夫亡き日々を生きる

カリーナからゆみるさんへ 2023年5月10日

これは昨年、カリーナとゆみるがメールで交わした往復書簡です。

カリーナです。ふと気づいたら、もうメールをいただいてからひと月が経とうとしています。急に仕事が(珍しく)忙しくなってしまったことと、ゴールデンウィーク前に一息ついて少しボンヤリしてしまいました。

ゆみるさん、看護師さんだったのですね。

カイゴデトックスの「プロと話そう」シリーズ(ご存知でしょうか)で看護師さんにご登場いただきたかったのだけど、ゆみるさんにお願いしてみればよかったなー。(もちろん、断っていただいてもいいのです)想像もしていなかったけれど看護師さんと聞いたら、ああ、そうかあとなんだかしっくりと馴染みます。

ゆみるさんとご主人が乗った朝の電車の場面。

お二人のそれまでの関係がにじみ出るようで尊く、美しく、それだけに哀しく心が揺さぶられました。電車の中にいると、みんな「何事もなく通勤や通学をしているのだろう」と思ってしまうけれどそんなことはない。外からは見えない慟哭のようなものを抱えている人も乗っているのですよね。

お引越しについても教えていただいたありがとうございます。そうだったのか、という思いです。

私はなぜ、リフォームしたのか、今となってはよくわかりません。

一つには、夫が倒れる2か月前に大阪北部地震があり、背の高い本棚のある部屋から避難するように夫と二人リビングに寝ていたという状況がありました。そんなことで住まい方を変えたいと思っていたような気がします。あと、夫の書類などで雑然とした仕事部屋をそのままにしておくのは、「元気になって帰ってくるとでも思っているのか」という問いをずっと突きつけられているようでつらい、というより、嫌でした。

私は誰よりも早く、「夫は元通りにならない」という事実を受け入れたように思います。本にも書きましたが、犬の散歩の途中にある神社にも寄らなかったし、お守りも別にうれしくなかった。私の性格かもしれませんが、倒れた夫を見つけたときに完全に途切れた感覚なのです。現実が完全に変わってしまったので変わってしまった現実にすべてを沿うようにしたかった。どこかに濃密な過去があり、過去の遺物のようなあれこれがあり、こちらに意識不明の夫がいる、という混沌がイヤだったのです。

相談できる夫がいないので夫と相談できないなら、たとえ、過激でも自分がすべて決める。他の意見は聞かない、という気持ちもあった気がします。

夫と二人か、

私一人か。

世間の声を入れたくなかった。

夫の声がないのであとは世間の声が入ってくるしかない。

そのことになぜか強烈に反発したのです。なんでだろう。よくわかりません。自分が冷たいのかもしれないと思うし、いつの間にか夫から精神的に自立してしまったのかもしれないとも思うし、私なりの愛情のカタチのような気もするし、なんか、よくわからないのです。

でも、「にゃんこ先輩のお母さんも家を建て替えたおかげで気持ちがずいぶん楽になった」というのはとてもよくわかります。

いま、夫の部屋というものはなく、夫のものは私の寝室に少し残したものだけです。あとは写真を、これも寝室に飾っています。なんというか、これもよくわからないのですが「二人だけのもの」なのです。私の寝室にある夫の写真とクローゼットに残した数点の服やたばこや手帳。ああ、これも他の介入が嫌なのかも。何でしょうね、よくわからない。

私の家にも昨日、お巡りさんが巡回してこられました。「お変わりありませんか」と聞かれ夫の名前の所を指して「あ、夫は亡くなりました」と言いました。すると困ったような顔で「ああ。そうでしたか」と言って「緊急時の連絡先は、若い娘さんがいるから聞かなくて大丈夫ですかね」と言われました。高齢独居に近づいたのだな、と思いました。

ゆみるさん、お葬式について記事にも書いておられましたが、亡くなったときからのこと、少し教えてください。

今日はいい天気でした。まるで楽園のよう。夫はいないのだなあと思いました。また、お時間のあるときにお返事ください。

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