから、色々なスタイルのフォーマルウェアが作られるのではなく、「無難な格好」としての「天女スタイル」が定着することになり、フォーマルウェアは無個性で画一的なものになってしまったのかもしれない。これは、就職活動用のリクルートスーツや、おじさんたちの慶事用フォーマルウェア、ブラックスーツに白の結び下げネクタイも同じなのだろう。
バンクーバー五輪の時、スノーボードの國母選手の服装が問題になっていたけれど、あの騒動も、実のところ、私たちが服装についてよく知らないがために、あそこまで騒動になったのではないかと思う。一体、何が「きちんとした格好」なのか、正しいスーツの着方とは、フォーマルな格好とはどういうものなのか、本当のところ、みんなよくわかっていないのだ。だから、彼の髭やピアスやドレッドヘアまで槍玉に上がるようになってしまうのだろう。成人していて、お堅い職業というわけでもないスポーツ選手に対して、髭やピアスや髪型までどうこう言う必要があるのだろうかと、私は思ってしまった。
ドレスコードについては、「これはマナー違反だからダメ!」みたいに、人を縛るためのものではなくて、「この範囲でならOK」という基準として考えたほうが良いんじゃないかと思う。「この範囲でならOK」がわからないから、フォーマルスタイルが形骸化して無個性になり、「天女スタイル」のように迷走してしまうのではないだろうか。「ルール」が明確でなかったり無視されてしまうところでは、ローカルな「慣習」が人を縛るようになる。それと同じ現象なのかもしれない。
ところで、奈良のどこかでは、奈良時代の格好で結婚式が挙げられるところがあるんじゃないかと思って探してみたら、本当にあった。→〔歴史深き奈良で結婚式を挙げませんか?〕もう奈良時代コスプレで結婚式を挙げればいいんじゃないかな。これなら、天女スタイルでも違和感なく出席できるだろうし、なんなら、出席者も本格的に天女コスプレをしてみても良いね。皆で蘇とか鴨肉の汁とか蒸しアワビとか食べて、にごり酒を飲もう。そして天女スタイルの人たちにライスシャワーやフラワーシャワーをしてもらうのだ。飛天が華を撒いているみたいで、きれいだと思うよ!
文章・イラスト 宇野ゆうかさん
こちらも、ぜひ、お読みください。宇野さんのブログ 「yuhka-unoの日記」
過去の記事はこちら→★
カリーナが宇野さんを紹介したブログ記事はこちらです。↓↓
視点を変えて女性の「年齢」やもろもろを考えたい!
silokanippe
面白かったです。挿絵もすばらしい。
スノーボードのひとはドレスコード的に寧ろ正しいですよね。あれウェアとか見ても明らかにストリート系の血を引いてるスポーツだから。何を吹きあがっとるのか不思議でした。わたしはスノーボード自体は好きではないのですが、かれのことは好きですね、メディアの下劣な振る舞いに対し、恐れ入った振りさえしてやらないあたりが、非常に正しい。
あと、「無難な格好」に走るあまり珍妙なことになってるのは、文化の土台があるかないかという以前の問題で、日本人の恐るべき悪しき病「同調圧力」が主原因だと思います…。就職活動のスーツとかも、この病気のせいじゃなかろうかなと。
とゆわけで、スノーボーダーの彼のことを想起されたのは、非常にみごとに的を射てらっしゃるように、わたしは思いました。