〈 晴れ、時々やさぐれ日記 〉 ああ、人生ゲーム。ジンセイとゲームのあいだ
――— 47歳主婦 サヴァランがつづる 晴れ ときどき やさぐれ日記 ―――
まったく。5年生にもなって、「人生ゲーム」ごときで泣くやつがあるか。 まったく。47にもなって、「人生ゲーム」ごときで泣かせるやつがあるか。
日曜に、まったり太郎のお友だちをよんで、小さな小さなクリスマス会をした。本当は彼は今年、自分の誕生日会をしたかったのだけれど、今月はじめの誕生日の前後の週末が忙しかったのと、お友だちの都合などでクリスマス前の日曜になった。
もともと太郎は「誕生日会」と銘打ちたがっていたのをわたしたち親がそれにストップをかけた。日にちがズレこんだので、今度は「クリスマス会」としてプログラムなどを書き込んだ招待状を書きたがったけれど、それも結局「あんまり大げさにしないで、集まれるひとで集まってなんとなくみんなで楽しくやろうよ」という、親の意向に従わせた。
きっと太郎のアタマの中には、折り紙のレイなんかで飾り付けをした「ザ・ホームパーティー」の画像があったのだと思う。来年は6年生で、この時期はみんなそれぞれ忙しいので、今年のようにのんびりクリスマスシーズンを楽しむことはできないかも知れない。そう思うともう少し、彼の希望にそってやっても良かったかなという思いが残る。
ただお友だちの中には、事前に何か用意するものはないかと訊ねるひともいたし、たまたま金曜にお会いしたお母さんは「日曜にいいの?」とお訊ねがあったし、この季節の集まりはどうしてもお互いに気を遣うことは大人のならいなのだ。
この時期、子どもが参加する行事には、ちょっとしたプレゼント交換が予定されていたり、サプライズの贈り物があったり、それはそれで子どもにとっては心はずむことだとわかってはいるけれど、わたしたち両親は「うちはそれはやめておこう」と、意見が一致していた。
日曜はホストの太郎が、玄関とトイレの掃除をし、わたしはいつもは敷かない赤いクロスをテーブルに広げてささやかな「クリスマス」飾りをした。太郎は時間が待ちきれず外までお友だちを迎えに行き、少年たちはまず家の中で風船を打ち合って汗までかいて大笑いをした。
当日も「今日はなにをするの?ほんとになんにも持って行かなくていいの?」と電話をくれたSくんは、真っ赤なりんごとおみかんを持ってきてくれた。子どもたちは、冷凍パイシートを使って小さくて簡単なパイ作りをし、ガラス蓋のお鍋を使ってポップコーンを作った。たったそれだけのことなのに、少年たちの笑いはパチパチとはじけ、台所は賑やかだった。
単純な作業にも、それぞれの個性が出る。みんな同じ11歳だけれども、手の大きさがそれぞれ違う。まったり太郎の手はおそろしく子どもっぽくて、他のお友だちは比べてみるとわたしとほとんど同じ大きさだった。「あのおじさんは手が小さいんだよー」と、ダイニングの片隅でPCに向かっているシュジンのことを話題にすると、少年たちは「小さい手のお父さん」と手の大きさ比べをして笑った。
まったり太郎は、誕生日におばあちゃんにもらった「人生ゲーム」をしたがっていた。オーブンから一口大のパイとお鍋からはじけたばかりのポップコーンを運んで、わたしたち親も参加して「人生ゲームオブザイヤー」をした。ゲーム運びにも個性が出る。途中まではワイワイと楽しくやっていたというのに、太郎がだんだんふてくされはじめた。職業選択でビジネスマンになった彼は、終始鳴かず飛ばずのぱっとしない展開に不満を言い始めた。他のお友だちが、フリーターでも株で大儲けしたり、ネオヒルズ族でも堅実な資産管理をする中で、あまりにドラマのない自分の「人生」を「ぼくだけこんなのはつまらない」と言い始めた。
こうして参加してみると、ゲームのルールも実は曖昧なところがあったりして、そこは一座のローカルルールでやりすごすのだろうけれど、太郎と友達のやりとりは、それぞれの個性をあらわす顛末になった。アタマの堅い太郎は「だったらぼくはここでやめる」と、ホストとしてあるまじき宣言をし、わたしはそこで沸点に達していたのだけれど、その場をとりなそうとするお友だちの配慮もあってなんとか平静を保ち、お開きの約束の5時になった。
ふくれっ面で道までお友だちを送った太郎は、家の中で泣き出し、わたしは猛烈な罵声で叱りつけた。「ゲームごときで11歳にもなるひとがこの醜態はなんたることか。おまけに今日は自分でお友だちを招待しておきながら、最後はみんなに気まずい思いまでさせるとは、呆れてものも言えん!あんたの好きな高杉晋作は辞世の句で何と言った?おもしろきこともなき世をおもしろくすみなすものは??」「…こ、こころなりけり…」
呆れてものも言えん!と言いながら、延々太郎をどやしつけた。
ああこの子は、本当にまだ子どもで不器用な子だなーと思うと、単純な怒りとはまた別の複雑な感情がこみ上げた。
夜になってお風呂につかっていると、わたしは何に怒ったのかがわからなくなった。ゲームごときで。子ども相手に。。。
自分の人生にドラマがなくてつまらない、とゲームの中で太郎は言ったけれど、それはわたしの胸中のつぶやきなのだ。
こんなにとるにたらない人生なら、いっそ途中で棄権したって結果は同じだというセリフも、口にしないだけでわたしのつぶやきなのだ。
いや、ここは正確に。「少し前までの」という言葉をつけたそう。
「人生ゲーム」だなんて、ほんとに人をくったおかしな遊びだ。経済成長期に子どもだったシュジンとわたしと、平成も14年生まれの子どもが同じ盤上で「人生ゲーム」をする絵柄もなんだかシュールだ。
わたしは最近、「人生はゲームじゃなくて趣味だな」と思うようになった。「人生が趣味」だなんて、うっかりそんなことを口にすると今度はわたしが親から叱られるハメになるのだろうけれど。
でも、思うのだ。人生は趣味だと。趣味だと思っていいのだと。
そもそもわたしは、いくつになっても自分の人生の専門家にはなれそうにない。いつも歳月に押し出されるようにして年齢を重ね、おろおろと ときにのうのうと「好きな」方面へ吸い寄せられている。大きなドラマや崇高なヴィジョンはわたしの人生にはそぐわないものととうにわかっている。それでいてふっと、鼻先を一瞬かすめる見えない何かに細胞がざわめく。そういうものでいい、そういうものがいいと、40代も後半になって思えるようになったのはこれはひとつのギフトなのだ。
誰かと競ったり、誰かと比べたり、その中で自分を切磋琢磨することを楽しめるひとはそちらの趣味を選ぶのだし、そういうことを楽しめないわたしは、もっと別の………少年たちや自分のぐるりをふところ石のようにあたためていればいい。。。両者のあいだに優劣や嫉妬や敵意はこれっぽちもさしはさむ必要はないのだし、両者の違いを面白がっていられればそれこそがきっと素晴らしい。。。
わたしにとっては、人生はゲームじゃなくて趣味だ。
声に出しては誰にも言う気はないけれど、自分ではけっこう腑に落ちるつぶやきを体内に隠し持っている感覚はまんざら悪くはない。来年の今頃、自分の一年前の無知蒙昧を恥じるときがきたとしても、それはそれでいい気がしているのだ。今のわたしは。
さて。今宵のクリスマスイブを楽しみにしている子どもたちの枕元に、何か気持ちがきらきらするような素敵なプレゼントが届きますように。そして大人たちにも、何かからだがぽっとあたたまるような素敵なおしゃべりのひとつふたつがありますように。そしてこういうクリスマスが、来年もそのまた来年も訪れますように。。。
~わたしのつたなすぎる日記にお付き合いくださったみなさまへ。~~~
サヴァランの「晴れ、時々やさぐれ日記」は、定まらぬお天気同様、一年を通じて迷走につぐ迷走を繰り返して参りました。冗長なつぶやきにお付き合いいただいた寛容なみなさまに、どうぞ良いお年が訪れますように。メリークリスマス&ハッピーニューイヤー。 (サヴァランより)
~新春企画の「物欲俗欲福笑い」~~~
今のところ6名の方々から、たのしいメールを頂いております。こんなところでなんなのですが、「物欲」にメールを下さった皆さま、お忙しい年末にありがとうございます!引き続き、新年5日までこちらでメールをお待ちしております。どうぞ、「アッ!」という思い付きや、積年の「ほーじーいー」の思いのたけを、「どうする?0ver40」新春企画でご披露ください。初笑いの準備を整えてお待ちしています!
青緑
初めまして。しみじみ読んじゃいました。「人生ゲーム」子供たちが小さい頃、よく週末昼食後から夕食前まで家族でやりました。楽しかったー、単純に。今はそれぞれリアルに人生ゲーム。サヴァランさんは趣味なのですね。自分は旅かなと思います。サヴァランさんのように上手に表現できないのが残念ですが、時間のなかをあちらこちら興味のあるほうへと旅している感覚です。周りや自分に引越しが多いからそう思ってしまうのでしょうか。さて今日はイブですね。自分へのプレゼント「物欲」にメルした一部、ウォークマンを買ってしまいました(笑)一部ですから、ご了承くださいませ。聴きすぎて、踊りすぎて、思った以上に楽しすぎて、子供に「いびきかいて寝てるよ」とかなり疲れてしまっています、アハハ。
メリークリスマス&ハッピーニューイヤー!
サヴァラン Post author
青緑さま
コメントありがとうございます!お返事遅くて申し訳ありません。ああ、休日の人生ゲームの昼下がり…いいですねぇ。家族とのそういう時間の温度の記憶に今も支えられてるなあと思ったりします。ほんとにね。単純に楽しめばいいものを。ゲームごときであんなに火を噴く必要があったのかと脱力したまま一週間を過ごしました。青緑さまの「時間のなかをあちらこちら興味のあるほうへ旅している感覚」って、ああほんとうに素敵です。
「物欲」、早くもリアルに実現なさったんですね!(笑)「思った以上に楽し過ぎ」って、それ至高のお買い物。ウォークマンをBGMに小さな旅、大きな旅、存分に楽しんでくださいませ!こころはずむコメント、ありがとうございました!佳いお年をお迎えください!