【月刊★切実本屋】VOL.20 2019年は、あることないこと、書くぞ!?
この年末年始は、NHK新大河ドラマ「いだてん」の煽り番組の多さに驚いた。あんまりすごいので、若々しくていなせという自分の中の従来の韋駄天のイメージに、「しつこい」「辟易」「膨満感」という意味が加わりそうだ、加わらないけど。
あられない、まさに関わる人総動員の「いだてん」の番宣攻勢を見ていたら、それに比べて小説はなんて個人的な表現媒体なのだろうと思った。
ほとんど、ひとりの人間によって書かれ、よほどのことがない限り、大々的に宣伝されることはなく、たとえベストセラーになって何百万人に読まれようが、その堪能過程(?)が他者と共有されることはまずない。自分で進まなければ前に行かないし、リタイアしたって誰も文句は言わない。難解な小説を読んでいるときにイチバンしっくりする漢字二文字は「苦行」だったりする…。
苦行ならやめればいいのだが、誰も強要していないのに、意地になって読んだりもする。「こっちの水は甘いぞ」とばかりに、気軽に謳歌できる世界が手招きするけれど、かたくなに行かない。今は、難解だったり屈折していたり枝葉が拡がり過ぎてとっちらかっているけれど、ここを抜けたら、ご褒美のように素晴らしい世界がワタシを待っているに違いない!途中で挫折しなくて良かった、この本を知らずに命を終わらせずに良かった、と思うぐらいの境地に到達できるはず、と。
私、バカなの?
いくら、信頼できる人が褒めている小説だろうが、書き手に実績(あくまでも自分にとって)があろうが、今読んでいるモノが「当たり」である確証なんてないのに、ここまで期待値を上げて、苦行をも背負い込もうとするのも本当にどうかと思うのだけれど、ついつい賭けに出ちゃうんだよね(苦笑)。
なんだかんだ言って、読書が習慣化している人間って、マゾで、懲りなくて、打率の決して良くない快感をいつまでも忘れられない、竹を割ったような…とは逆の、餅をついたような性格の人間が多いのかもしれない。
そんなわけで、餅つき体質(たぶん)の月亭つまみが得手勝手に本についてのあれこれをこねまくる【帰って来たゾロメ女の逆襲 月刊★切実本屋】を今年もよろしくお願いいたします。
現在、私は、長年の敬愛作家である飯嶋和一さんの『星夜航行』を読んでいるのだが、読み始めたのは昨年の11月である。上下巻とはいえ、かかり過ぎるだろ!だが、こうも時間を費やすと、もはや、この本を開くことが就寝前15~30分の習慣になり、もうすぐ終わることが淋しいというか、心細い感じすらする。
日本史全般に疎く、戦国時代や安土桃山もその例外ではない自分なので、豊臣秀吉や徳川家康、徳川信康、小西行長、加藤清正、菜屋助左衛門(呂宋助左衛門)などなども、授業や活字などではなく大河ドラマで知った気になっている程度だが、その、ドラマでその役を演じた俳優の立ち姿、うろ覚えのセリフで断片的にしかイメージできなかった今までの自分の戦国時代史(豊臣秀吉は緒形拳、石田三成は近藤正臣、織田信長は高橋幸治、徳川家康は児玉清をまずイメージするという、バリバリ『黄金の日日』世代である)が、『星夜航行』という膨大な活字の羅列によって、一気にいろいろな箇所がつながり、人と時世が奥行きを持ち、ありありとした形で書き換えられるとあらば、2ヶ月という時間は、決して長くないような気もするし、同時に、人海戦術の集大成とも言える大河ドラマに、個人的な作業の帰結が形になった小説はなんら劣ることがないな、などと、ハナっから比べるモノじゃないとはわかっていながら、つい思ったりしてしまう。
特に、この小説のメインとも言える、秀吉がらみの、バテレン禁止令、朝鮮出兵は、描写が克明過ぎて、時々「なにもそこまで!」と思いつつも、これこそが「いだてん」番宣とは違う意味での「しつこい」「辟易「膨満感」という飯嶋小説の飯嶋小説たるゆえんなので(書いてることがかなり意味不明だ)、堪能しなきゃ損損、とも思うわけである。
活字なんて、羅列しているうちに、一人歩きして、書き手も思ってもいなかったような世界が出没して、勝手なことを表現し出してナンボだとも思うわけである。ま、飯嶋さんは違うだろうけど、もしかしたら飯嶋さんもそうかも、と思う方がなんか楽しい。
というわけで、私は今年も、本について、あることないこと、書かせていただきたいと気持ちを新たにした年の始めです。あ…ないことがメインっていうのも楽しいかもしれないな。
by月亭つまみ
【木曜日のこの枠のラインナップ】
第1木曜日 まゆぽさんの【あの頃アーカイブ】
第2木曜日 つまみの【帰って来たゾロメ女の逆襲 月刊★切実本屋】
第3木曜日 はらぷさんの【なんかすごい。】
第4木曜日 つまみの【帰って来たゾロメ女の逆襲 やっかみかもしれませんが】
まゆぽさんとの掛け合いブログです。→→「チチカカ湖でひと泳ぎ」
okosama
つまみさん、今年もよろしくお願いします。
見た見た!いだてんの番宣。あれこそ「何もそこまで!」でしたね(笑)
やはり『星夜航行』素晴らしいですか!
上下巻買って置いてあるのに、まだ読んでないという…。そうか、1日15分でもチリツモで読めますね。
体力と睡眠時間を渇望する新年です。
はしーば
あけましておめでとうございます。
餅つき体質、ここにも一名おります。
飯嶋和一さんの本は、「神無き月十番目の夜」がお初でしたが、自分が物語の中に入り込んでしまったような錯覚にぐらんぐらんに酔いました。
今でもクライマックスのシーンは、この目で見てきたかのように思い浮かびます。
今年もつまみさんセレクションを楽しみにしていまーす。
つまみ Post author
okosamaさん、今年もよろしくお願いいたします!
いだてん、本当に食する前から膨満感でした。
一応、録画したのですが、まだ見ていません。
『星夜航行』、緻密さがデフォルトになって、正直、中盤は「なっげえなあ」と中だるみもしたのですが、終盤の現在、またググッと心を鷲掴みにされています。
私は昔から本を読むのが遅いのですが、最近ますます、なので、okosamaさんはそんなにかからないのではないかと思います。
ホント、人生の後半は体力と睡眠時間ありき、ですね。
それがあれば、やっていける気がします。
つまみ Post author
はしーばさん、今年もよろしくお願いします!!
おおっ!餅つき体質仲間(^O^)
そうですそうなんです。
私も、インパクトがいちばんあったのは『神無き月十番目の夜』です。
あの小説は凄かった!
血なまぐさいにおいがしてきそうな描写の連続で、私もぐらんぐらんきたことを覚えています。
人に薦めるときも「とにかく血なまぐさいから読んで」とか言ってましたが、それじゃあそそられませんよねえ。
はしーばさんのオススメ本も、いろいろ教えていただきたいです。
匿名
つまみさん
明けましておめでとうございます。
飯嶋和一さん、初めて知りました。また探して読んでみます♪
読書が習慣の人はマゾってわかるような(;´Д`)
いま、小野不由美「屍鬼」読んでるのですが、ハードカバー上下巻借りたら、まさかの一ページ二段構えの重量に耐えかね、結局全五巻の文庫本借りなおしてるという間抜けな私です・・・。こんなに長くて怖いものをどうして自分は読んでるのかと思います。
凜
↑
凜です。すみません、名前書き忘れてました。
つまみ Post author
凛さん、明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
飯嶋和一さん、マゾ心をくすぐる作家だと思います(^^;)
『屍鬼』、うわあ、なつかしいです。
これと、篠田節子の『神鳥』、坂東眞砂子の『死国』、たぶん全部1990年代だと思うのですが、どれも怖かったです。
『屍鬼』を読んだ頃は、看護学校の司書をしていたこともあって、全身性エリテマトーデスという病気について調べたりしました。
どうしてこんな本を必死に読んでるんだろ自分、と思うこと、「あるある!」です。