【月刊★切実本屋】VOL.28 ヨシタケシンスケかもしれない
こないだ、はらぷさんと会って、「ヨシタケシンスケはやっぱりすごいよね」という話になりました。ご存知の方も多いとは思いますが、ヨシタケシンスケさんは、今、日本でイチバン人気のある絵本作家、イラストレーター…と言ってもいい人だと思います。
私が小学校の図書室でパートを始めた頃、その少し前に出版されたヨシタケさんの最初のオリジナル絵本(文も絵もヨシタケさん)『りんごかもしれない』は、すでに多くのこどもたちの支持を得ていました。今までにない斬新なアプローチでりんごを「みる」この本を、彼らはいち早くおもしろがっていたのです。
その後、ヨシタケさんの絵本は次々に刊行され、どれも大人気です。
その証拠に、昨年(2018年)ポプラ社が【こどもの本総選挙】を開催し、小学生12万人がこのイベントの投票に参加したそうなのですが、そこでもヨシタケシンスケ人気は絶大で、ベスト10内に4冊、ベスト30の中に、投票の時点で発売されていたオリジナル絵本がすべてがランクインするという圧巻の結果になりました。
彼の絵本には、美しい自然や、特別ながんばり屋さんや、優等生や、ポジティブだったり社交的なこども…はあまり出てきません。毎日が楽しくてたまらない子ではなく、楽しいこともあるけれど、楽しくないこと、困ったこと、わからないこともけっこうあると思っている、そしてそれらにいちいち立ち止まってしまう子が登場します。
努力や忍耐より、屁理屈や言い訳や理論武装をひねり出すことに没頭する登場人物たちは、それを積み重ねることでできたスキマからラクに息をする方法を探っている感じがします。そしてまた、気持ちを新たにしたりしなかったりして、楽しかったり楽しくなかったりする日常を暮らして行く…大人に限らず、日常はいろいろなトーンがあるわけですから。
もしかしたらそれは、大人が望むこどもの「正しい日常」ではないかもしれません。けれど、大人が望むこどもの正しさっていったいなんなのさ?そもそも「正しさ」ってどーゆーこと!?って話です。
そう、ヨシタケシンスケさんの絵本を読むと、「固定観念や予定調和に対する違和感」にこちらもいちいち立ち止まってしまいます。自分の中に眠っていた理屈っぽさや言い訳が目を覚ます感じで、それはけっこう愉快だったりします。
ヨシタケさんの絵はちまちましているし、線も細く、手描きの文字も多いので、どちらかというと「学校での読み聞かせ」向きではないかもしれません。でも私はこの一年、図書室で何度も声に出して『なつみはなんにでもなれる』を読みました。図書の時間に図書室に来た低学年の子に「ねえ、これ読んで」と手渡されるからです。
読み始めると、決まって何人か集まってきます。みんな、この本をすでに読んでいて、「なつみがなにかのマネをしてそれをおかあさんが当てるゲーム」というシステムを知っているのですが、実に楽しそうに見聞きしてくれます。
そして、なつみがおかあさんに「コレ、な~んだ!?」と言うたびに、「ポット!」「ふじさん!」「からあげをいーっぱいたべたいきもち!」とうれしそうに答えては、最初に「読んで」と言った子に「うるさいなあ。いちいち言わないでよ!」と叱られたりします。(「いちいち」って一年生がホントに言うのです。生意気!)
ヨシタケシンスケさんの絵本は、従来の絵本の概念を解体し(否定ではなく)、細かいパーツに分けて、それを分析したり検証して、自分の個性や表現したいことやできることのパーツを加えて再構築したもののような気がします。
今までだってそういう絵本はたくさんあったでしょうし、もしかしたら、魅力的な絵本はすべてそういうものなのかもしれません。そして、現在、不朽の名作として読み継がれている絵本たちも、発売された当初は、絵本の概念を変えるという意味では相当過激な存在だったのかもしれません。
そんなことも思いつつ、新たな絵本の潮流になっていることに疑いの余地はないヨシタケシンスケという作家の絵本概念再構築の過程を、こどもたちのリアルな反応と共に立ち会えているのは、とても刺激的で貴重でおもしろいなあと思います。
なあんて、けっこうマジメぶって書いてしまいましたが、ヨシタケさんの絵本の「くだらなくて笑っちゃう部分」こそ、なにより好みだったりします。
はらぷさんは『おしっこちょっぴりもれたろう』が好きみたいです。私は、こじつけ好きなので『りゆうがあります』を一推しにしておきます。でも『もうぬげない』も捨てがたいかも。
by月亭つまみ
【木曜日のこの枠のラインナップ】
第1木曜日 まゆぽさんの【あの頃アーカイブ】
第2木曜日 つまみの【帰って来たゾロメ女の逆襲 月刊★切実本屋】
第3木曜日 はらぷさんの【なんかすごい。】
第4木曜日 つまみの【帰って来たゾロメ女の逆襲 やっかみかもしれませんが】
まゆぽさんとの掛け合いブログです。→→「チチカカ湖でひと泳ぎ」
はしーば
初めて読んだ時の衝撃、忘れられません。
時として、心がどうにもささくれ立った時にヨシタケシンスケ。
即効性あります。
ある程度の持続性あります。
いろいろもイライラもどーでもよくなってくるから不思議です。
つまみ Post author
はしーばさん、こんばんは。
核心を突いているのに、すごく鋭いのに、漂う、あの独特のユルさ。
浮き足立ったり殺気立ったりして、たとえば世の中がこぞって同じ方を向きがちなときに、開きたいです。
そして、はしーばさんがおっしゃるように、心がささくれ立ったときにも。
演奏も上手だし、編成も緻密に考えられているのに癒される、栗コーダーカルテットの音楽にも、私は似た匂いを感じます。
はしーば
つまみさん、おはようございます。
打ち間違いを修正して載せていただき、ありがとうございます。
お陰で一句浮かびました(笑
はらぷ
こんばんは!
こないだはどうもー(公開でゆるいあいさつ)
ヨシタケシンスケ、世の中がこぞって同じ方を向きがちなときに開きたい、ってほんと私もそう思います。
世の中にメジャーとマイナーって区分けがもしあるとしたら、マイナーもマイナーで、メジャー界(そんなんあるんか)の中にほうりこまれたら、いっこも顧みられずに一笑に付されて塵になりそうな、でも本人にとったら切実な気持ちやひっかかりが、ものすごく完成度高く、大多数の人間のこころをとらえるような絵柄とセンスとデザイン力で書かれているという…ずるくないか?
あんまり人気すぎるんで、「ねこもしゃくしもヨシタケかよ!」「他のも読みなさいよ!」と思うこともありますが(笑)、やっぱりすごいよなあと思います。
「よいこへの道」(おかべりか 福音館書店)にも通じる感じがします。
そう考えると、ヨシタケの洗練度があらためてものすごい(いや!おかべりかはて大大大好きだけど!)
Comet
はらぷさん
「よいこへの道」を連想してくださって、歓喜のあまりコメント!
ですですそうです、ヨシタケさんは洗練されたおかべりか。
おかべさんは、トゥーマッチなところがなんともサイタマらしく
もうちょっと削ってもいいのになーと感じることもあったけど
やっぱりこれが魅力だわと、そのまま通してました。
(出版社時代に担当だったことがあるのです)
ヨシタケは私も「おしっこちょっぴりもれたろう」派。
LINEスタンプも愛用中w
つまみ Post author
はしーばさん、打ち間違い一句(?)、楽しみにしています!
つまみ Post author
はらぷさま、コメントをいただいたままでした。
申し訳ありません。
ヨシタケシンスケ論、まさにまさに!です。
そうなんですよね。
その世界はものすごく個人的で、小さい声のようなのに、ここまで受け入れられる、支持されるって、本当にすごくて、そしてずるい気さえする。
弱点表現力がここまで盤石だと、もう強味にしか見えんわ。
『よいこへの道』、確かに通じますね。
おかべりかさんを念頭に置くと、やっぱり、なんだかんだ言って、ヨシタケさんは洗練されてる、と私も思いました。
『よいこへの道』、家に1と2があるので、もう一回、読み直そうっと。
つまみ Post author
Cometさん!
おかべりかさんの担当編集者!かっこいい!!
(食いつく箇所が間違ってますね)。