【月刊★切実本屋】VOL.35 今回は「切実図書館?」
6年前から小学校で司書をやっているが、今年度から、今までの小学校に加えて、中学校でも働くことになった。義母が特養に入ったことで介護が一段落したことと、残り時間が少ない学校司書の経験の中に「小学校だけじゃなく中学校も加えたい」と、ある日、発作的に思い立ったのが理由だ。
なのになのに、一度も出勤しないまま5月も中旬である。まさか、2020年度がこんなスタートになるとは。人生、いくつになっても初めてだったり、想定外のことばかりで、生きてみないと何もわからないものだなあと痛感している。
そんなわけで、現在は「在宅研修」という名目で、勤務予定曜日(私は火木金の週3日)の勤務時間は、勤務予定校向けの図書だよりや選書リストやブックトークの台本や掲示物…などを作っている。
この作業、前年度から勤務を継続している学校(私は小学校1校)はまだいい。図書室を「知っている」から。本の品揃えはだいたい把握しているし、前年同月は何をテーマにした図書だよりだったかもわかっている(自分が作ったのだから当然だ)。「図書担当は前年度と同じ先生」という情報がすでに入っているのも心強い。
でも、新規の勤務先になる中学校はまったくそうはいかない。図書だよりを作ろうにも、図書室にどんな本があるか皆目見当がつかないし、図書だよりが全生徒に配布されるのか、クラス掲示なのかも定かではない。そして、図書担当の先生がもしめんどくさいタイプだったら、仕事以外でのストレ…(以下、自粛 in 自粛)。
一度も行ったことのない図書室の掲示物を作るというのもシュールだ。今まで、いくつかの小学校の図書室に勤務してみて、同区内の同規模の小学校といえども、学校によって、図書室の大きさ、レイアウト、蔵書構成、なにより雰囲気、がそれぞれ全然違うのを実感している。公立の学校って、自治体内ではなにかと横並びを強いられることも多いと思うが、図書室に関しては「1校1派閥制」を採用しているらしい。もちろんウソだけど。
ましてや、私にとっては完全に未開の地である中学校図書室だ。自分の勤務するそこがどんなものなのかイメージが掴めない。手探りですらない感じ。でも、お給料をもらう以上、それなりに仕事をしないと寝覚めが悪いので、ぶつくさ独り言を言いながら作業を進めている。
学校司書にもいろいろなタイプの人がいる。小学校あたりでは「かわいいディスプレイ命!」とか「絵本大好き!」「読み聞かせサイコー!」派の司書も多いが、私はそのどれでもない。すみません。
どちらかというと、とち狂ったように大小の特集コーナーをそこここに乱立(?)させ、各テーマに沿った本をあちこちの棚から物色し、ふだん背表紙しか見えない本の「面出し」(本の表紙を見せる)や、図書だよりでできるだけ多くの所蔵本を紹介することや、子どもたちとのおしゃべりに血道を上げるタイプである。そしてあわよくば、中学校でもその路線を続けたいと思っているのだ。
となれば、肝はやっぱり「どの本を選ぶか」だ。そのためには、図書室にどんな本があるか知りたい。ものすごく知りたい。こっそり勤務中学校に忍びこみたいくらいだ。なので、私の発するぶつくさは、どんな本があるのかわからない、忍びこむことができない、不満によるものだ。
ちなみに、現時点で作り終わった図書だよりやブックトークのシナリオや掲示物…などで力強く推薦した本は以下である。
『さざなみのよる』木皿泉/著(河出書房新社)
『このゴミは収集できません』滝沢秀一/著(白夜書房)
『奇跡の本屋をつくりたい くすみ書房のオヤジが残したもの』久住邦晴/著(ミシマ社)
『メメント・モリ』藤原新也/著(朝日新聞出版 復刊版)
『がっかり行進曲』中島たい子/著(筑摩書房)
他にも、ベーシックな本も何冊か選んでいるが、「力強く推薦した」のは上記の5冊だ。そして、賭けてもいいけど、この5冊はこれから行く学校の図書室にはない…と思う。
力強く推薦できたのは、自分が堪能したから、以外にも大きな理由があって、それは現在、これらは自分の手元に現物があるからである。他にも、中学生にオススメしたい本はあるが、それは図書館で借りて読んだものだったり、最近の引っ越しでうっかり処分してしまったものだったりして、見ながら書くことができない。記憶をたどったり、インターネットで検索しても書けないことはないが、なんだか迷いがある。しょっぱながそれでいいのか、みたいな。
というわけで、非常事態宣言による公共図書館の閉館が、個人的にはとても痛い。
by月亭つまみ