【月刊★切実本屋】VOL.36 還暦力があるとしたら
来週、還暦だ。
今まで、20歳、30歳、40歳、50歳と年齢の大台に乗ってきたわけだが(10歳は無意識だったので除く)、たとえ、過ぎてみればたいしたことはなかった大台でも、その都度「ああ、ついに○十代か!」という感慨というか、覚悟というか、諦めの境地に至ったものである。
ましてや今回は還暦である。「昔なら死んでいた」を筆頭に、定年、前期高齢者間近、赤いちゃんちゃんこ…と、大台中の大台なイメージ。若い頃の自分は、あたりまえのように、還暦=年寄り と思ってたし。
なので、実際に自分が還暦になるにあたって、落胆、混乱、受容できない、絶望、隠蔽、開き直って暴走したくなる、などなど、基本的には「喜ばしくない」方面に特化した各種の感情が湧いてくるものと事前に予測していた。
確かに、それらは全て、多少なりともあるとは思う。でも予測とは違う。どう違うかというと、一言で言えば、「実際は、そんなことにはあまりかまっていられない」だ。
加齢と共に、なにかと「力」は減る。体力、学力、気力、視力、聴力、判断力、対応力、魅力、皮膚の表面張力…どれも右肩下がりの一途だ。だからトシをとるのは嫌だし怖い。
じゃあ、その右肩下がりの象徴のような「還暦」という単語は恐怖の象徴でもあるのか?という話だが、自分の中のいろいろな力が、小さな複数の穴のあいたバケツの水よろしく減っていくことを自覚しつつも、いちいち個々の穴に立ち止まっていられないというのが、現時点では恐怖に勝る実感なのである。
そりゃあ、ふとした瞬間に、遠くに来ちゃったなあアタシ、カンレキなんてチョー信じられないしガラじゃないよなあ、と(なぜかカタカナ多用のイメージで)思うこともあるけれど、複数の持病と腰痛持ちで、最近は飛蚊症も発症し、ついでにいえば眼瞼下垂傾向にあり、貯蓄に余裕なく引っ越しをしたせいで生活は厳しく、この4月から仕事の量を増やしたら雇用先の20代のチーフや勤務先のクセの強い先生方に気を遣うことになり、10代かそれ未満の児童生徒の予測不能な行動と言動に触れる日々を送っていると、ガラじゃないもへったくれもないのである。
しかも、である。今は、憎きコロナのヤツにも細心の注意を払わなければならないときた。一日一日を無事終わらせることが最優先で、バケツの小穴や年齢を気にしているヒマは基本ないのである。
年齢とどう折り合いをつけるかは、結局のところ、自分の心身の裁量に委ねるしかないのだと思う。いずれ、年齢に即した具体的な生活の変化を迫られる日が来るのだろうけれど、その日はきっと自分でわかる。それまでは、今日と地続きの明日をつつがなく送ることに意識を置く方が、年齢そのものを意識するより優先順位が上位のような気がする。
とはいえ、ここまでの文脈をひっくり返すようだが、バケツに穴があいている自覚があるなら、こぼれた水をわずかでも貯める(溜める、ではない方が好ましい)受け皿があった方がいいとは思っている。
どこまで「使える」かはわからないが、バケツの穴から魅力や皮膚の表面張力が漏れ出ても、受け皿に貯まった残滓のような何かを、あわよくば、人間力と自分への説得力方面にリサイクルしてやろうじゃないの、ぐらいには思っていたいのだ。ただただ順調に老いるばかりじゃつまんねーしよ。
そんな心境とは関係なくたまたま読んだのが『着せる女』(内澤旬子/著 本の雑誌社)という本である。2013~2019年まで「本の雑誌」で連載されたエッセイの書籍化だ。
1967年生まれの著者は、大学時代、お兄さんの洋服の買い物に同行し、その楽しさに目覚め、メンズファッションウォッチャーになる。そして気がつけば、特にスーツフェチになっていて、周囲、ひいては日本の男性のセンス(のなさ)が残念でしょうがない。
そんな気持ちを、顔見知りの作家である宮田珠己さんに吐露し、誰か自分に上下一式を見繕わせてくれないかなあと口にした著者は「じゃ、選んでくださいよ」と宮田氏に言われることになり(そりゃそうだろうよ、だが)、それをきっかけに、文筆業、出版業界関係の男性たちのスーツを次々と見立てるという、著者にとっては願ったり叶ったりの日々を送る。そのルポがこの本だ。
いやあ、面白かった。服選びを含むファッション全体に疎く、清水の舞台から飛び降りるつもりになっても、洋服一式に数十万円の出費は考えられない生活をしている自分だけれど、この本のスーツ買いにはとても説得力があった。私もバーニーズ ニューヨークのスーツ・ソムリエ鴨田さんのマジックにかかったのかもしれない。
BEFORE AFTERの写真とイラストはあるものの、鴨田マジックを、スーツへの基礎知識のない読者(私)に伝える内澤さんのユーモア溢れ、かつ、自分をクールに見据える筆力も素晴らしい。年上でも年下でも、みんな、自分の年齢にある意味、縛られていることがわかったのも良かった。
ちなみに、この本に登場し、藤井フミヤ&岡田准一路線のスーツで変身を遂げた本の雑誌社の杉江さんは、私が以前、働いていた図書館で「本の雑誌社の本」という特集したとき、わざわざコーナーを見に来てくださった人だ。
当日不在だった私に代わって対応したはらぷさんに「図書館でこんな特集をするなんて、月亭さんはどうかしている」とコメントを残してくれたのだった。
いっそ、次に杉江さんに会う機会があったら「還暦過ぎなのにどうかしている」と言われることを目標に、これからの日々をやってみよっかなあ。
…あ、また道を間違えるところだった。あぶないあぶない。
by月亭つまみ
okosama
つまみさん、こんにちは
「来週、還暦だ。」この一文の衝撃で、後の文章が入ってこないんです(汗)ホントに?
そもそもどうかしてる人が還暦で一巡したなら、この先も、やっぱりどうかしてるんだと思います。まんま、行ってください!
ビバ!還暦\(^^)/
きゃらめる
ほんとに還暦?
ほんとですか?
きつねにつままれてる気分。
ほんとに?
まじか?
ぜんっぜん、見えねー(ガクブル)
どうぞこのまままっしぐらにお進みください
どこへ?
はい、思うがままに、どこなりと
どこへ行っても
いくつになっても
きっと
ずっと
変わらないかと存じます
(せいいっぱい尊敬してほめてます)
つまみ Post author
okosamaさん、そ、そんな衝撃だなんて!
このサイトのプロフィールにしっかり生年を入れているので、自分としては常時開示していたつもりでしたよ。
まんま、行ってくださいって、なんかすごくうれしい言葉だあ(^O^)
ありがとうございます!!!
つまみ Post author
きゃらめるさん、こんばんは。
なんか、スミマセン(^^;)
自分の中では、着々どころか、ここ1~2年一気に老けた自覚があります。
年齢なんてただの数字、などとおっしゃる強者もいますが、どうも私はそうとも思えず、それは、物理的な意味でも気持ちの意味でも、見くびれない、見くびりたくない、と思ったりもするのです。
とはいえ、数字そのものに愕然とするのも事実。
複雑な乙女心ですよ(´・_・`)
きゃらめるさんのコメントの言葉ひとつひとつがすべてありがたくて、これからなにか年齢的なことで凹んだときは読みにきます!!
またお目にかかりましょう!
匿名
つまみさん
お誕生日おめでとうございます☆彡
昔なら死んでる歳。。
カリカリすると、いつも上司に
もっとおおらかに、そう焦るなみたいな意を込めてなのかしりませんが
「我々は、桃太郎のおばあさんとおじいさんと同じくらいなんだよ。まあまあ」と言われるののを思い出しました(笑)