(3)親族ありきのシステム
母親が余命3日と言われたが、いつ「死にました」連絡が来るのだろうか。ワクワク。
そしていろいろ面倒な手続きが一気に降ってくるんだろうか。ビクビク。
と思ったら、父から電話がかかってきた。「便秘がひどいんだけど」。
!?
母が緊急搬送されたほぼ徹夜の夜から出ていない、とのこと。老人が便秘になりやすいことは知っている(先代猫もそうだった)。「薬はいろいろ飲んだのだが、どうしたらいいだろうか」。私の電話番号を入手したら早速これだよ。
そういえば、私もひどい風邪で喉が痛くて水が飲めなかったあと、便秘で苦しんだことがあった。そのときの解決策は、「病院に行って処置してもらう」。なので「祝日なので救急車を呼べば~?」と軽く言って一安心。
数時間後に電話が鳴る。「お父様が入院しました。今すぐ来てください」。えーーー
40代後半(当時)と、80代後半とでは、便秘の重大さが全然違うのね。軽く119番とか言ってしまったことを後悔。いや、しかしそれ以外できないよな…。ていうか、母はまだ死なないのだろうか。
「今、外から入れない庭の木を、家の中経由で剪定してもらっている最中なので、植木屋さんが帰るまで出かけられません」
「じゃあいつ来れますか? 医師から説明をするので、ついでに歯ブラシとか身の回りのものを持ってきてください」
「本人しっかりしてるので、本人への説明でいいのでは? 歯ブラシは売店で買えばいいのでは?」
「そういうわけにはいきません!!」
来て当然、というこのノリはなんなんだろう。親族がいなかったり、遠方だったりする人はどうするんだろう。別に「医療過誤で殺された」とか言わないから、勝手に進めてくれてかまわないんだけど。だって、便秘だよ? 交通事故とかじゃないんだよ??
「じゃあ明日、行けたら行きます」と言って電話を切る。翌日、当然行かないつもりでいたが、「なんで来ないんですか」と何度も留守電が入る。
くー。貴重な休日が!
仕方なく、100均と、15年ぶりぐらいに実家に寄って、指示されたものを持って病院へ。医師の説明は別にどうということはなく、「弱ってるのでしばらく入院するけど、全体的に問題なし」という内容で、やっぱり来る必要なかったじゃん!
また、売店で歯ブラシを買えないのは、コロナで外来患者のいるところに行ってはいけないという決まりだからだそうで、だったらお金を看護士さんに渡せばいいのでは、と聞くと、そういうことはしていません、とのこと。何度も言うけど、親族がいない人はどうするのーーー!?
一方、母の病院からは「死にました」連絡はなく、別の電話がかかってきた。「パジャマの契約が切れたので更新しに来てください」とのこと。
なんと、持ち直してしまったのだ。
死ぬと期待していたのでパジャマを短期間しか契約していなかった。がっかりしたのもつかの間、これこれを買ってきてください、という詳細な電話がしょっちゅうかかってくる。だからそんなん、そっちで買ってくれ! あとで払うから!
実際、職場から病院まではそれぞれ1時間半と2時間かかるし、休みが取れないときもある。「忙しいので行けません。パジャマは毎日かえなくていいのでは?」というと、「それだと虐待になります!」ですって。
じゃあ親族がいない人のことは虐待してるってこと? それとも、別のやり方があるの? なんでそれを私には適用させてくれないの? 仕組みに問題があるのでは? まあこれが、猫の病気だったら悪態つかないから、どれだけ大事に思っているかということなんだけど、逆に言うと、「大事に思う気持ち」に寄り掛かった仕組みだってことよ。
(※お金を払って、入院や死後の事務について事前に頼める団体があるらしいけど、身寄りはないけどお金はある人のためのサービスのようです)
しかも、父の病院から「歯ブラシが間違ってるとおっしゃってるので、至急正しいのを持ってきてください」と電話。ぐったり。「あのー、母の病院に寄って、遅刻して今やっと出勤したところなんですが、これからまた早退して1時間半かけて実家に行って歯ブラシ探して、さらに1時間かけてそちらの病院に行けっていうんですか???」と言ったら、「じゃあいいです」とのこと。なんだ、いいんだ。
後からわかったのだが、特例として、車椅子に乗って看護士さんに売店に連れて行ってもらって、歯ブラシを買ったそうだ。
おいおいおいおい! それができるんなら最初からそうして!!
そういうわけで、20年間絶縁していた両親がいっぺんに入院してしまい、私一人がマネージするという事態になってしまったのだった。