家のこと
2ヶ月ぶりのこんにちは。
4月末に無事引っ越しをして、イギリスでこの記事を書いています!
4月25日、ヒースロー空港には、午後3時半過ぎに着いた。
迎えにきてくれたオットの車ですぐさま(といいたいが道を間違え時間をロス)猫たちを引き取りにいって、ひたすら北上。途中休憩もいれてだが、4時間かかるというところ、7時間近くかかって、夜中の0時にYorkに着いた。
のっけから愚痴で恐縮だが、二度とオットの車には乗りたくないと心から思う。無傷で家に着いたのが奇跡のような、地獄の旅路だ。多くは語るまい。
しかし着いたことは着いた!家の前の道に車を止めて、スーツケース、猫たちを入れたケージを玄関に運ぶ。あたりはシーンとしていて、イギリス特有の湿ったにおいがする。暗くて寒い。猫たちはじっと息を潜めていて、物音ひとつたてない。
その夜は、まず猫たちの世話だけいっしょうけんめいやって、ともかく眠った。自分がどこにいるのかも、よく考えもせず。猫たちは体を低くして、ベッドの下に隠れた。
次の日朝がやってきて、明るいところで家をよく見た。
わたしは2階のベッドに寝ていたらしい。窓から、昨日暗くてよく見えなかった家の前の道が見える。
2階には、この部屋の他にベッドルームがもうひとつ、小さな浴室とトイレ。
1階は3部屋、道に面したフロントルーム、真ん中にダイニング、いちばん奥に、おそらく後から増築したキッチン、その向こうに小さな裏庭があった。
おもしろいのは階段で、異常なほど傾斜がきつい。そして、幅が足の長さより余程短い。ほとんどハシゴ段の様相である。そのうえ、絨毯敷きなものだから、角度が丸みを帯びてよりすべりやすくなっている。長いスカートの時代、どうやって上り下りしていたのか。
最上段には、両側の部屋に向けて90度の角度で2段分が足されていて、謎の谷間が出現していた。限られた空間に階段を設置するための工夫である。
謎の谷間と猫
オットがあらかじめ写真を見せてくれていたけれども、実際に見るとこうなっているのかあ。すべてがコンパクトだけれど、清潔で居心地がいい(気がする)。
家の外に出てみた。通りの端から端まで2階建の煉瓦の建物がひとつながりに連なっていて、それぞれ色の違う玄関ドアが等間隔に並んでいる。通りの向かいが奇数、こちらが偶数、うちの番号は46番で、玄関の色は青。
通りに面していきなり玄関、玄関あけるといきなり部屋、という、19世紀の終わり頃に建てられた、最も庶民的なテラスハウスだ。産業革命以降、都市に労働者が流入して町が広がり、こうした通りがつくられた。このあたりには、昔チョコレート工場やガラス工場があったそうで、そこで働くひとや職人さんたちとその家族が住んでいた。
通りに面した窓にはまだカーテンがなく、外から家の中が丸見えである。イギリスの家によく見る、あのレースのカーテンを買わなくては!
家の前の道、朝8時。
家には3種類の鍵があって、ひとつは玄関、もうひとつはキッチンから裏庭にでるドア、さいごの1個は、裏庭から家の脇を通って道路に出られる、細い通路の格子戸用。
どれもいかにも「鍵!」という形をしていて、鍵たばをがちゃがちゃやって開ける。内側からも、鍵を閉めるには鍵を差し込んで回すのだ。鍵穴からのぞいてみたら、穴の形に向こうが見えた。面白い。でも針金一つで開けられそうで、ちょっと不用心である。
家の中から鍵穴を覗いてみた様子
キッチンはあとから増築したらしいとさっき書いたけれど、昔はこの小さなダイニングに、台所もあったのだろうか。部屋の大きさの割に巨大な暖炉のあとがあり(今はふさがれている)、そこで煮炊きをしていたのかもしれない。きっとオーブンもあったはず。
同様に、2階の浴室とトイレも後付けである。裏庭には小さなスレート葺きの小屋があって、ドアが2つついている。その1つをあけると、なんとそこにちいさなトイレがあるのだった。今は物置がわりになっていて、家主の残したいろんなガラクタがつめこまれている。便器は比較的新しいように見えるが、60年代くらいまでは実際に使っていたのかも。もうひとつのドアには鍵がかかっていて、中に何があるかは不明(怖)。
裏庭といっても土はなく、左側の緑のドアが例のトイレです。
オットによると、ここは賃貸なので改装も最小限、通りの他の家は、もっといろいろ新しくなってるんじゃないかな、とのことだった。この家の大家さんは女性で、小さい頃ここで育ったが、今はリーズに住んでいる。
そうか、外側から見たら同じように見えるけど、それぞれの家に、そこで暮らした人々の百数十年が降り積もっているんだ。
この通りも、昔は家族がぎゅうぎゅうになって住んでいたんだろうけれど、今は町の中心部にほど近い便利な場所として、いろんな人が暮らしている。子どもが独立した老夫婦、一人暮らしのビジネスマン、若いカップル。たとえば、左隣の家は、一人暮らしの女の人(と犬2匹と猫2匹)で、右隣の家は、若い男の人ふたりのルームシェアだ。
そこに、日本から引っ越してきた奇妙な夫婦(わたしたち)が加わったというわけ。ここで暮らしていくのかあ。
北部の人は人懐っこいといわれるが、たしかに通りの人々はみなよく言葉をかわす。とくに高齢の人たちは、生まれも育ちもヨーク、というひとがけっこういて、この通りにかつて子どもが溢れ、おかみさんたちがおしゃべりをした、そのコミュニティの片鱗が、どこかに残っているような気がする。
なかよくなって、みんなの家の中をのぞいてみたい。
追記
おかげさまで、猫たちもすっかり家に慣れ、元気で暮らしています。そのことはまた書こうと思う。えらい猫のことを!
外をながめることができるようになったえらい猫の画像
外をながめることができるようになったえらい猫の画像 その2
By はらぷ
お知らせ
5月21日開催の文学フリマで販売予定の同人誌に、お声がけいただいて短い文章を寄せています。
『推し本 異人と同人4』
浅生鴨/編集
総勢60人もの人が、それぞれの熱い「推し」を綴っています。
わたしも人生に思いがけず訪れた「推し」について書きました。
すごい執筆陣で(わたし以外…)、どんな「推し」と邂逅できるか、完成が本当に楽しみです。
通販もされるようですので、もしご興味あるかたはぜひ。ちなみに文フリでのブースは第二会場のトイレのすぐそばだそうです!
文学フリマ:『推し本』のページ
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