<ドキコの乱/前編>ああ姉さま、止めておくれよ、この胸を。
オバフォーをご覧のみなさま。もはやわたしのことなど遠い宇宙の彼方へすっとんじゃったりなんだりしていることでしょうと思いながら、お久しぶりです。じじょうくみこでございます。
前回の記事から1年半近くが経過してしまったことに、遺憾の意しかないわけなのですが、とにかくわたしはシマ島で、どうにかこうにか生きております。
なにを隠そう今年でシマ島に嫁入りして丸10年を迎えますの。いやビックリ。帰るつもりはなかったけれど、10年もつとも思ってなかった。がんばった。あんたがんばった、くみこ。
そんなことより驚くのは、四十路だったじじょうくみこが五十路を過ぎて六十路に近づいてきた事実であります。
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そんなわけで今年は節目イヤーなので、ちょっとドライブかけていきたいなと思っております。お邪魔いたします。
じつは去年11月に東京で開催された「オバフォー祭り」に出席するはずだったのですが、直前キャンセルしてしまい、みなさまにご心配をおかけしてしまったことがありました(その節はごめんなさい)。今回は、その件についてお話できればと思っております。
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時間が経過しているので改めて、かいつまんでお話しますと、わたくしじじょうくみこは東京でスットコドッコイな四十路独女生活を過ごした後、離島の民ズジョウ・ザビエル氏(ザビ男)と結婚。今はシマ島という小さな離島で、ザビ男とギボのザビママと3人暮らしをしております。
そして、今まで紹介しておりませんでしたが、じつはザビ家にはもうひとり、家族がいました。それが
ザビ男の姉、ドキコ
であります。
ドキ姉さまはザビ男よりひとまわり上の長女で、わたしからすると15歳年上の大先輩。ふだんはご主人と本土で暮らしているので、年に数えるほどしか会うことはないのですが、なんというかまあとにかく強烈なキャラクターでして。シマ島のなかでザビ家はわりと「変人一家」的な扱いをされているのですが、ザビ家の血を最も色濃く表現しているのが、このドキ姉さまだと認識しております。
なんといっても押しが強い。喋る。とにかく喋る。寝る以外ずっと喋ってる。しかもシマ島を出て20年以上は経っているのに、島の誰よりも訛りが強い。鼻先10cmぐらいの距離感で喋りながら、「それでよ、それでよ」と相手の腕をペチペチたたいてくるんだから冷静ではいられません。
なによりドキコがドキコたるゆえんは、出会いがしらにズバッと切り込んでくる喋り口であります。顔を見るなり「今日帰るから1時に送って」とか「今日の夜、店とっといたからね」とか、いきなり言われるのでそりゃあ面喰います。
あるときは、ザビ男と楽しい旅行から帰ってくると、港で入れ違いに島を出るドキ姉に会ったことがあります。旅の余韻で夢うつつだったわたしたちを見るなり
「飼っていたネズミが廊下で死んでたから、かあちゃんが片付けろっていうので捨てたよ~」
と言いながら去っていったときは、心臓が止まるかと思いました。
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ネズミじゃなくてフクロモモンガ…
というか、す、す、捨てた……
ザビ男が溺愛していたモモンガがケージから脱出した結果の悲劇でしたが、もっとこう、ソフトに伝える方法があったのではなかろうか。おかげでザビ男はしばらく廃人のようになっておりました。
あれはなんなのでしょう。相手につけいるスキを与えない戦略なのかわかりませんが、その語り口はひとたび販売員となると、すさまじいカリスマ性を発揮します。
よく街角で地方の物産展が開かれていることがありますよね。ああいう店に立ったときの姉さまといったら「ドキコの前を素通りできる者はいない」といわれるほど商品バカ売れ。ついには追っかけまで現れるほどの人気ぶりなのであります。
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「シマ島にドキ姉あり」
そう言わしめる不思議な引力を持ち、会う人会う人をいろんな意味でドキドキさせるドキ姉さま。その強すぎる個性ゆえに、島に帰ってくるたび「ドキがいるらしい」と良くも悪くも噂が流れるドキ姉さま。「あんな家族とうまくやれるなんてエライ」と、なぜかわたしの株が上がる不思議現象まで起こしてしまうドキ姉さま。
東京にいた四十路のフリーライターなんていう、シマ島ではなにかと浮きがちなわたしを「好きにやればいいんだよ」と真っ先に受け入れてくれたのもドキ姉さま。よそものにはわからないローカルルールも「言われたとおりにするから教えて~」と聞きにまわってくれたのもドキ姉さま。わたしが商品をつくったり文章を書いたりするたびに、「がんばれよ」と言いながら自腹で買って宣伝してくれるドキ姉さま。
いろいろあるけど結局わたしは、彼女のことが案外嫌いじゃないのです。
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そんなある朝、事件は突然起きました。
去年の秋、わたしは出張続きでシマ島と本土を行ったり来たりの日々が続き、疲労困憊になっておりました。最後の最後に大がかりなイベントに借りだされることになり、2日間立ちっぱなしで働いた後、夜行便に乗ってシマ島へ。
早朝、這うように帰宅し、あーやっと家の布団で寝れる……3日後の「オバフォー会」までになんとしても復活しなきゃ……とぼんやり考えていたら、いきなり目の前に人影。里帰りしていたドキ姉さまでした。あまりの驚きでピャッと変な声が出てしまい、姉さま脅かさないでと言いかけたわたしをさえぎって、
「かあちゃんを本土の施設に入れることにしたから」
とひとこと言い放ったのでありました。
はじめは何を言っているのか理解できませんでした。ザビママを、本土の、施設に、入れる……?
ザビママは御年95歳。いつどうなってもおかしくない年齢です。確かに最近は体力の衰えが加速していて、あれだけしていた料理もほとんどしなくなり、寝ている時間も少しずつ長くなっていました。
ただ、畑仕事はまめにしているし、家事も多少サポートはしているものの基本は自分でなんでもやるし、頭は周囲が驚くほどクリアです。毎月健診に行ってドクターコト―のチェックを受け、体調に問題ないとのお墨付き。施設のシの字も出ていなかった、それなのに。
「かあちゃんが言ってきたのよ。老人ホームに入りてえって。だから、決めたから。そういうことだから。うちから通える施設をいくつか探してメールしたから、後でザビ男と見てみて」
そう言うと、踵を返して部屋に戻っていったのです。
えーと、
どゆことぉおおおおおおおー!?
胸がバクバクするのを感じながら、「…とりあえず寝よ」と布団にもぐりこんだ秋の朝。嵐のはじまりでありました。
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ああ1回で終わりませんでした。続きは来週。それではみなさま、また崖のところでお待ちしています。じじょうくみこでした。
text by じじょうくみこ
Illustrated by カピバラ舎
*「崖のところで待ってます。」は不定期更新です。
じじょくみnoteもぼちぼちやってます→★
okosama
じじょくみさん、おかえり〜!
シマ島のザビ家にも強烈な姉様が⁈
諸々心配だけど、お姉さまについては、面白そうな予感しかない!
じじょうくみこ Post author
>>okosamaさま
長らく留守してすみません~💦
お姉さまについてはキャラが濃すぎて
登場するタイミングを逃してきたのですが
ようやく出番が来ました(笑)
はしーば
くみこさま〜お帰りなさいませ。
待ち侘び過ぎて巳年の私の首はぐるぐるととぐろを巻いておりましたよ。
一年半のインターバルをモノともせず、お話しの飛ばしっぷりは台風並み。
楽しすぎます。
後半が待ちきれません!
じじょうくみこ Post author
>>はし~ばさま
お久しぶりぶりでございます~!
しかも1回で終えられず、重ねてすみません(笑)
あとすこし、おつきあいくださいませ♪