【月刊 切実本屋】VOL.1 「中年だって生きている」
※【帰って来たゾロメ女の逆襲】一部リニューアルの経緯はこちら ⇒ ★ をご覧下さい。
最近とみに、戦前から戦後を生き抜いたTHE 昭和な女性の人生に興味が湧いています。今日は一緒に更新されている【あの頃アーカイブ】の影響もあるのでしょうか。自分の母親がドンピシャな世代ですが、すでに亡くなっていて残念です。もしかしたら、いないからこそ知りたいのかもしれません。
母親と一緒に暮らしたのは18才までです。結婚後の最初の帰省のとき、母親のベッドの枕元に読みさしの『富士日記』がありました。タイトルも作者も知りませんでした。なんとなく手にとってぱらぱらとページはめくったもののさほど心惹かれず、数分後には元の場所に戻し、それっきりでした。
実際に自分が『富士日記』を読んだのは21世紀になってからのことで、そのときはもう、武田百合子さんも母親もこの世にはいませんでした。
今年、武田百合子さんの『あの頃 単行本未収録エッセイ集』が出版されましたが、読んでいる最中ずっと、「実は母親は武田百合子さんに憧れていたのではないか」という妄想が頭から離れませんでした。妄想というより「だったらいいのに」という願望かもしれません。
武田百合子さんは死別、母親は離別ではあるものの、共に中年になってから夫を失くしひとり身になったほぼ同世代(百合子さんが2才年上)…自分が強引に捻り出したこんなふたりの共通項が、そんな妄想(願望)を生んだのかもしれません。
百合子さんの、自由闊達で風通しのいいちょっとハスッパな品の良さ、家族へのクールな視点、先入観のない他者との距離感、行動力、感受性…などなどは、私の知る母親とはかけ離れていますが、私は母親のほんの一部しか知らなかったのかもしれませんし、なにより、「憧れていた」と仮定すると、違うこともつながりの端緒になるような気がします。それ以前に、彼女のエッセイを読んで母親を思い出したという事実は揺るぎなく、それは2017年の私の心に、思いのほか明るい灯をともしてくれるのでした。
今回の単行本未収録エッセイ集は、どのページを捲っても武田百合子ワールド全開ですが、圧巻は映画の感想の章です。ネタバレという概念が存在すらしない、余熱もとれないままの生々しくも克明なあらすじの紹介と感想に気圧されました。
特に『楢山節考』『復讐するは我にあり』『狂い咲きサンダーロード』は、自分も映画館で見たのでありありと蘇り、息苦しくなりました。
ちなみに、母親が『富士日記』を枕元に置いていたとき、武田百合子さんが上述の映画を見ていたとき、そして今の自分はほぼ同じ年齢です。何かの啓示でしょうか。いや、単なる偶然でしょう。でも、中年になって心身にしがらみや澱や不具合を抱えつつも、映画や本で刺激を受け「まぎれもなく今を生きている」先達を、自身も同じ年齢や状況で感じることができたのは、うれしい偶然です。
そしてもう一冊。まさに今回のテーマのタイトル『中年だって生きている』(酒井順子/著)。
酒井さんは、通俗的なテーマほど(そういうテーマしか選ばないとも言える)、そしてそれを深く掘り下げるほど、筆が乗って高尚な筆致になる気がします。「論文かっ!」と思うことも。不思議な人です。
『中年だって生きている』もご多分に漏れずバリバリ通俗的なテーマですが、私にはある種の哲学書でした。特に[老化放置]の章は秀逸です。「老化の放置はセレブの特権」の説得力は一読の価値ありだと思います。
中年を生きる極意は、孤独を悪者にせず、同時に孤独感に取り込まれ過ぎないことだと思います。人は孤独なものだし、孤独感はあたりまえですが、それと、いっかなそこから抜け出せなくなることは違うことを意識したい。どんなに孤独になっても、折々にそれを忘れる瞬間を捻出することが私のこれからの課題、ぐらいに思っています。だってそれでなくたって、トシを重ねることは新たな孤高な場所に行くことなのだから。
母親を亡くしたときの自分は、オバフォー界に足を踏み入れたばかりの年齢でしたが、「母に孤独な晩年を送らせてしまった」とやたら後悔したものでした。今ならそれは不遜なことだったとわかります。
よく気づいたぞ、自分!これこそ、中年だって生きているし、成長している証だ…ということに今日はしておこうっと。
byつまみ
第1木曜日 まゆぽさんの【あの頃アーカイブ】
第2木曜日 つまみの【帰って来たゾロメ女の逆襲 月刊 切実本屋】
第3木曜日 はらぷさんの【なんかすごい。】
第4、5木曜日 つまみの【帰って来たゾロメ女の逆襲 ゾロメ日記】
まゆぽさんとの掛け合いブログです。→→「チチカカ湖でひと泳ぎ」
◆来週は第三木曜日。はらぷさんの「なんかすごい。」です。
爽子
つまみさん。
今週も、わたしはセレブの特権しています。
(使い方まちがってない?)
追っかけて読みたい本の紹介ありがとうございます。
毎月待ち遠しい。嬉
つまみ Post author
爽子さん、あたたかいエール、ありがとうございます!!
「老化の放置はセレブの特権」については、センスと、セレブライフを象徴するきれいな肌、きちんとした服装、そして「シワ(or白髪orシミ)ごときに左右される人生ではない」という自信、自己肯定の高さが「このままで良い」につながるという趣旨です。
あ、爽子さん、ご本人の認識はどうあれ、前半部分はドンピシャじゃね?・・っちぇ!( *`ω´)