11月22日はカレー記念日

カレー記念日

落ちてゆく 枯葉のごとし 抜け毛かな

11月22日はカレー記念日

Jane

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カレー記念日とは?

加齢を実感したら、それはカレー記念日。
抗ったり笑い飛ばしたりしながら、毎日華麗に加齢していきましょう。

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ゾロメ女の逆襲

【月刊★切実本屋】VOL.81 魔法というより矜持

小中学校時代(1960年代後半~1970年代中旬)は福島県福島市で暮らした。福島市は県の北の端に位置し、県内での人口1位はいわき市に譲り、地の利や知名度では県中央部に位置する郡山市の後塵に拝していて、こどもの頃のわたしは、自分が住む福島市のことを、県庁所在地というだけがとりえのパッとしない市だと思っていた。

それにしても、福島県とオーストラリアは似ていると思う。

当時、福島市には3つのデパートがあった。中合(なかごう)、山田、ツタヤだ。3店舗とも、1970年代はじめまでは、それぞれ駅から数分の場所に点在してしのぎを削っていたが、そのなかでも中合が、頭がひとつもふたつも抜きんでている存在で、福島市においてデパートといえばまず中合であることに異を唱えるひとはいなかったと思う。

わたしの家は、福島市の北部の新興住宅地にあったが、月に一度程度、母とふたりで飯坂電車に乗って中合に行くというのが恒例行事だった。周囲の同級生の多くもそんな感じだったように思う。そしてその行為をみんなが「町に行く」と言っていた。「昨日、町に行って中合でこの靴を買ってもらった」「あ、あたしも昨日町に行ったよ。中合じゃなくて山田だけどね」みたいな会話がふつうに成立していた。福島市では今も「町に行く」という言葉が生きているのだろうか。

飯坂電車(福島交通飯坂線)。当時、親戚のおじさんが終点の飯坂温泉駅の駅長だったので、ことさら身内感があった。

月に一度デパートに行くといっても、わが家の場合、買い物はさほどせず、ひととおり店内を見て回った最後に、地下の食料品フロアに行き、ちょっとしたお惣菜やお菓子を買って帰ることが多かった。そもそも物欲があまりないこどもだったので、なにかをねだった記憶はほとんどない。食堂でも、お子様ランチやホットケーキなどには目もくれず、嬉々としてざるそばを頼んでいた。たまにクリームソーダなどを頼むと自分がこどもになったような気分になった‥バリバリこどもだよ。

最後に頼んだのはいつだろう。

でも、会津から母方の祖母が来たときは事情が変わり、恒例行事はランクアップした。祖母は、福島市に信頼している指圧の先生がいて、半年に一度ぐらい来て施術を受け、帰りにわれわれと中合で待ち合わせをするのが常だった。そのときは、母も洋服や服飾雑貨的なものを買った気がする。ハレの日という感覚だったのか祖母がスポンサーとして暗躍していたのかわからないし、もう確認する術もない。

中合と山田は建物の老朽化を理由に駅前進出を決め、1973年、同時に駅前の隣同士のビル(連絡通路があった)に新装オープンした。このあたりからは、母親より友達と町に行くことが増えたが、新装オープン後の初回は母と行った。

風船はまだしもハトも舞ったのか。知らなかった。

当然ながら店内はどこも新しく、なにもかもが輝いて見えた。上りのみならず、下りのエスカレーターがあることに驚き、下りに一歩足を踏み出すときはけっこう緊張した。すごい混雑で、店内放送ではひっきりなしに迷子のお報せを流していた。あまりに人が多く、母もわたしも人に酔ってしまったので風の通る屋上に逃れた。でも屋上もすごい人だった。誰もが興奮して、今にも鼻血を出しそうな顔をしていた。

あの頃のデパートは、現実なのに夢を見させてくれるような特別な場所だった。そんな場所に気軽に行けて、活気と重厚さが混在した雰囲気を味わえたことは幸せだったのかもしれないと今振り返って思う。その後、上京し、デパート好きを標榜して東京のデパートにも数多く足を運んだが、東京のデパートはさすがに大きいとは思ったものの、中合に感じたようなときめきはなかった。

目の前が福島駅だった。

わたしにとってデパート=中合で、三越にも高島屋にも伊勢丹にも西武にも「心の百貨店の玉座」を明け渡すことはなかった。だから2020年に「中合閉店」を聞いたときは、もうリアルな喪失感こそなかったけれど、十代の頃に憧れていたひとを亡くしたような淋しい気持ちになった。

おおげさに言えば、この世に終わらないものなんてないってことだなあ。

なぜこんな、特に目新しくもない、誰もが持っていそうな昭和回顧的なデパートの思い出を書いたかというと『百貨の魔法』(村山早紀/著)を読んだからだ。

戦後の町の復興を旗印に、大企業資本ではなく、非大都市の地元の有志がこころざし高く立ち上げた星野百貨店、それがこの小説の主人公だ。わたしも知っている右肩上がりのデパートの時代を経て、いつのまにか晩秋~冬の時代を迎えたデパート‥百貨店を、諦めてただ手をこまねいて看取るまじ、と声高ではなく静かに内側から奮闘する人々の物語である。

この作者はこういう話を書かせると本当に上手いし巧い。登場人物がこぞって善良で、ファンタジー要素が乙女志向(揶揄ではない)なので読者を選ぶかもしれないことも含め、まるごと「珠玉の村山早紀ワールド」だ。文章も流れるようにきれいだし、随所にグッとくるとっておきのエピソードがちりばめられていて心憎い。2018年の本屋大賞ノミネートというのも、店を守り続けるひとたちへの作者の敬意に書店員が胸を打たれた部分も大きかったのではないだろうか。

この小説は、百貨店の魔法という名の百貨店の矜持が描かれていて背筋が伸びる。百貨店黄金時代を知るひと、その時代が過ぎても思いがあるひと、そしてなにより百貨店デパートが好きなひとにはおすすめだ。

by月亭つまみ


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