これ、買えなかった。
もう師走だなあ、と思ったからかどうかわからないが、ガスコンロの受け皿に敷いている銀紙がずいぶん汚れていることに気が付いて、替えようと思ったらストックがなかった。
そこで歩いて2分のドラッグストアにでかけた。
ガス周りの品々が売っているコーナーに行く。銀色製品がたくさん売っているが、目当てのものは見あたらない。
ところで、いま「目当てのもの」と書いたが、それはこの品の正式名称がわからないからである。
名前はわからないがこんな日用品ないわけはないのである。
お店の人に、
「えーと、ガスコンロの下に敷く、あの銀紙のお皿みたいなやつどこですか」と聞いた。
もちろんお店の人も「あー、あれ、」とわかって、やっぱりさっき見ていた場所に案内してくれる。でもそこさっき見たんだよ。
お店の人も、「あれ?ないですね…こないだまであった気が…。」と首をかしげている。
そして奥に聞きに行ってくれたのだが、帰ってきて教えてくれたことには、
「ごめんなさい、あれ、置いてないみたいです…。」
「え、そうなんですか…。」
「ちょっと前まであったと思ったんですけどねえ。ごめんなさいね。」
………。
お礼を言ってお店を出た、が、なんだか、とても、混乱した。
え…ないの?あれが?(←未だに名前がわからない)
わりと大きめのドラッグストアである。
ここらの住人はみんなこの店を使っているんである。
まさか、あんな必需品がないなんて…。
ここまで考えて、私はある重大な疑惑に直面した。
「必需品」…?
そのときハッと気が付いたことには、最近のキッチン、あれ必要ない。
もう随分前から、ガスコンロの主流はフラットだ。
フラットなガスコンロには受け皿がないのだ。
うたい文句を見ると、ガラストップとかで、ささっとふくだけ手間いらずと書いてある。
そしていまや世界には、IHという私には1ミリもかかわりのないシステムが存在する。いつの間にかあの銀紙は、天井から下げる蠅取りテープのごとく前時代的な遺物と化しているということなのか。
フラット化する世界(by トーマス・フリードマン)…。違う。
私の住んでいる家は昭和62年築。6年前に購入した。
前に住んでいたおばあさんがとてもきれいに使っていたので、耐震工事を頼んだほかは、自分たちで壁を塗っただけでそのまま使っている。
当然キッチンも、あ、キッチンじゃないや、つまみさんいうところの「昭和のお勝手」 (ゾロメ日記11/28をご覧ください)も現役でこのとおり、銀色部分の多さ=昭和度の高さと言っても過言ではない。ちなみにうちはお風呂の浴槽も、銀色の狭くて深いやつである。これは自慢。
この家に引っ越してきたころは、このあたりはまだまだ古い家が多かった。昭和中期に建てられた、庭木の茂る一戸建、大きな木造の農家、そんなのがあちこちにあって、住宅街をあてどなく歩き回るのが楽しかった。
けれど、ここ数年は世代交代と、土地の値段が下がって買いやすくなったというのもあるのだろう、いたるところで建替え、建売りの工事がおこなわれている。
そういうおうちには、ピカピカのフラットコンロが備え付けられているので、もう銀紙のお皿はいらないのだ。
でも、それにしたって周囲にまだまだ古いお家はあるし、需要はあるのではないのか。
すると「古いおうちでも、家の中はリフォームされているんだよ…。」と頭のなかで声がする。
そしてよくよく考えたら、私が前にあれを買ったのっていつだっけ?覚えていない。
ひとつのパックに何枚も重ねて入っているものだから、めくってもめくってもいつまでもある。ないと困るけれど、困る人だって1年に1回も買わないという、お店にしてみたら動きの悪い商品なのだ。
だいたい、ありふれた必需品だと思っていたけれど、名前も知らない必需品ってあるものかしら。
だんだん、自分の感覚があやうくなってくる。
いままで立っていると思っていた場所が、ふと気付いて周りを見回してみると、一見変わったようには見えないのに、確かに何かが違う。それはおそらくささいなことだ。だけれども大きすぎて見えない変化の、こぼれた一角かもしれない。大げさだがそういう気持ちになった。
銀紙のお皿のない世界。
結局のところ、駅前の100円ショップに行ってみたらちゃんと売っていた。製品名は「ガスレンジ用汚れ防止マット」。…名称というか端的な説明である。
駅近の、一人暮らしの若い人やなんかの客が多い(と思っているがどうだろう)100円ショップでは売っているということは示唆的である、と穿がった私は思う。
ほんとうは、ただの偶然かもしれない。
そこでまた、ハハッとひらめいて、昨今のガステーブル事情を検索してみた。
するとあろうことか、というか案の定というか、システムキッチンのみならず、ガステーブル界においても、フラット化はすっかり定着しているのだった。
みそ汁から麺の茹で汁まで、あらゆる吹きこぼれを受け止めてきた、受け皿の時代は去った。
私はいま、旧世界と新世界のはざまに立っているのかもしれない。
そしてこの場合、自分は旧世界の住人というわけである。手をふって、旅立つ人々を見送る私…。
今回買ったパックの内容量は25枚。ずいぶん多い。
各家庭でどのくらいの頻度で替えておられるのか、ぜひとも知りたいところですがうちはというと1ヶ月にいっぺんも替えない。無精でしょうか。
3ヶ月に1回交換するとして、コンロが2つだから1年に8枚、使い切るまでに3年か…。
そう思うと、3年後が現実として立ち上がってくるのがなんだかおそろしい。なのでもうちょっと早めに替えようと思う。(←違う)
新しい銀紙で新年を迎えようとされている受け皿世界のほうのかたがた、もしお店で見あたらなくて聞く場合、その正式名称は「ガスレンジ用汚れ防止マット」です。ちなみに、受け皿のほうの名称ですが、どうも「汁受け皿」というらしいです。
でも、「コンロの受け皿にしく銀色のお皿みたいなやつ」のほうがぜったい通じる気がする。
今のところは。
数年たって使い切ったころには、「あー、あれ、」と言ってくれる店員さんもいなくって、ぽかーんとするのだろうか。
なんていっていてほんとうは、ことさら受け皿にも銀紙にも愛着があるわけでもない。いつか新しいコンロに替えたら、わーいわーいと喜んで、銀紙のことなんか、すぐさま忘れてしまうだろう。
byはらぷ
※「なんかすごい。」は、毎月第3木曜の更新です。はらぷさんのブログはこちら。
※はらぷさんが、お祖父さんの作ったものをアップするTwitterのアカウントはこちら。
いまねえ
ううう。。
今の今まですっかり忘れてました、ごめんなさい!
我が家はHではないしフラットでもなく、「汁受け皿」はあるにはあるんですが、この銀紙はすっかりご無沙汰。
以前はお世話になっていたのに。。リフォームした今のコンロには大きさが合わないというか、相性があわないらしく、
これを敷くとガスの着火時の具合がよろしくないので使わなくなりすっかり忘却の彼方。
恩知らずなことです。
お豆をことこと美味しく炊きあげるのが昭和の「おだいどこ」のイメージ、そんなお写真ですね。
はらぷ Post author
いまねえさん、こんばんは。はじめまして!
コメントありがとうございます。
いやッそんなッあやまらずとも!!(笑)
そうか、「受け皿」生活でも銀紙を使わないという選択肢も当然あるわけですよね。何か新しい発見でした。
そもそもなぜわたし、銀紙必須だと思っていたのでしょうか。
刷り込みすごいです。
そして、コンロの大きさに合わない問題の発見!
逆にいうと、昔は各社同じ規格だったということで、そこに銀紙が一般家庭に深く定着していた当時の状況に対する配慮が感じられるという見方もできるわけですね。(んなわけないですね。)
そういえば、新しい銀紙に替えてから、うちのコンロも着火後しばらくチリチリと赤い火が見えるようになりました。
よく見ると、銀紙の端が炎に当たっているので、やはりわずかに各社のサイズは違うのかもしれません。
「お豆をことこと美味しく炊きあげる」ようなお台所、そんなふうに言っていただいて嬉しいです。
台所って、長い間ゆっくり何かを煮るような時間の流れが似合いますよね。
たとえば、厭世観に自分が支配されそうになったとき、そうだ、お豆煮よう、と思えるような強さにあこがれます。でも、じっさいは何かあるとすぐ「も、もう寝ちゃおう」となってしまう側のひとです。。。