みんな、象が好きだった。
1970年の万博のときに「象がやってきた」という話を前回書いた。この話について、いろんな人から「すごいですね」と言われたので、改めてネットで調べてみた。
象はタイからやってきて、神戸港から上陸し、そのまま千里の万博会場まで40キロを歩いて移動したそうだ。その数は16頭。当初は、その日のうちに移動が完了する予定だったらしいのだが、アスファルトで足を痛めた象がいたため、武庫川で一泊したらしい。YouTubeには国道を歩いている象の群れや、武庫川で水浴びをしている様子などを見ることができた。
自分は子どもの頃に実際に見たので、「うん、見たよ。象が国道歩いてたよ」くらいの感じなのだが、実際に当時の記録映像を見ると、よく国道を歩かせたもんだなあと思うし、イレギュラーで武庫川の河原で一泊ってすごいなあと思う。
子どもたちは「象だ!」「象さんだ〜!」と大騒ぎしてたなあ。象が嫌いなんて子どもはいなかったんだろうな。筆箱だって、象が踏んでも壊れないのを選んでたしなあ。
到着した象たちは、万博会場でたくさんの人と綱引きをして、みんなを楽しませたそうだ。あ、記録映像で初めて知ったのだけれど、日本にきてから生まれた子象もいて、なんだか万博だなあと感慨深い。
今だと、象を移動させるのもたぶんコンテナを使うだろうし、武庫川で一泊なんてさせないだろう。まあ、メインイベントだった綱引きだって、今なら動物愛護団体が反対して実現しないはずだ。あの頃のままがいいとは思わないけれど、あの頃は面白かったとは思う。「宣伝も兼ねて、象を歩かせて移動するってどう?」と誰かが言ったら、「大丈夫じゃない。やってみよう」で企画が通るような感じは、なんだか羨ましい。でも、そのためには、「途中で象にいたずらするような悪い奴はいない」という性善説が大前提として必要なんだろう。たぶん、そのあっけらかんとした、ノーテンキな感じが楽しそうに思えるんだろうと思う。
万博じゃなくてもいいんだけど、なにかのイベントで、象来ないかなあ。1頭でも2頭でもいいんだけどなあ。国道歩いて、テクテクと目的地まで歩いて。それを近所の人たちや子どもたちがキャーキャーいいながら眺めている。そんな風景がみたいもんだ。
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植松事務所
植松雅登(うえまつまさと): 1962年生。映画学校を卒業して映像業界で仕事をした後、なぜか広告業界へ。制作会社を経営しながら映画学校の講師などを経験。現在はフリーランスのコピーライター、クリエイティブディレクターとして、コピーライティング、ネーミングやブランディングの開発、映像制作などを行っています。