第71回 わたしときどきレッサーパンダ
風雨の強い地域の皆さま、無事過ごされていますように。いつでもどこでも自然災害の可能性がある昨今ですが、ふだんは(できれば)平穏さを味わうことを忘れないでいたいです。
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「わたしときどきレッサーパンダ」は、2022年のDisney/PIXARの映画です。コロナ禍で劇場公開を見送り、3月にDisney+で配信を開始しました。
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時は2002年。
トロント最古でユニークなお寺の1人むすめメイリン・“メイ“・リーは活発で聡明な13歳の女の子だ。彼女とミリアム、プリヤ、アビーは大の仲良し。そして5人組アイドル4TOWN(フォー・タウン)の大ファンだ。
ある日の帰り道、4人はコンビニエンスストアの前を通りかかった。友達3人は店員をセクシーだと見惚れるが、メイには理解できない。そんなことより早く帰って自分の責任を果たさなきゃ。お寺の門をくぐったメイは、境内でくつろぐ人々にあいさつし、スタッフバッジを付け、ママと本堂で祈り、お寺の境内を掃除し、訪れる人々を案内し、そして無事閉門した。
家でママとテレビを見ながら餃子(小籠包?)を包んでいると、4TOWNコンサートツアーのCMが流れた。「(彼らの」どこがいいのかわからない」と否定的なママに、メイは「学校にもファンの子がいるみたい。」と遠回しに肯定を返すが、「それってミリアムのこと?」という不機嫌な声をきいて、メイはママが友人をもよく思っていないことを察するのだった。
その夜メイは勉強していて、ふとストアの店員が頭に浮かび、彼のイラストを描きはじめる。すると止まらなくなってしまい、ひとには見せられない妄想イラストを次々と描いてしまった!そこへデザートを持ってきたママが、その(見られると恥ずかしい)イラストを発見してしまうのだ!
そこからのママの行動は必見だ。過保護というには不十分。エクストリーム過保護なのだ。これほど「引くわ…。」というセリフがぴったりなシーンも他にないだろう。メイの気持ちを想像するといたたまれない。
案の定メイはその晩悪夢を見る。そして朝起きると鏡のなかにレッサーパンダに変身した我が身を発見するのだった。なんとか気持ちを落ち着かせて人間の姿に戻ったメイは、レッサーパンダのことを家族に隠したまま登校するのだが…。
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と珍しく事こまかに導入部分を書きましたが、こんなことで面白さが減ったりはしない!先の導入部分だけでも楽しいシーンがたくさんあるし、この作品、どこを切り取っても面白いのです。
まずメイのキャラクター造形そのものも性格設定もとても魅力的です。大口を開けてあははと笑う表情はじゃりン子チエか風大左衛門か。3Dキャラだけれども2D的な動きで、目をキラキラさせたりぴょんぴょん跳ねたりする様子は、日本の漫画やアニメ見ている者には親しみやすいのです。そして家族や友人との関係を自ら編みなおしていく聡明さ。2002年の出来事だからCDやガラケーが出てきて懐かしい!ママの過保護っぷりも見ものですよ!
画に関してはもはや美しくて当たり前のPIXARですが、それにつけても、本筋とは関係ないほんの数秒のシーンまでも流麗さを見せつけてきます。例えばパパの調理シーンでは、おいしそうな食べ物の表現がますます洗練されています。洋服や食べ物がアップになったときの完璧な素材感や、レッサーパンダを見上げるおじいさんの様子などなど。細部まで詰められた映像はどこで止めても美しく、おもしろく、見応えがあります。
お寺のしつらえ、翡翠の装飾品などの道具立てが東洋的で身近に感じます。それらがストーリーの中でどんな意味を持ち、どう使われているのかは、クライマックスのお楽しみ!
思春期のあれやこれやを、こんなに可愛く楽しくコミカルに見せてくれる映画は他にありません。げらげら笑ってほっとする映画です。そのうち劇場公開もしてほしい。できればメイらの「日常」を描いた一話20分程度のシリーズアニメを作ってほしい!
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この夏映画館では「バズ・ライトイヤー」と「ONE PIECE FILM RED」を見ました。(メモです)
*初出時、ワンピース・フィルム・レッドのタイトルを間違えていましたので。正しい題名に訂正しました。