ビザ申請の顛末(あるいは金の話)
なんだかただの近況報告と化している「なんかすごい。」でありますが、先日ビザが下りました。2月24日にメールが来た。
早い!
出したのが12月13日だったので、ほぼ2ヶ月で取れたことになる。
申請手続きをしたとき係の人に「コロナ禍やウクライナ情勢等でビザの発給に時間がかかっており、現在5、6月に申請した人たちに結果が来ている状況です。」と言われた。
なんと!ということは、半年!
「でも、今から出す方は、そこまでかかるということはおそらくないでしょう」
うーむ、この調子だと、ビザの発給は5月くらいか。
通常だとイギリスにビザを申請する際は、余分に金を払うと優先的に処理をしてやんよというえげつないシステムがあるのだが、この間金を払ったところで時間が短縮されないのでサービス休止となっていた。
ずいぶん先になっちゃうなあ、という気持ちと、もしかして5月くらいまで日本にいられるかも、という気持ちがないまぜだ。
とはいえ、この時点では呑気なものである。ビザが下りない可能性については考えていない。
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無事(とこのとき本人は思っている)に申請を済ませ、駅前に戻ってきて、喫茶店でバナナサンデーを食べた。その後、天下の大ポカが発覚し、絶望の淵に立たされたのは、12月にここで書いたとおりである(2022.12月「バナナサンデーその後」)
その後、そんな地獄もぶっとぶような出来事(義母の死)が起きてしまったので、そのままになっていましたが、いったい何をしでかしたのかというと…
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めちゃくちゃ大事な書類を添付し忘れた。
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ビザの申請の際には、アホほどの書類を申請フォームにアップロードしなければならず、それは戸籍謄本(とその英訳)や婚姻証明書(とその英訳)、オットの就労・収入証明、Ieltsテストの合格通知、向こうで住む家の契約書、結婚が偽造でないことをしめす様々な証拠書類などなど、多岐に渡るのですが、そのうちもっとも重要な書類が漏れてしまった。
それは、オットの離婚証明である。
オットは、無軌道な青年時代、若気の至りで結婚したことがあり、その相手とは、その後音信不通となっていた。私と結婚することになったとき、正式に離婚手続きをとったのである。日本から、ネットで見つけた弁護士を通じて、相手不在(所在不明)での手続きだった。
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アホほど書類提出が必要と先ほど書いたが、その書類の中でも、「あんたは「この」書類を出しなさいよ」と向こうが指定してくるものと、申請内容に基づき、それを証明するような書類を自分で考えて、必要だと思うものを添付しなさいよ、というものがある。
離婚証明は前者、ぜったいに忘れてはならないやつだった。
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とはいえ、それでもゆうたら単純ミスである。事情を話せば追加で出せるんじゃない?または「足りないよ」って連絡くるんじゃない?とふつうは思うことだろう。私もそう思(いたか)った。
しかし、先ほど提出の際、こののちは追加の書類提出はいっさいできません、と念をおされたばかりである。ビザセンターの電話番号は、かけてもかけてもつながらず、業務終了時間が過ぎてしまった。そして、申請書類を受理しましたという確認メールもすでに届いてしまったではないか。
申請の注意書きを読んでも、ネットで調べても、「一度出したら修正できない」「書類に不備があると、問答無用で却下される」という情報しか出てこない。
ときおり、「提出書類に不足があると、追加の書類提出を求められる時がある」と書かれているサイトがあるが、これはあくまで「出した書類」の情報に足りない部分がある場合の話であって、出さなかった場合それは「証明できない」とみなされるのである。
離婚証明など、提出しなかったらそれこそ「出せといっとんのに出してこんとは、こいつ離婚できてないんちゃうか」と疑われて一発アウト…。
絶望だ…。半年待たされて却下、それから再提出しなおしてまた数ヶ月…その際払った申請費用ウン十万円はぜんぶパア…。
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私は「大事な書類を出し忘れたのでもうビザは下りない」と絶望のメッセージをオットに送った。
朝目覚めてそれを見たオットは戦慄したことだろう。私だったらぜったいそんなメッセージもらいたくない。
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その日は母親と会う約束をしており、顔面蒼白のまま待ち合わせ場所に向かった。しかしそんなことになっているとはとても言えず、とりあえず「出したは出したが書類不備だと却下されることもあるらしいよー」と示唆することで心の準備をしておいてもらうことにした。
そういうとき、人は母親に泣きつくものなのだろうか。わたしはできない。
その日母親と何を話したかまったく覚えていない。言えずに隠したはいいが、やはりあまりにも挙動不審だったと見えて、その後大丈夫?メールが来た。しかししらを切った。
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家について一人になったとたん、声をあげて泣いた。こんなことがあっていいのか。間違えないように、間違えないようにと慎重にしていたつもりだったのに、どうして最後の最後にもう一度確かめなかったのだろう。お前の人生全てそういうとこだよ!!
もう、ビザが取れるのはきっと夏過ぎで、そうこうしているあいだに世界情勢もまた変わって、行けなくなるかもしれない、ねこたちにだって、何があるかわからない。こういうときの想像力で、私の右に出るものはいない。
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オットから電話がきてまた号泣し、もうダメだ、ごめんなさいと言うと「一緒にやったんだから一人の責任じゃない」「時間がかかってもいつかは取れる」と言うので、ほんとうにこの人は、こういうときぜったいに人を責めないよなあ、と思う。
しかし再提出になると、書類も全部取り直し、お金も払い直しになるんだよー!うんじゅうまん!!
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とりあえず、英語の問い合わせ窓口があるので、オットがそこに連絡してみてくれることになった。
メール1本送るのに、なぜか2.74ポンドの金がかかる。そして「個別の案件にはお答えできません」という塩すぎる返事が返ってきた。すげえ。
そこで、電話での問い合わせもしてみた。すると、ちゃんと人間が出て、生身の人間同士だとそれなりに心の通うやりとりができた。
そこでわかったことは、「書類足りないよと連絡が来る可能性はゼロではない。」「裏技としては、申請取消の申し立てをすると言う手がある。そうすると、却下されるのを待つよりは再提出までの期間は短くなり、支払った金額のうち、前払いしたNHS保険料2.5年分(うんじゅうまん)は返ってくるので、全額無駄になることはない」というものだった。
うーむ、ビザセンターの仏心を信じて、ワンチャン連絡がくるほうにかけるか、煩雑でお金が余計にかかっても、確実なほうを選ぶか…。しかし後者を選んだとしても、各方面から取り寄せた書類、会社に頼んで作ってもらった書類等々は、有効期限が切れてまた作り直しなのだった。なんとかならないものか…。
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そして私たちは、司法書士に相談することに決めた。相談費用は数万円かかるが、背に腹は変えられない。ネットで見つけた、ビザ関係に強いというSolicitorにオットが連絡をとり、オンラインで面会した。離婚手続きの時も思ったが、なんという世の中だろうか。
その結果、驚くべき情報がもたらされた。イギリス国内からなら、金を払えば追加書類が提出できるというのである。
えーーー!?そんなこと、どこにも書いてなかったけど!それに問い合わせ窓口の人も、そんなこと一言もいってくれなかったよ!
すると司法書士さんは笑って、「彼らも知らないのよ」と言ったというのだった。相談窓口とはいったい…。
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その方法とは、所定の口座に100ポンド振り込む。そして追跡調査付きの郵便で、イギリス国内のビザセンターに直接書類を送付する。紙と郵便の世界だった。
さっそくオットが書類を揃え、カバー・レターを添えて郵送した。するとビザセンターから電話が来て、今書類をスキャンして追加しました、と言われたらしい。電話の世界でもあった。
最後の最後は、アナログなのか…。
そして、この世の仕組みとして、金を払うと恩恵がもたらされるということがわかった…世の中金、金なのですね!!
しかし、この救済措置が公にされていないのはなぜなのか。あと100ポンドっていう金額がものすごく雑じゃないでしょうか。とりあえずこんくらい取っとくか感がはんぱない。
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こうして胸をなでおろしたふたりですが、この話には続きがある。
数週間後、ビザセンターから一通のメールが届き、そこにはこのように書かれてあった。
「あなたの申請は受理され、これから審査が始まります。その際、証明書類が添付されていないと、審査を始めることができません。このメールが来てから5日間以内に必要書類を提出してください。さもなくば、書類なしで審査がおこなわれることになります。書類の提出は、イギリス国内での直接提出か郵送で〜」
…証明書類が足りないと言わんばかりの恐怖メールである(じっさいのところは一斉メール)。
そしてそこには、司法書士が教えてくれた例の方法が案内されていたのだった。
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遅いわ!!!!
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そしてさらに数週間後、
「今ビザ申請の結果が出るまでにだいたい120日かかってるよ、でも、もうすぐ優先サービスが再開します!お金を払うと、だいたい15日くらいで結果がでるよ(大意)」
というメールが届いた。ちなみにこの優先サービスの値段は、3万3000円だ。
どんだけ金を取ろうとするんや。不安な気持ちにつけこんで金を取ろうとするヤクザ商法なのか?
このメールが来た時点で、すでに申請してから1ヶ月以上経っていたので、優先サービスを頼むのはやめて、気長に待つことにした。
それから約1ヶ月後、予想外の早さでビザの申請が下りたのである。
優先サービスを頼んでいても、ほぼ同じ時期になったのではないだろうか…。
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お知らせのメールには、添付書類がついていて、
Your application for a United Kingdom (UK) visa (vignette) has been successful.
と書いてあった。
これまで、ビザを取得した人のブログなどを読むと、返却されたパスポートを見るまでは結果がわからない(怖!)、と書いてあったので、もしかして改善されたのならよかったことだ。
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数日後、ビザセンターに行ってパスポートを返却してもらうと、ちゃんとキラキラした時限的入国許可のシールが貼られてあった。
今から90日以内にイギリスに入国し、正式な滞在許可証を受け取って、やっと手続きは終了。効力は、2年半。
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帰りにまた同じ喫茶店に行って、フルーツパフェを食べた。前回のバナナサンデーその後の悪夢を払拭すべくである。
byはらぷ
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※「なんかすごい。」は、毎月第3木曜の更新です。
※はらぷさんが、お祖父さんの作ったものをアップするTwitterのアカウントはこちら。
はしーば
まさに、タイトルどおり「なんか、すごい!」
無事の通過、誠におめでとうございます。
ビザを取ることには、この先も多分無縁の私は少しホッとしています。
はらぷさんの後悔の斜め上をいく自信ありますもの。
Jane
いやこれはこれで、すごい話ですよ。私も書類一つくらい後で出せるんじゃ?なぜそんなに絶望してらっしゃるんだろうと思っていましたが、事の顛末が分かりました。
最初にパッとタイトルを見た時、「ビザ申請の顛末」より「(あるいは金の話)」と金色のミモザの写真が結びついて先に目に入ってきて、なんかファンタジー小説がこれから始まる(単に私がそんな気がするだけだろうけど、ファンタジー小説のタイトルに「あるいは〇〇」とかありそうだから)気がしました。ああ、金(きん)じゃなかったのか….。