ゆみるからカリーナさんへ 2023年3月8日
これは昨年、カリーナとゆみるがメールで交わした往復書簡です。
カリーナさま
ひな祭りも終わってウグイスも鳴き始めました。
まだ春も前半なのに近所のウグイスはなかなか鳴くのが上手で、センスあるねと感心しながら聴いています。
前回カリーナさんから、医師に病状を初めて告げられた時の気持ちについて尋ねられましたが、私が直接医師から夫の病状について説明されたのは、夫が亡くなる一週間前の一度きりでした。
多分私の場合は夫も私も医療従事者なので、かなりレアなケースなのだと思います。(職業のこともあって考えてしまいすっかりお返事が遅くなりました。ご心配もおかけしたと思います。本当にすみません。)
もともと夫は毎年夏バテをしていて、でも3年前の夏はいつもの夏バテよりも少し辛そうで痩せたのかな、年のせいかななどと二人で話していたのです。
夫の体調不良がただの夏バテではないとわかったのは、お盆の前日仕事から帰宅した夫の顔を見たときでした。
一目見ただけでわかるほど夫の顔が黄色くなっていたのです。
驚いて「黄疸が出ているよ!」と夫に言っても本人はわからないようだったので、私の腕を夫の腕と並べて見せました。
明らかに黄色い自分の腕を見て夫も理解したようで、明日受診すると言ってその晩は二人ともいつもより早めに休みました。
ただ横になってからも黄疸が出る重い病気がいくつも頭に浮かんでしまい、なかなか寝付けず、夫も寝返りばかりしていて眠れなかったようです。
そして翌日、お盆の東京では夕方のにわか雨の後に珍しい二重の虹がかかり、TVのニュースでも放送されました。
一日中重く落ち着かない気持ちだった私は、仕事帰りの電車の車窓からこの虹を見て、夫が重い病気じゃないことを祈っていたのです。虹なんてただの気象現象なのに。
夫は自分の仕事が終わってから仕事関係の医師の診察と検査を受けて、21時過ぎに帰宅しました。普通だったら翌日に医師から家族と一緒に診断結果と治療方針の説明を受けるのでしょうが、夫はその場で医師から説明を聞き、私は自宅で夫から説明を聞いたのです。
患者本人である夫からMRIの画像をコピーしてきた紙を見せられながら膵臓癌の末期で手術はもう無理であること、多臓器に転移していてそのために黄疸が出ている、黄疸があると抗がん剤治療は出来ないので黄疸の治療のために2日後に入院すると聞きました。
夫は感情的にもならず他人事のように淡々と私に説明して、説明が終わると夫のそばに寄ってきた猫をそっと抱き上げて「はぁ~」と小さくため息をつきました。
MRI のコピーを見せられて夫の病気が解った時、私は自分のことより私に説明している夫の気持ちを思って辛く悲しかったのです。医師から説明を受けた後、どんなことを考えながら帰ってきたのだろうと。
病名も進行具合もそしてMRIのコピーも死刑判決みたいなものだったから。
そしてどうして自分がもっと早く夫の体調不良がいつもの夏と違うことに気が付かなかったのかと、職業柄もあり激しく後悔し自分を責めました。