秋とBin men
8月の終わり、こちらではぱっとしない天気が続いて、気温は上がっても20度前後、そのまま秋になってしまうかと思われたのだが、9月に入って突然夏が訪れた。
今季初30度。人々が「熱波がきた!」とざわめいたのが面白かった。顔はにこにこと嬉しそうなのに、「もう気持ちは秋だったのに、ついていけないよ!」とか言うのだった。夏の初めは、大陸がすごい熱波に襲われていたのに、イギリスは涼しい(寒い)ままで、「Brexitのせいで熱波も来ない」とか言っていたのに。
「熱波」といえば、去年は「本当の熱波」がきて大変だったらしい。わたしはまだ日本にいたのだが、気温40度の猛暑の中、いくにんもの知り合いから水に浸かって涼をとっている写真が送られてきた。働いてないんかい!と思ったが、こちらの夏は夜10時過ぎまで明るいので、まあ仕事を終えて水に浸かってもまだ外はカンカンである。
基本冷房のないイギリスで、どうやって暑さを凌ぐかというと、とにかく昼間は窓を開けず、熱気を家に入れないようにして、朝晩の涼しい室温をとじこめてやり過ごすのだそうだ。
なるほど…。昼夜の気温差が大きく、機密性の高いレンガや石の家が多い国ならではの作戦だった。去年を体験したオットはといえば、「そりゃあすごい暑かったけど、日本みたいに湿気がないし、何週間も続くわけじゃないから」と、日本の暑さを知ってる私には屁でもないぜというような感じを匂わせていた。しかし、冷房の効いた逃げ場のないこの国で、交通機関や通常のオフィスの暑さは相当なものだったらしい。
そして、いよいよ秋である。先々週くらいに、まるで音を立てるみたいに季節が回り、人々の装いもがらりと変わった。
晴れた日には20度近くまで気温が上がるし、木々の多くはまだ緑で、いったい何がわたしたちをして「秋が来た!」と思わせているのだろうと知覚を澄ませてみると、風と、匂いと、音である。空気が湿気を含んでやや重くなり、風がいろいろな方向から、かたまりになって吹くようになり髪を散らす。音は木々の梢からやってくるのだが、夏にポプラやヤナギの木の葉擦れがおこす、川音のような若いささやきとは違うのだった。上空でうねる空気が、成長し切って乾き始めた葉を枝ごと揺らす、ごうごうとした音がばふんばふんと耳に届く。そして、木の皮が湿気たような、わずかに黴のような匂い。
野原では(このあたりには野原ばっかりある)、アザミが枯れ、ツリフネ草の群生がピンクの花を揺らし、バラ科の植物がありとあらゆる赤い実をびっしりと実らせている。
今日は、こちらのゴミ事情のことを書こうと思っていたのだった!
前々回の「なんかすごい。」で、Janeさんがお住まいの国でのゴミ事情を書いてくれ、それがものすごく面白かった。ゴミ事情って、国によってシステムも慣習もほんとうに違うんだなあ。というか、きっと同じ国の中でも、住んでいる地方や、都会か田舎かによっても違うんだろう。
わたしも、イギリス全土のことはわからないけど、住んでいる地域のことについて書いてみたい。
犬の糞もんだいでいえば、さすがに道路の真ん中に、ということはあまりないけれど(ないことはない)、一歩草むらを歩けば、そこは野生のトイレである。野原や芝生、川沿いの道といった広い場所では、ほとんどの犬はリードなしで歩いているので、彼らがどこでうんこをしたか、飼い主もあまり気にしていない(ような気がする)。しかし町中には、犬の糞を捨てられるゴミ箱がいくつも設置されているので、多くの人は拾っている(と思う)。
このあいだ散歩をしていたら、playing field(という名の野原)の入口の看板に「ここは子どもの遊び場につき、犬の糞禁止」と書いてある場所があって、その書かれぶりからすると、ふつうの野原(common land)ではまあいいか…、とされている気配が濃厚である。さらにいうと、野原では牛の皆さんが自由に過ごされており、その糞は犬の比ではない。にんげんが日が暮れてから野原を歩く際は、足元に気をつけねばならない。
そして糞といえば、ガンの糞がすごい。ヨークの町の川沿いや水辺には、カナダガンがたくさん住んでいるのだが、彼らはその態度とともに、糞もなかなかのものである。
またうんこの話になってしまい恐縮です。
ごみ収集関連でいえば、Janeさんの言う「自分ちのゴミ箱に入り切らなかったらご近所の空いているゴミ箱にいれてよい」システム(?)には仰天した。どんだけおおらかなのや。今は空いていても、ごみ収集の日までにどのくらいゴミが出るかわからないじゃない…?その場合は、自分もまた別の家のゴミ箱に入れたらいいのだろうか…連鎖…。
わたしもわりと容器などをきっちり洗って出したいタイプで、空になったあとのゴミ収集箱が汚れているのもいやなので、Janeさんの気持ちがわかります!
あと、ゴミってすごくその家の様子がわかってしまうので、あんまり人んちのゴミと自分んちのゴミを混ぜたくないな…と思ってしまったわたしは偏狭だろうか。だれがチェックするわけでもないのにね。
私の住んでいる町のごみ収集は、週に1回、水曜日。通常ゴミの日と、リサイクルゴミの日が交互にやってくる。つまり生ゴミも、2週間に1回しか回収がない。
日本で週に2回燃えるゴミの日があったことを考えると、ものすごく少ない。しかしその代わりにこちらでは、私の胸の高さくらいまである、車輪とハンドル付きの大きなゴミ箱(ウィリービンと呼ばれている)が各戸に供給されている。
家の中のゴミ箱がいっぱいになると、外に置いてあるそのウィリービンに移しに行く。ちなみに使っているのは、昔ながらの黒いビニール袋です。
リサイクルゴミ用としては、黒くて四角い蓋付きの箱が3つ支給されていて、そこに紙のリサイクル/それ以外のリサイクル(プラ、ビン、金属など)を、それぞれ分けて箱に入れるように決められている。
火曜日の夜になると、翌朝の回収に向けて、各戸がいっせいに通りにゴミを出す。裏庭から家の脇の通路を通って、ゴロゴロとウィリービン(またはリサイクルゴミ箱)をひっぱっていく。リサイクルの場合、強風でゴミが飛ばされるおそれがあるので、天気予報をみながらときには対策が必要である。
余談だが、テラスハウスにも前庭があるタイプとないタイプがあって、うちはないタイプ(玄関開けたらそのまま道路)。でも裏庭があるおかげで、黒々とした巨大なゴミ箱を玄関前に置いておかなくてよいのがありがたい。
さて、いよいよ水曜の朝である。だいたい9時半くらいになると、遠くから轟音をあげて巨大なトラック回収車がやってくる。そして順繰りに、オレンジ色の服を着た男の人たちが、各戸のゴミを次々に回収していく。
2週間分のゴミが入ったそうとう重いウィリービンを、どうやって空けるのだろうと思っていたら、回収トラックの後ろに2つの昇降機のようなものが付いていて、ビンをそこに設置すると、台が上がってビンを傾けてくれるのだった。これで2戸分のゴミを同時に処理できる。少しでも腰に負担がかからない装置があってよかった。設置→上昇→ゴミ空け→各玄関前に戻す、の一連の作業は、びっくりするほど早い。
しかしわたしがひそかによりかっこいいと思っているのはリサイクルゴミの回収で、通りの両側を、でっかい男の人が片手で箱をすくいとっては、歩きながらスイングするみたいにどかんどかんと、道の真ん中を同時に進むトラックの回収口に中身をあけていくのだ。
日本のゴミ収集で、回収車の後ろに足をかけ、ひょいっと飛び降りては走り回ってゴミを回収していく、あの身軽な格好よさとはまた違った、重量級のクールさである。
わたしは毎週水曜の朝に町に出かける用事があって、よく家を出る時間にゴミ回収に出くわすのだが、通りの端から彼らが箱を次々に空けながら邁進してくる様子は、ちょっとしたスペクタクルである。そして秋の気配を感じるようになってから、彼らのオレンジ色の上下が、まるで落ち葉のトルネードか炎でもくぐり抜けてきているように見えてしまい、そのかっこよさは増すばかりだ。
ところで、彼らのことをこちらでは一般的にBin manという。これがBin menと複数形になると、タフな職業集団に対するある種の尊敬のような響きが生まれる気がする。それはBin menに限らないけれど、社会に不可欠な仕事を担っている人間の矜持と、同じ職能人同士の連帯、かつての強い労働組合といった背景からくるのかもしれない。
このmenという呼び方も、きっと今後は変わっていくのだろう。
彼らが去った後には、空になったゴミ箱が、歩道にごろごろと転がっている。それもまた、ガンマンが夕陽の中に去っていったあとみたいで格好いい。
By はらぷ
Jane
コメントしようと思っていながら早一ケ月。
うちから3分の市役所の庭園にもわんさかいます、ギースと呼んでいますが、多分カナダガンと同じ。時々彼らが道路を横断する際には、車はただ待つしかありません。一度、曇天の寒い夕方にその市役所の庭園の一角で、50羽ほどのギースが集結してただならぬ雰囲気で立っているところにたまたま通りかかりました。「ああこれからまさに避寒に飛び立とうとしているのか?」と思うと同時に、いったい彼らはどうやって、はい、今日飛び立つので、みんな日没時にあそこに集合ね、って意思疎通してるんだろうなと不思議な気がしました。
ギースは牧歌的な見た目だけど、我が家の庭をのしのし歩いて地面をつついている軍団は何といっても七面鳥ですよ。結構大きくて獰猛な外見、よく羽根広げてます。カリーナさんがザツダンで「クジャクって微妙」とおっしゃってましたが、七面鳥は微妙以上〇〇寄りかな…。
ゴミの話追加ですが。一軒家を分割したアパートに住んでいた時、ゴミ箱は各家族で違う場所に置いていたのですが、ゴミ出しの時は並べて道に出していました。そして取り入れる時に、やっぱり人間きれいなゴミ箱を自分のところに持ってきたいと思うのかなー…入れ替えられたりってこともありましたね、えっただのミステイク?勿論入れ替え返しましたけどね、自分のおおらかさを試されますね…。
戸建てでも、この夏にはゴミ収集の後に、私の家のゴミ箱が結構な距離の道を渡って向かいの家の庭の茂みの奥深くの、その家のゴミ箱の後ろに隠れてたってこともありましたね。私には見えませんでしたが、私が裏手の隣人に、「あなたが持って行ってませんか」と聞いたら、彼が鋭く発見してくれまして。で、その、うちのと思われるゴミ箱が隠れてる家の呼び鈴を何度も押したら(家に人がいるのは分かってた)、誰も出てきませんでしたけど、一時間後に見たら、ゴミ箱はいつの間にか、うちの前まで帰ってきてましたわ。底についた車輪をガラガラと引く音もせず…ミステリーですね。
そして今、うちの5個あった落ち葉用ゴミ箱の1つが、収集の際になくなって半月。今回はもう諦めです。落ち葉の回収は、はらぷさんのところのリサイクル回収のBin menの様子と同じです(リサイクルゴミはダンプ横についているクレーンで持ち上げられて逆さにされて中身回収)。回収時間帯に留守番していた子ども曰く「回収時にゴミ箱が壊れてそのまま持っていかれたんじゃない」。今頃はプラ破片入り腐葉土となり…?
Jane
はらぷさん、普段の交通手段には何をお使いですか。
私は買い物は車、通勤は車かバス、都市部まで遠出の際はバス+電車です。
この中で一番面白ドキドキに遭遇するのはバスですが(路線によっては乗り合わせた乗客から危険を感じることも)。
先日、仕事帰りに始発停留所で、雨が降っていたため少し早めにバスに入れてもらって15分くらい待っていました。乗客は寿司食べてる私とリンゴ食べてるお姉さんとコーヒー飲んでるお爺さん3人。その3人を観客に、車掌さんが鉄棒体操を披露。つり革の垂れてる棒に両手で掴まって、重量のかなりある下半身を筋力で持ち上げ足を向かいの鉄棒の上に。バスが左右に揺れました。鉄棒、たわんじゃったんじゃ?