第58回 「このミス」前世紀のおススメ10冊はこれだ!の巻
1980年代後半から10年間ぐらい、私にとっては読書=ミステリーでした。
きっかけは、ロバート・B・パーカーの私立探偵スペンサーシリーズと、ディック・フランシスの競馬シリーズ(どちらも翻訳は菊池光さん)でしたが、その傾向を決定的にしたのは、1988年に別冊宝島として創刊された、ランキング形式のブックガイド「このミステリーがすごい!(以下「このミス」)」でした。
今でこそ、「このミス」は知らない人がいない、影響力のある存在になっていますが、創刊された頃は、先発のミステリーランキング「週刊文春ミステリーベスト10」のアンチというか、ちょっとサブカルっぽい雰囲気でした。
文春は日本推理作家協会会員中心の選定だったので、このミスには「そっちがそうならこっちは権威をとっぱらった活字中毒者路線で行くぞ!」という確固たる方向性があったのかもしれません。
ちなみに、現在は文春の方の選定員も拡大され、全国のミステリー通&書店員が回答、となっているようです。
それはそれで、このミスとの違いがなくなってちょっとつまらないような・・。
とにかく、当時の私はこのミスを片手に読む本を選んでいた、といっても過言ではありませんでした。
現在のようにネットでカンタンに本の情報を引っ張ってくることができなかった時代、丸ごと1冊がミステリーのブックガイドというのは本当にありがたかったのです。
私の「やみくもにミステリーLOVE」は世紀をまたぐ頃にはフェイドアウトしまうのですが、人生でいちばん本を読んだのは間違いなくこの時期です。
そして、今思い出しても、心が踊ったり凍ったり痛んだり華やいだりもする印象的な作品がいっぱいありました。
そんなわけで、今回は1988~1998年の10年のこのミスのランクイン作で「これは面白かった!」と今も自信を持ってプッシュできる小説を発表したいと思います。
得手勝手な時期の括りをはじめ、極私的でしかない、そしてミステリー好きにはメジャー過ぎたりもするラインナップですが、最近おもしろい小説がないとお嘆きの方、ミステリーに最近興味を持ち始めた方、よかったら参考にしてくださいまし。(※タイトルをクリックするとAmazonの情報が出ます)
【国内編】
『プリズンホテル』(浅田次郎)
春夏秋冬四部作です。『鉄道員(ぽっぽや)』や『蒼穹の昴』で堅いイメージもある作家ですが、私はこれと「きんぴかシリーズ」のばかばかしさ、情けなさ、可笑しみがたまらなく好きです。
『龍は眠る』(宮部みゆき)
頭文字ゾロメ女の宮部みゆきさんぐらい、老若男女、本読みの初心者~上級者まで、まんべんなく愛されている小説家はいないと思います。この時期に書かれた作品だけでも『魔術はささやく』『火車』『蒲生邸事件』と傑作ぞろいですが、1作挙げるなら私はこれ。超能力ってせつない!
『毒猿―新宿鮫II』(大沢在昌)
新宿鮫シリーズから1冊選ぶとしたら、やはりこれです。マイフェバレット敵役の毒猿がカッコよすぎる!私は読後すぐ、舞台の新宿御苑の台湾閣に行きました。ええ、ええ、行きましたとも!
『空飛ぶ馬』(北村薫)
人が死なない心あたたまるミステリー、探せばけっこうあるのでしょうが、それを意識したのはこの小説が最初だったような気がします。大学生の<私>と落語家円紫さんの醸し出す清廉な空気が好きでした。
『私が殺した少女』 (原尞)
日本のハードボイルドといえばこれが浮かびます。私立探偵沢崎が渋すぎ!最近お目にかかる機会がないのは、スマホやパソコンやカーナビを使っている沢崎が想像できないことと無関係ではない気がします。直木賞受賞作。
【海外編】
『少年時代』(ロバート・R・マキャモン)
私の翻訳ミステリーオールタイムベストワンです。マキャモンの小説はどれも好きですが、中でもこれは格別です。つい、井上陽水の歌声が浮かんできますが、「違う違う!」と首を振ってかき消すことの繰り返し。
『羊たちの沈黙』(トマス・ハリス)
映画のインパクトが強いですが、原作を読んだときの衝撃は忘れられません。タイトルもかっこいい。そういえばこの訳も菊池光さん。私は単なる菊池光訳のファンなの?
『ブラック・ダリア』(ジェイムズ・エルロイ)
初めて読んだときも、その「何かに取り憑かれたような」世界にぶっ飛びましたが、同じシリーズの『L.A.コンフィデンシャル』の映画がすっごく面白くて、この『ブラック・ダリア』も再読したのでした。あらためてその濃厚さにくらくらしました。ふだん選ばないタイプの小説を読んでみたくなるのも、このミスの醍醐味です。
『クリスマスのフロスト』(R・D・ウィングフィールド)
カリーナさんも推してる(笑)ジャック・フロスト警部シリーズ。
どれも面白いですが、ひとつ選ぶなら一作目のこれです。もー、バカで下品でだらしなくて世渡り下手で・・。でもそんなフロストが大好きさ。
『墓場への切符』(ローレンス・ブロック)
禁酒中のアル中探偵マッド・スカダー・シリーズも大好物です。大人の恋愛モノとしても楽しめます。これからこのシリースが楽しめる未読の人が羨ましいです。いや、ほんと。
これから読まれる方、できれば時系列順でお願いします。
by月亭つまみ
こんなブログもやってます♪→→「チチカカ湖でひと泳ぎ」
okosama
早速、プリズンホテル1読了 (^^) ドタバタと縺れ込んで行って…というスピード感のあるお話、好きです。こういうのもミステリーというのですね。
あんず
つまみ様
大家を最初に持ってくるとは、え?ウケ狙い?ほーほー
「プリズンホテル」がミステリーでしょうか~
大好きですけど。
マザコン小説、お涙小説のヂャンルだと思います。
宮部みゆきさんのSFモノ、めっちゃツボで、
鳩笛草、クロスファイア、蒲生邸事件などわくわくしながら読みました。
今 桜ほうさら という宮部さんの時代劇を読んでいますが、
これもミステリー、めっちゃおもしろいです。
終わるのがもったいないので、ちびちびと読むw
難しいお話もエンタメにしてしまう浅田さん、宮部さんと同時代に生まれてよかった、
なーんて、ちょっとおおげさでしょうか。
つまみ Post author
okosamaさん、おはようございます。
ちょっぱや!(死語?)
ミステリーの定義を揺さぶる問題作ですね(^^;)
でも、ランクインしたときはすごく我が意を得たりと思ったというか、VIVA!拡大解釈!!と思いました。
つまみ Post author
あんずさん、コメントありがとうございます。
大家でも店子でも(笑)、浮かんだ順に挙げさせていただきました(^O^)
そうなんですよ、『プリズンホテル秋』が1995年の7位にランクインしています。
ちなみに、同票7位が『姑獲鳥の夏』です。
講評には「いかにも『このミス』らしい超オススメ本」と前置きがあって、あらすじが述べられた後、「とにかく理屈抜きで面白い。エキセントリックで身勝手でマザコンの小説家、親分も一目置くほど一本筋の通ったカタギの支配人など、キャラクターが抜群。ただ一つ注意。前作『プリズンホテル』から読むこと。倍楽しめるぞ。」 だそうです。
ミステリーと括ることに迷いはない感じです、このミス。
でも、今思うと、黎明期というか、現在よりなんでもあり、な時代だったのかもしれませんね、20年前のミステリー界。
宮部みゆきさんのSF、いいですよね。
特に、前世紀の宮部ワールドが好きです。
同時代に生まれてよかった、大げさではないと思います。
私も、自分にとって珠玉の小説を読んでよく「これを読む前に死ななくてよかった」と思います。