【月刊★切実本屋】VOL.78 自伝 適齢期について
『カニカマ人生論』(清水ミチコ 著)と『ひとりじめ』(浅田美代子 著)を続けて読んだ。
ふたりには案外たくさんの共通点があると思う。まず、どちらも芸歴の長い60代。ほぼずっと第一線で活躍していて、同じタイプの芸能人がいない不思議な立ち位置。そして、なぜか芸能人としてのピークという概念が通用しない感じ。なんならずっとピーク、もしくはこれからもうひと波来るんじゃないか‥みたいな。
その他にも①ガツガツして見えない ②過度なアンチエイジングをしていなさそう ③マイペースで気楽そう ④建前より本音で話す印象 ⑤弄られ上手 ⑥名前が似ている など主観でいいならばいくらでも似ているところが浮かぶというものだ。
というわけで、ミチコさんとミヨコさんである。ふたりは実際にも仲が良く、先月(2024年2月15日)行われた【浅田美代子 50th Anniversaryコンサート】は(行きたかった!)はサブタイトルが【〜清水ミッちゃん頼みの50周年〜】である。自分のコンサートのタイトルに別の芸能人の名前を入れるってどうなの?だが、それも「浅田美代子なら(だから)許される」という感じ。実際、幕が上がって最初に登場したのはミヨコさんになりきったミチコさんだったそうだ。たぶん、その後にご本人が「もー!やだー!」なんて顔を手でパタパタあおぎながら登場したんだろう。ああ、見たかった。
そんなご両人が、相次いで自伝エッセイを出していた。これは偶然なのか必然なのか。自伝に適齢期があるというのか。
『カニカマ人生論』は、山あいの地方都市で生まれ育った、山っ気がある父親を持つ気弱な少女時代のミチコさんが、意外なようで、さもありなんでもある。父親の再婚で、幼い頃に家に美しい継母を迎えるという、なんなら1960年代に一世を風靡した三浦綾子先生の小説に寄ってもよさそうな環境に育ちながら、おかあさん大好き!となり、その後に生まれた、今じゃ清水ミチコライブでおなじみの十歳年下の弟イチロウを溺愛するというのもなんだか彼女らしい。
ミチコ父は堅実なタイプではなさそうで、店(ジャズ喫茶)の調度にも凝ったりしたらしく、それでも清水家の経済状態は、子どもの将来に影を落とすレベルではなかったようだ(借金はあったらしい)。なのに、自分の進学先として授業料の高い音大を選ばなかった(選べなかった)ミチコ十八歳!(ここは『アイコ十六歳』のイメージでどうぞ)。このあたりが地方在住だった同世代の自分にはしみじみよくわかる。
わたしの家庭環境は論外だったが、当時は周囲にそんな空気があった。家から通えるエリアに大学が存在しないという地方の人間は、進学の際、入学金や学費だけではなく生活費が丸々かかる。貧しい家庭でなくてもそれはけっこう家計を脅かす額で、同級生の多くが親に対して「申し訳ない」という気持ちがあった。だからみんな、案外真剣に金銭面のことも考えながら志望校を選んでいたのだ。
ミチコさんは東京の短大に進学し、上京後にバイト先で出会った人々の縁で芸能活動をはじめる。渋谷ジアンジアンの初ライブで永六輔に見染められた(?)経緯も、シンプルだが滋味がある。永さんに言われたという「芸はプロ 生き方はアマチュア」ってなんて素敵な言葉なのだろう。人と調和(ハーモニー)をとりながら市井を生き、ここぞという場ではタガを外して自分を出す‥能力を貯蔵できる分、下手なプロよりアマチュアの方が瞬発力があってたくましいのかもしれない。
一方、ミヨコさんの『ひとりじめ』は、樹木希林の死がきっかけで書かれた本だ。あとがきにもそのあたりの経緯が記されている。ちなみに、浅田美代子が林真理子や中園ミホとも親しいことにちょっと驚いた。「ミヨコさん、友達の守備範囲、ひろ~い!」(ここは夢グループの保科有里さんのイメージでお読みください)。なので、この本には常に樹木希林が居る。樹木希林がミヨコさんに言ったという「私の人生の語り部になって」が忠実に守られている内容だ。
ただ、芸能界に入るきっかけとなった伝説のドラマ「時間ですよ」のオーデションで浅田美代子を選んだ審査員のひとりだった、悠木千帆こと樹木希林との長い歴史を語ることは、浅田美代子史を語ることでもあるわけで、生まれ育った家庭環境、ドラマ出演とアイドル歌手としての日々、吉田拓郎との交際と結婚と離婚、その後再開された芸能活動は「ああ見えて骨太な人生」語りにもなっている。
正直、文章には気になる箇所がいくつかあった。たとえば、自身が世間のイメージとは違って料理好きであると書かれた章にある「あらゆる食材を容易に扱えるのは、7年間の主婦生活のおかげだろうか」は、その表記はあまりに雑じゃない?と思ってしまった。あらゆる食材を容易に扱える人なんて、プロでもいるんだろうか、とわたしなんぞは思ってしまう。あらゆる→ほとんどの 容易に→自由に に変えるだけでまったく違和感がなくなるのに、プロの書き手ではないとはいえ‥だからこそ、文藝春秋の担当編集者、そこはしっかりするところだぞ、と思った。
とはいえ、樹木希林論としても、昭和~平成~令和を、振り返ればいつのまにか独自のスタンスで歩んできた、飼い慣らされた感じがしない芸能人の自伝としても、なかなか面白い。
それにしても‥樹木希林さんは病院から自宅に帰った日の夜に亡くなったのかあ。わたしの母親も24年前、転院先の大きな病院から地元の病院に戻った翌々日、息を引き取った。良かれと思った転院が身体の負担になったのだと長いこと悔やんできたが、この本で、希林さんが亡くなる数時間前、家のベッドで刻んだ葡萄を舌の上で転がして汁を舐め「おいしいねぇ」と味わっていたということを知り、わたしも、戻った日、大きな病院では母に食べさせることができなかったアイスクリームを買ったことを思い出した。母はおいしいおいしいと舐め、その翌日にさほど苦しむことなく逝った。もしかして、戻ってこられてよかったのかなあと『ひとりじめ』を読んだことで初めて思えた。
ふたつの自伝エッセイを読んで、確かに、60代は自分史、自叙伝を書く適齢期かもしれないと思った。まだ一般的には先の長い50代でも、老いと本格的に向き合う(これも一般的には、だが)70代でもなく、60代。適齢期を迎えた、迎えようとしている方々、いかがですか。
by月亭つまみ
アメちゃん
つまみさん、こんにちは。
浅田美代子かぁ……今、どんな感じなのかな?と画像検索したら
なんだか清水ミチコに似てますね(笑)
お二人は不思議と、時代が変わっても古臭くならないですよね。
感性が瑞々しいとか、そんな風でもないんだけど
いつも今の空気になんとなくフィットしてる感じがします。
頬に色々入れてパンパンになってる芸能人が多い中
そんなこともなく自然なところが、好感持てますね。
私の父も、誤嚥性肺炎で3ヶ月入院した後亡くなったのですが
生前通ってた喫茶店のオーナーが持って来てくれた珈琲味の羊羹を
「食べたい」と言いだして
「舐めるだけよ!食べたらあかんよ!」と看護師が見守る中
舐めさせたことがあります。ほんとに、ぺろっとだけ。。
3ヶ月、まともに食べないままあの世に行ったので可哀想でしたね。
【業務連絡】
先月末、京都へタブレット純単独ライブを観に行きましたー!
ものすごーーく楽しかったですー!
つまみさんがお近くに住んでたら、一緒に行きたかったです。
↓こちらにライブの様子をレポートしてます(長文です)。
良かったらお時間のあるときに・・。
https://note.com/mikatao/n/n1760378c7918
つまみ Post author
アメちゃんさん、こんにちは。
タブ純単独ライブレポート、面白すぎる!\(^o^)/
いやあ、興味はありましたが、予想以上の濃さですね。
お笑い的なネタも随所に盛り込まれているのかと思いましたが、それはきっと「単独」という文言のせいかと思います。
しかし、パンツ一丁!そのパンツの形状も‥定番なのですかっ!
彼の、モノマネの際の豹変はラジオでも驚きますが、それを目の当たりにすることを想像すると、これは相当の覚悟での参戦になるな、などと、行く予定も今のところはないのに思ったりしています。
今日も、そんなことを思いながら、ラジオを聴こうと思います。
ミチコミヨココンビ(コンビではない)は、ホント、時代が変わっても古臭くならないというのは稀有ですよね。
特に感性を研ぎ澄ませている感じでもない、というのも同感です。
人や物事に垣根を作らないってことなのですかね。
垣根ばかり作りがちな自分は、どんどん古臭くなっています。
母も、口からは何も食べられない三か月でした。
最後のアイスクリームだけです。
食いしん坊だったので、かわいそうでした。
アメちゃん
つまみさん、こんばんは!
わー、さっそくにレポート読んでくださってありがとうございます〜!
あの衝撃と興奮が、文字にするとイマイチ伝わらない(><)と
悶々としてたのですが喜んでいただけて良かった。
ライブ、ほんとーに面白くて楽しかったので
もし機会があればぜひ!
東京に住んでたら、東洋館の演芸も見に行きたいです。
あ。昨夜の音楽の黄金時代。
私のメールが読まれてしまいました(笑)
誰だったか忘れましたが
お商売をしている経営者の方のお話で
「変わらずにずっと繁盛するためには、変わらなくてはいけない」
みたいなことを聞いたことがあります。
(スティーブ・ジョブズが言ってたんでしたっけ?)
ミヨコミチヨコンビは、変わってなさそで変わってるのかもしれませんね。
つまみ Post author
アメちゃんさん、レポート、読みごたえがあるし、衝撃と興奮も伝わってきましたよ。
でも、実際のそれは、文字では伝えられない気がしますよね。
あとは、読み手の想像力に期待するしか。
黄金時代、再びメールが採用されたのですね!
わー!今回はラジコで聴けます!楽しみ!!
ラジオネームがわからないと、どれがアメちゃんのメールかわからないのかな。
でもまあいいや、全部聴こうっと。
浅草東洋館、まだ行ったことがありませんが、BS朝日のお笑い演芸館をけっこう見ていたので、まるで行ったことがあるような。
今はやっていないのかもしれませんが、一推しピン芸人のユリオカ超特Qとタブレット純は以前よく昭和歌謡イベントライブをやっていました。
一度、行きたいなあと思っていたのですが。
そうですね。
ミチコさんもミヨコさんも、時代に合わせて(でも合わせ過ぎず)変わってるんですよね。
だから繁盛してる。
ジョブズ、いいこと言う!