『青春18×2』を見て、やらなかった青春を思う。
藤井道人監督の新作『青春18×2』を見た。いや、この映画について多くを語ろうとは思わないのだが、まさかこんな青春映画ど真ん中なタイトルの映画を見て、心揺さぶられるとは思わなかった。映画のストーリーとかではなく、ある場面が刺さってしまったのだった。
それは、映画が始まって割と早めに訪れる場面。旅に出た主人公の台湾人ジミーが列車に乗って旅に出るという場面である。ジミーが雪国へ向かうローカル線に乗っていると、大学生の男の子が気さくに話しかけてくる。妙に明るくて軽くて、なだかイヤな予感がする。これが現実なら僕はきっと鬱陶しそうな顔をして、目も合わせないだろう。でも、ジミーは良いヤツだ。ちゃんと受け答えして、一緒に写真を撮ったりもする。
僕はそんな場面を見ながら、きっとそのうち何かもトラブルに巻き込まれたりするんじゃないかと思っている。けれど、この大学生はトンネルを抜ける直前で、ジミーを運転席に真後ろに立たせてこう言う。「ジミーさん、見ててください。ここはカメラは置いて、自分の目で見て心のシャッターを切るんです」みたいなことをね、言うのだ。ちょっと、うろおぼえだけど。すると、次の瞬間、列車はトンネルを抜けて真っ白な雪景色のなかが目に飛び込んでくるのだ。
その瞬間のジミーの顔がいい。心底感動している。それを見て、大学生も驚いているのだが、見ているこっちは、「お前だよ。お前のおかげでジミーは良い景色が最高の状態で見れたんだよ」と声が出そうになる。
僕はジミーのような出会いを自分から避けてきたような気がする。きっと僕の目の前にこの大学生が現れたら、ちょっとイヤな顔をしながら本を読み始めたり、話しかけないでというオーラを出しまくっていたような気がする。そう思い始めると、僕の人生はそんな「やらなかった青春」ばかりだったような気がして、なんだか泣けてきてしまったのだ。
この映画にはいろんな出会いがあって、登場する人たちがみんなその出会いを大切にしている。僕は怖がりで人見知りで引っ込み思案なので、どうも新しい出会いに尻込みしがちだ。そうか、こんなふうに、戸惑いながらも初めてのものを受け入れるという生き方があったんだなあ。この映画を見ながら、ずっとそんなことばかり考えていた。
青春18×2か…。なるほど、良いタイトルだなあ。
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植松事務所
植松雅登(うえまつまさと): 1962年生。映画学校を卒業して映像業界で仕事をした後、なぜか広告業界へ。制作会社を経営しながら映画学校の講師などを経験。現在はフリーランスのコピーライター、クリエイティブディレクターとして、コピーライティング、ネーミングやブランディングの開発、映像制作などを行っています。