【エピソード31】浅間山荘事件を覚えていますか?
さてさて、聞いた話を形に残すことを仕事にしている
「有限会社シリトリア」(→★)。
普通の人の、普通だけど、みんなに知ってほしい
エピソードをご紹介していきます。
今回は一つの大事件についての記憶や思い出を3人の方が語ってくださいます。大きく報道された大事件は、「あの時、わたしはこんなことをしていた」「実はこんなつながりが…」など、誰もがその事件につながるエピソードを持っているもののようです。
●固唾を飲んでTVを見ていた
浅間山荘事件は、1972年2月19日から2月28日にかけて、長野県北佐久郡軽井沢町にある河合楽器の保養所「浅間山荘」において連合赤軍が人質をとって立てこもった事件です。
警察は、建物の解体に使われる鉄球で山荘の壁を破壊するという、今に語り継がれる「鉄球作戦」で山荘内に突入。その模様はテレビ中継され、NHK・民放を合わせたテレビの総世帯の最高視聴率は89.7%に達しました。
今から47年前、当時小学校6年生だったアカリさんも、そのテレビ中継をはっきりと覚えています。九州の地方都市に住んでいたアカリさん、遠い関東の、意味もわからない学生運動の事件でしたが、父母も近所のおじさんもおばさんも誰もかれもがその話題しかしていないので、とにかく日本の一大事だ!と理解しました。
機動隊突入の時は近所中のおばさんたちが1軒の家に集まり、アカリさんもお母さんと一緒にその家にお邪魔して、全員で固唾をのんでテレビを見続けました。銃撃戦を見ながらおばさんたちは悲鳴をあげ、鉄球が撃ち込まれる瞬間は全員驚愕。誰もが興奮して大変な騒ぎになっていました。アカリさんは大人たちのそんな大騒ぎが、今も忘れられません。
●建設会社も全面協力
ヒトミさんが仕事で知り合った方に聞いた話です。その方、Mさんは浅間山荘の設計施工をしたK建設の広報部で働いていました。
ある日、NHKから電話がありました。『プロジェクト X』で浅間山荘事件の人質救出作戦を取り上げたい。ついては、浅間山荘の設計図面を拝見できないか、と。Mさんは自分の会社が浅間山荘を設計施工したことは知っていましたが、もちろん自身が入社する前の話ですから、詳しいことは知りません。
そこで、会社の歴史に詳しいOBの方に連絡し、当時の話を聞いてみたそうです。
OBの方によれば、あの事件の時、人質の命がかかっていることから、すすんで設計図等を警察に提供し、警察の人と一緒に内部のレイアウトを確認し、人質を傷つけずにどうしたら突入できるかの検討に協力したそうです。結局、鉄球をぶつけて壁や屋根をぶち抜く作戦が決まった際には、構造的にどこにぶつけるのが一番効果的かなどのアドバイスもしたとか。
Mさんも初めて聞く話がたくさんあり、TVの番組として記録が残ることになってよかったと思ったとのこと。大きな作戦の成功の裏には、多くの人の協力があったんだなと実感したお話でした。
●半世紀後の現場では…
事件から50年近くが経ちました。浅間山荘の建物自体も、もうとっくに老朽化して取り壊されていると思われそうですが、実はまだ存在しています。
事件当時は、まだ開発したてで、地図にさえ乗っていなかった別荘地の軽井沢レイクニュータウン。バブルの時代を経て、今は別荘地というより、わずかな住民が暮らす静かな山あいの住宅地です。その一角にまぎれもなく浅間山荘は、事件の頃のたたずまいのまま存在しています。
事件は厳寒の2月でしたから、テレビ中継からは、浅間山荘も比較的、視界のよい場所にあるように見えました。建物の周りに立つ木々は全ての葉を落とし、地面の雪と冬枯れの木々の向こう側で繰り広げられる犯人たちと機動隊との壮絶な闘いを、私たちはテレビで息を凝らして観ていたものでした。
ところが夏場にこの場所を訪れてみると、あの頃の映像とはちょっと違う風景が現れます。半世紀を経て付近の樹木が成長したこともあり、浅間山荘は今、驚くほど高い樹木に囲まれていて、もはや全景を見渡すことはできません。事件当時、人質救出のために機動隊のクレーン車から打ち付けられた鉄球が、建物のどのあたりに当たったのか、その痕跡を探すこともできません。
現在この建物は中国系企業に買収されて、もちろん保養所として機能しているわけでもないので、おそらく何も知らずに通りかかれば、ここがあのこの「浅間山荘」だと気づく人はまずいないでしょう。
10日間にわたり人々をテレビの前に釘付けにした、昭和史に残る大事件。その舞台は、今も面影を確かに残しながら、ひっそりと避暑地の緑の中にたたずんでいました。
おすすめです!
映画『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』 2008年公開 監督:若松孝二 小説『夜の谷を行く』2017年 桐野夏生 著 文藝春秋
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