第61回 鹿の王 ユナと約束の旅
原作小説「鹿の王」(上橋菜穂子著)は長編で、2015年の本屋大賞と日本医療小説大賞を受賞しています。医療や生態系、政治、文化などさまざまなテーマ/事情が織り込まれ複雑な世界が広がります。そして、ファンタジーに分類されるけれど、読んでいるうちに自分がそこに長く暮らしているかのように感じるリアリティが上橋作品にはあります。なので、本作が映画化されると発表された時は、「2時間で没入できるのか?」とアニメ界最高峰のスタッフに期待しつつも、不安半分といった気持ちでした。
映画では小説の様々な要素を見せながら、主人公のヴァンとヴァンが岩塩鉱で助けた幼子ユナの物語として編まれています。登場人物はしぼられ関係が整理されています。小説の読後感と映画を見終わったときの気持ちは違う。私にとって原作をもとにした創作物は、史実とされる事象を脚色した歴史ドラマのようなイメージなので、変更があっても全然かまわない。原作を知っていれば、むしろどう変えてあるかに興味が湧きます。
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映像では、鮮やかな色彩は使われておらず、過度な太陽光線もなく、派手な戦闘シーンもない。ともすれば退屈に見えてしまうけれども原作の世界観とマッチしているし、どの登場人物もそれぞれの声色は合っている。(特報や予告では分かりませんが、この映画はセリフが少ない!にもかかわらず堤真一さん頑張った!)なによりスクリーンを見ているうちに「鹿の王」の意味が直観的に分かります。
特筆すべきはアニメーションです。美しいなみごとだなと感じるアニメーションを見ると、背は映画館の椅子を離れ前のめりになります。「鹿の王」では違いました。のけぞったのです。
作中では主人公ヴァンが操る鹿の一種「飛鹿(ピュイカ)」の躍動が随所に描かれています。岩場を跳んだり山を駆け降りたりする足元や歩く後ろ姿の臀部の揺れなど、その動きは引っ掛かりがなくあまりにも自然で、一瞬アニメをみていることを忘れます。他にも馬や狼が文字通り「多数」登場しますが、同種でも個体ごとの動きが別々に描かれているのが、これまた凄い。野生動物のそんな姿を実際に見たことは無いのですが、自然科学系のテレビ番組で見た記憶と重なったのです。そして、それらが(描くツールがなんであれ)人の手による表現だと思い至ると、その凄さに思わずひいてしまったのです。
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「海獣の子供」でも感じましたが、壮大な世界観を有する作品が一編の映画で終わるのは非常にもったいない。分からない人にはごめんなさいですが、例えば「進撃の巨人」が一編の映画だけで終わるのと同じですよ!本作の場合「鹿の王 水底の橋」という外伝もあることですし、医療中心のお話も映像化してほしいです。なんなら30分のシリーズ化も期待します。
「鹿の王 ユナと約束の旅」の公式HPのURLはこちら↓
https://shikanoou-movie.jp/
アニメをご覧にならない方はぜひ原作を!
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その他、最近見た作品はこちらです。
「地球外少年少女」:見たことのないものを見せてくれ!という欲求にこたえてくれました!
「平家物語」:美しいです。空気が清々しいです。原作は、ただいま絶賛積読中!
「毀滅の刃 遊郭編」:綺麗!と怖い…が共存する画面。
こんなにバリエーションに富んだアニメを楽しめるのがなにより幸せ…。
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