◆◇やっかみかもしれませんが…◆◇ 第64回 咳女の開き直り ふんだっ!
この2~3年、咳に翻弄されている。呼吸器の疾患が見つかったのは10年近く前になるが、しばらくは症状が強く出なかったので、意外とこのままイケるかもと思った。が、世の中、そう甘くない。救いは、定期的に撮る画像が悪くなっていないことだが、咳は正直ツラくなっている。
今すぐ命に関わる病ではないとはいえ、難治性疾患なのでブルーになることもしばしばだ。基本的には対症療法しかなく、体調を崩さないことが大事らしい。そう言われてもな、なんでもそうじゃん、である。どうしたって加齢とともに体力はなくなるわけだから、それに伴い体調も悪化していくであろうことは想像に難くない。変化(悪化)とどう折り合いをつけていくのか、折り合いはつけられるのか、不安は大きい。それは病名を知らされてからずっとだ。
事前に調べて治療法がないことを知っていたので、正式に病名がついたときはかなり落ち込んだ。病院から家に帰ってラジオをつけたら赤江珠緒さんがけらっけら笑ってた。楽しそうで、落ち込んだことなど人生で一度もなさそうな笑い声だった。もちろん、そんなことはないだろう。でも、そのときの自分には「落ち込むこととは無縁のように感じられる」ことがすべてだった。誰かの明るい笑い声は、聞く側に、救いと救われなさという相反する気持ちを同時にもたらすことがあると知った。それ以来、赤江珠緒という人は、自分にとって明るさ、健やかさの象徴になった。
咳関係以外の不調は今のところはそんなにひどくない。強いて言えば、食べ物がのどを通っている間は咳が出ないので、つい何か口に入れたくなるくらいだ。震えを止めるためにお酒を飲むアルコール依存症患者みたいだ。おかげで体重が増えた‥と言いたいところだが、たぶん言い訳だ。
咳の多さ少なさに傾向もない。寝不足や疲労、花粉飛散やコロナや風邪罹患などは増加因子だが、連動している実感はない。体調を気にすることなく人生の数日(数時間)を快調に飛ばしていたのに、ちょっと咳き込んだことをきっかけに、特に理由なく一気にぐったりすることもある。5分前の自分はあんなにシアワセだったのに、と神を恨む(おおげさ)。
咳が続くと疲れるし、一生止まらないんじゃないかとか、これじゃ人が多いところには行けないなとか、ここから坂道を転がり落ちるようにどんどん衰弱するのかもしれない‥などと、気持ちは悪い方悪い方に、まさに落ちることも多い。体調不良は明らかに自分のテンションを下げるけれど、体調が不穏だと、絵に描いたように自分の気持ちが乱高下するキツさもなかなかだ。
わたしとちがって、簡単に体調に「持ってかれない」人もいるのだろうか。持っていかれることがあっても表明しない人は多いのかもしれない。かくゆうわたしだって、自己評価では「そんなには表明していない」つもりだった。最近までは。
こんな不調話、聞かされても楽しくないだろうし、言われても困惑するだけだろう、と思ってきたが、なんだかもうそこは我慢しなくていいような気がしてきた。咳で自分のQOLを下げないために、仕事や趣味を続けるために、通院したり漢方薬を服用するだけでなく、咳を抑えるとされる寝方、呼吸法、ツボ押し、ヨガなどを試し、満員電車や人混みを極力避け、仕事での声の出し方に気をつけ、元気が元気を呼ぶかもと元気を装い‥と今までけっこう頑張ってきた。たぶんこれからも頑張るのだろう。でも、それはなかなかハードな時間だったりもする。だから、わたしは咳が出ますよ、ツラいですよ、でも頑張ってますよ、ぐらい表明してもいいんじゃないか。ふんだっ!
だって、今より体調がよかったら、やれること、気軽に行けるところがもっとあるし、そもそも、最近よく本を読んでいるのは、それが咳を気にせず、かつ自分も楽しいという、咳女にとって都合のいい数少ない趣味だからだ。ふんだっ!
「咳女に都合のいい数少ない趣味」として他になにがあるかしらと考えたら、音声メディアと文章を書くことが浮かんだ。だから来月からそれらを合体した、独りよがりの記事の連載を始めることにした。どう展開(転回)するかはわからないが、始めてみてから考えることにしている。ふんだっ!
by月亭つまみ