ピップのむこうに、ユアマジェスティ。
みなさま、ごきげんよう。師も走るせわしない12月、息災でいらっしゃいますでしょうか。コロナで止まっていたあれやこれやが、年末の声が聞こえてきた途端に一斉に動き出し、しばらくキリモミ状態でございました。そんなわけで無断欠席、合いすみませんです。
今年も残すところ、あと10日あまり。コロナで始まりコロナで終わる2020年は、ウイルスという目に見えないものに振り回され、逆に目に見えていなかった悪意や好意といったものが顕在化されたりもして、心がいちいち激動した1年でございました。そんななか、この連載を読んだ友人から
「大金はたいてようやく完成したピカピカの家にザビママが住んで、自分たちは古民家に引っ越すって、ふ、不憫すぎて…ぷぷぷ」
と爆笑しながら電話をかけてきまして「少しはアレルギーもおさまるかと」と布団乾燥機をプレゼントしてくれました。
ありがとうありがとう、財布は氷点下でも布団はぬくぬく、体をはって笑いをとった甲斐があった(そうなのか)と思う、ディセンバーくみこでございます。
さて。
思い起こせば1年前。シマ島に引っ越して以来ずっと住んでいたジュテームのとなりマイケルの奥ハウスを追い出され、夜逃げ同然でザビ男の実家にダイブイン。20年ぶんのホコリまみれになりながら、元旦を迎えたザビ男とわたしでございます。
とても住める状態ではなかった離れのリフォームが終わるまで、90オーバーのザビママが暮らす母屋を半ば居候状態で使うことになり、謎の裸エプロン劇場を観劇したりしながら借りぐらしのくみエッティが始まったのでありました。ハイパー棟梁という腕利きの大工さんにめぐりあったものの、コロナの影響で工事が大幅に遅延。工事に合わせて寝泊りする部屋を転々とする、在宅アドレスホッパー状態で生き延びること10ヶ月。
もうすぐ、やっと工事が終ろうかというところで、ザビママが「ワイが離れで暮らしたい」という爆弾発言を投下してきたところまでお伝えいたしました。
ご興味ある方は、ここらへんをどうぞ。↓
自分たちが暮らすつもりで、せっせとお金をためてリフォームした離れの家です。はじめは「えええ??そんなこと一言も言ってなかったやん〜」と驚くしかなかったのですが、ザビママはもともと足が悪く、このところは杖や押し車がないと歩くのがつらそうでした。それに母屋は古くて大きいおうちなので、何をするにも歩かねばならず、段差もいっぱい。そこで工事を日々眺めているうちに、「あの小さな家で楽に暮らしたい」という思いが募ったようでした。
とはいえ「その家ちょうだい」と言われて「どうぞどうぞ」とあっさり譲れるわけでもありませぬ。長年住み慣れた母屋を離れることが、高齢者のザビママにとってプラスになるかどうかも未知数です。ひとまず、母屋に暮らしてはどうかとザビ男が何度か説得を試みましたが、ザビママは「母屋はいやだ」の一点張り。
そしてザビ男と話し合った結果、わたしたちが出した結論は
「ザビママが元気でいられるのも、あと何年あるかわからない。いずれは自分たちの家になるのだから、今は好きにさせてあげよう」
ああああああ
マイホームうううううう。・゜・(ノД`)・゜・。
そんなわけで工事終了と同時に離れをザビママに明け渡し、自分たちは築100年の古民家に引っ越すという、まさかの展開になったのであります。
そのことを作業中のハイパー棟梁にポロリと話すと「そうなんですね。そしたら、何か考えてみますよ」と棟梁。翌日には玄関やトイレにザビママ用の手すりをつけてくれ、室内の段差が極力なくなるように床を調整してくれたのです。さらに縁側に手作りの木のベンチを備えつけ、ベンチに座って楽しめるように、目の前にちょっとした花壇と池まで用意してくれるサービスぶり。
そして、ついに工事完了の日がやってきました。置きっぱなしだった工具を引き上げていくハイパー棟梁に手を振り(ちょっとさみしい)、さあさあ引っ越しますかねと重い腰を上げたところ、ザビママがひとこと。
「まだ暑いよ。涼しくなってからにするよ」
なんと。
確かにまだ暑い日が続いてはいましたので、ザビママには少々負担かもしれないということになり、しばらくはわたしたちが離れで暮らすことになりました。ピカピカの新居での暮らし。夢に見ていた快適な生活。床をなめる勢いで堪能。快適。快適すぎてつらい。いずれ引っ越しするから、家財道具を置けなくてつらい。
がらんどうの部屋で過ごすこと半月、「そろそろ引っ越そうか」と呼びかけると
「もうちょっと仏壇の世話をするよ」
ぬーん。
半月後、再び呼びかけると
「今日は寒いから、よすよ」
ぬぬーん。
いっこう腰を上げようとしないザビママ。離れに行きたい気持ちと、ずっと守ってきた母屋を出る後ろめたさが、心の中で揺れ動いているようです。その気持ちはじゅうぶんにわかるし尊重もしたい、だがしかし。わたしたちもこれ以上何もない部屋で過ごすわけにもいかないし、このままでは本当に寒い冬が来てしまうのであります。
こうなったら強行突破しかありません。ザビママが畑仕事に出ている間、ちょっとずつ荷物を運び出して離れに置く、をくり返すこと数日。おおかたの荷物が運ばれたところで、満を辞してザビママが離れにチェックイン!
いざ引っ越してしまえば、あとはすばやかった。この家具をあっちに、あれをそっちに、と指示が飛び交い、ピカピカの新居はあっという間にザビママ色。特製のベンチには畑から収穫した芋や玉ねぎいっぱいのカゴで埋め尽くされ、軒先には干した大根や人参が風に揺られております。「ここでリラックスできるように」とハイパー棟梁がエスニック風のおしゃれスペースに仕上げてくれた縁側は、山盛りの毛糸が積み上がったザビママの編み物工房になりました。
そして新しい家が物珍しいのか、近所のバアちゃんたちがとっかえひっかえやってくるようになりました。早い人で早朝7時、遅い人で夕方5時。それはもう千客万来。あれだけ引っ越しをしぶっていたザビママも、お客さんが来るたび「ここがトイレで、ここがお風呂で、ボタンひとつでお湯が入って」と家の中をくまなくご案内して回ります。
どうやらザビママ、新しい暮らしが気に入っているどころか、むしろ自慢したいのかもしれない疑惑。朝から玄関を全開にして、オープンハウス状態で訪問客を待ちかまえております。ザビ家は出入口の右側に母屋、左側に倉庫があり、中庭をはさんで正面奥に離れという配置になっているのですが、敷地に入った途端にもれなく離れに鎮座するザビママと目が合うシステム。
なんだろうマジェスティ感すごい
一方。ザビ男とわたしは母屋に入り、再びリノベ生活に突入しております。母屋はあちこちが痛んでおり、すきま風もビュービュー。補修やケアをしないと、なかなか快適には過ごせません。むしろザビママよく今まで暮らしていたなと思うくらい…。
とはいえ長引く流転生活と、くり返す引っ越しで、ザビ男もわたしもすっかりヘトヘト。自分でも知らぬ間に疲れをためこんでいたようで、ついにある日
10年ぶりにやっちまいました…。
痛い。とにかく痛い。寝ても座っても痛い。でも島内には整形外科も鍼灸院もないし、ときどき島に出張してくれるマッサージ師さんも「コロナで来島できない」と、つれないお返事。当面はピップエレキバンと湿布に腰痛サポーターを巻いてしのぐしかありません。自力では難しいので、ザビ男に頼んで腰とお尻に湿布を貼ってもらって仕事に向かう日々。
そんなある朝、湿布を貼ってもらおうとパンツをおろして腰を突き出していたまさにその瞬間、
ガラっ
「おーい、ザビママおるか…」
「えっ」
「えっ」
「おっ」
勢いよくドアを開けて入ってきた、近所のチエバア95歳。ケツ丸出しのわたしと、覆いかぶさるように立つザビ男を無言で眺め、
「おうおうおう、ぬしらはまだ若いものな!はげめよ!」
と叫びながらドアを閉め、離れに消えていったのでありました。
え、
ちょ、
ぜったい誤解するやつううううう
。・゜・(ノД`)・゜・。
そんなこんなで、今年最後の記事がケツ丸出しのまま終わる感じですいません。今は腰も大丈夫です。今度痛めたら、バアちゃんが乱入しない部屋で湿布を貼ろうと思います(でも寒い)。
それではみなさま来年もまた、元気にお会いしましょう。それまでいつもの崖のところでお待ちしています。メリークリスマス&よいお年を。じじょうくみこでした。
Text by じじょうくみこ
Illustrated by カピバラ舎
*「崖のところで待ってます。」は毎月第1土曜日更新です。
*諸事情により3月いっぱいまでお休みいたします。
じじょくみnoteでときどきつぶやいてます→★
okosama
じじょくみさん、お久しぶりです!
ザビママは裸エプロン、じじょくみさんはおケツ丸出し。なかなか良い勝負で(笑)
ザビママ、現世で極楽やないですか!
リフォームを自慢して、遠回しに嫁自慢かと。
知らんけど。
今年も笑わせていただきました。
穏やかな年末年始を!
じじょうくみこ Post author
>>okosamaさま
お久しぶりです!そして今年もコメントありがとうございました( ´ ▽ ` )
確かにそうですね、言われてみてタイトルは
「ヒップのむこうに」にすればよかったと気づきました。
来年もどうぞよろしくお願いします。よいお年を〜。
きゃらめる
小正月になってようやく読みました。
おかしい!おかしすぎる!
でも古民家ぐらしは腰に堪えますね。
お大事に。
毎晩寝る前に20分弱、
ある姿勢で、腰に息を入れるイメージで呼吸するエクササイズを続けると、なおせはしないものの、日々の痛みがうんと和らぐんですよ(毎晩やってます)
言葉では教えにくい…
教えて差し上げたい(T_T)