帰って来たゾロメ女の逆襲④
東京に出てきて30年以上になります。
会津から赤い頬っぺたで上京したときは、こんなに長居するとは思ってなかったなあ(しみじみ)。
上京して1年後の春、帰省しようと上野駅を歩いていたら補導されました。
スーツ姿の中年女性に突然「あなた、どこから来たの?中学生?」と声をかけられたので、憮然として「大学生です」と応えたら、「あら、ごめんなさいね。春は中学生の家出が多いので巡回しているの。念のために学生証見せてもらえます?」と言われました、腕をつかまれたままで。
あの頃から比べると、私だけじゃなく東京もずいぶん変わりました。
当時は東北新幹線も東京ディズニーランドもなかったし、半蔵門線は青山一丁目止まりで「新玉川線(現在の田園都市線)のしっぽ」と呼ばれていました。
・・あ、ローカルな話題でスミマセン。
新しい電波塔ができたり、表玄関駅が重厚にリニューアルされたり、日々刻々と変化しているような東京ですが、長くいると、街全体に対しては倦怠期の夫婦のごとく(なんて手垢にまみれた比喩!)何も感じなくなってしまいがちです。
きっとこれって、どこに住んでも一緒ですね。
でも、そんな感情&思考停止を打破してくれる本があります。
高野秀行さんの『異国トーキョー漂流記』(集英社文庫)です。
これは、著者が高校生のときにアメリカ人の女の子を東京案内した際に感じた「異国の人間と一緒に東京を歩くとその視線に同化して、見慣れた街がまるで外国に見え、それまで毎日なんとも思っていなかったものがことごとく新鮮に見えた」という原体験(?)が由来のノンフィクションです。
わかる~。
昔、上京してきた母親(異国の人ではない。でも既に異界の人)と東京の街を歩いたとき、私も母親の視点に自分を同化させたらしく、ビルや道行く車がいつもより鋭角的に自分に迫って来る気がしたものでした。
数日間旅行に行った程度でも、ご近所界隈や自室がやけに新鮮に見えたり、しますよね。
『異国トーキョー漂流記』は、日本在住の異国人と著者とのふれあいがいくつか綴られていて、そのどれもがとても面白いのですが、特にラストの「トーキョー・ドームの暑い夜」は素晴らしいです。
ここに登場する「異国人」は盲目のスーダン人留学生で、日本のプロ野球が大好きなマフディという青年。
このマフディがめっぽう明るく魅力的なのです。
私はよく「固定観念なんてくそくらえ!既成概念などしゃらくせー!」と文字にするような下品な人間ですが、マフディによって、自分こそ固定観念のカタマリじゃん!と気づきました。
そして、マフディと高野さんがトーキョー・ドームに野球観戦に行くくだりは、胸がヤケドしそうにアツくなりました。
・・それにしても、いつから私は赤い頬っぺたじゃなくなったんだろうか。
そして今、上野駅をうろついていたら、どう見えるんだろう私?
もしかして、しゃらくせー中学40年生!?
※ご存じの方も多いかもしれませんが、現在、ポプラ社のwebサイトで「わが盲想」を連載しているモハメド・オマル・アブディンこそ、マフディその人です。
By月亭つまみ
こんなブログをしています。正体不明な女二人のブログ。
お昼休みなぞにのぞいてみてください♪→→「チチカカ湖でひと泳ぎ」
Tompei
面白そうな本のご紹介、ありがとうございます!
さっそく図書館で借りて読んでみます。
アブディンさんのことは知らなかったんですが、「わが盲想」の最初の2回分を読んだだけですっかり魅了されました。固定観念のカタマリの私は「目が不自由な外国人がなぜこんな達者な日本語を書けるの」と驚きつつ、アブディンさんの爽やかな人柄に魅かれています。続きは、時間のあるときにゆっくり読むことにします。
つまみ Post author
Tompeiさま
コメント、ありがとうございます。
ぜひ読んで下さいませ。
アブディン氏の、日本人以上に鋭い日本語感覚、驚きですよね。
Twitterでもよくビックリします。
「雪はざんざん降ってきて」の「ざんざん」の響きがいいとか。
きなこ
私も感情&思考停止してますので高野さんの本でも読んでみます。
アブディンさんおもしろい!
死ぬ機会をのがしてきました。よかったよかった。
ってところが気に入りました。
引き続き読んでみます。
あー読むものいっぱい!
つまみ Post author
きなこさま
ありがとうございます。
私にとって高野秀行さんの本って、今まで自分が使っていなかった心身の部位を動かす潤滑油みたいな存在です。
そしてアブディンも。
やっぱり、身体もアタマも感情も、可動範囲を拡げた方がいろいろ面白い気がします。
きなこさんのオススメも教えていただけるとうれしいです。