ザッツ・エンタテインメント
ハリウッドのミュージカル映画の名場面を集めた『ザッツ・エンタテインメント』という映画がある。MGMの創立50周年を記念して作られた映画なのだけれど、これがとてもよく出来ている。編集や構成が巧いというのもあるが、やっぱりピックアップされている映画作品の一つ一つが見事なのだ。フレッド・アステア、ジーン・ケリー、ビング・クロスビー、デビー・レイノルズなどなど、豪華な出演者たちが歌って踊る名場面ばかりがこれでもかこれでもかと繰り広げられる。
この映画をテレビ放送で見たのが中学生の頃だったと思う。そのせいで、「エンタテインメント」という言葉は、プロフェッショナルがつくる精緻な娯楽作品、というイメージが僕の中では出来上がっているのだ。
しかし、昨今ではエンタテインメントは、エンタメと略され、略された分だけ身近になってお手軽になってしまっている。僕が授業をさせてもらっている学校も最近では「エンタメ!」を重視する傾向があり、それは、MGM映画『ザッツ・エンタテインメント』のエンタテインメントとは似て非なるものだ。
これは僕の持論だけれど、エンタテインメントには明確に楽しむ側と楽しませる側がある、と思っている。しかし、最近は楽しませる側だって楽しみたい!という感覚があり、大人たちは子どもたちに、それが良いことだと推奨している節がある。
そして、子どもたちはポカリスエットのCMでダンスを踊る女子高生に憧れ、自分たちもあんなふうに踊りたい、と考える。しかし、あれは大人が考えた企画に高校生がうまくはまっているだけで、本当の意味で子どもたちが創造したものではないと思うのだ。塗り絵がいくら巧くても、塗り絵を作れる人間になれなければ、クリエイティブとは言えない。塗り絵を塗ることの面白さはあっても、そこにオリジナリティはない。いや、そこまで硬く考えなくてもいいのか。うーん。
誰が見ても、ため息がでるような踊りを、自分なりに生み出そうとする、そんな作り手たちの踊りや映画や小説や舞台に出会いたい。そんなことを思いながら、2022年が明けたのだった。
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。現在はコピーライターと大阪ビジュアルアーツ専門学校の講師をしています。東京と大阪を行ったり来たりする生活を楽しんでいます。
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kokomo
植松さん、私も似たようなことを特に音楽で感じていました。
技術的には上手いのだろうけれど、カラオケの延長のような歌を歌う方が多くなってきたのは気のせいでしょうか。本人はとても気持ちよさそうに歌っているのだけれど、それを見ながら「私は何を見せられているんだ?」と思ってしまうことがあります。そういう歌は聞かなければいいし、映像は見なければいいんですけれどね。でも、以前と比べてそう感じる回数が格段に増えているし、そういうパフォーマンスを「エンタメです」とか「私はアーティストです」って言われると、ちょっと違うのでは?ともやもやします。
uematsu Post author
kokomoさん
学生と接していると思うのですが、自分で好きな作品を作って良いんだ、というと彼らは戸惑います。でも、この中継を手伝って、と言うと嬉々として取り組みます。しかし、その中継のプランを立てているのは先生たちで、学生はそれを手伝っているだけ。技術的には勉強になりますが、クリエイティブな成長が見込めるわけではありません。それでも、撮影した相手は喜んでくれるし、先生とも距離が縮まるし、なんとなく達成感があるので、だんだん、そこに依存し始めます。僕はそれがとても危険なことのように思えて仕方がありません。