第15回 舟を編む
『舟を編む』は、2016年テレビ放映、アニメ制作はZEXCS。原作は2012年本屋大賞受賞の同名小説(三浦しをん)です。今はAmazonプライム・ビデオで配信されています。
平成から令和にかわる頃、目上の人に「お疲れ様でした」と言うのは失礼かOKかが話題になりました。国語辞典編纂者である飯間浩明氏は、複数の辞書が「目上の人に使う」、1冊だけ「目上の人には使わない」としていることを確認し、「(目上への)用法を不可とするのは酷でしょう」との見解をツイッターで示しています。騒ぎはそのうち、なんだかしずまったようです。
そんなわけで、令和初回は『舟を編む』。舞台はとある出版社の辞書編集部。中型国語辞典を編纂し、刊行するお話です。原作、映画ともに人気作品なのでご存知のかたも多いはず。
先に映画を見ていたので、引き出し整理と並行した「ながら視聴」でした。それで気づいたのですが、この作品、画面を見ていなくても、面白い!映像も工夫があり、主人公の心象風景など、言葉の海と辞書編纂の果ての無い感じが伝わる。そのイメージを越えて、声や音楽で場面と内容がするすると耳に入ってくるのです。
登場人物たちの「辞書と言葉」に対する深い思い入れや、刊行までの作業工程が、セリフの中に流し込まれています。つまり説明的なセリフが多い。それがちっとも耳障りではなく、声優の活舌の良さと抑揚のおかげで、むしろ明快。丁寧な言葉遣いを聞いて、意識しないうちに、耳を傾けていたようです。
15年に渡る編纂作業のうち、なか13年をはしょり、前半は主人公・馬締(まじめ)とバディ・西岡が辞書編纂に着手する若手の頃を、後半は辞書作りも大詰めで責任ある立場の頃を描いています。それぞれの時期に描かれる、二人の心境の変化と友情の深化の描写が興味深い。一貫して静かな性質の馬締が絶妙で、わずかに漏れている変化がさもありなむと思わせる。お仕事アニメは、ノンフィクション部分があることで登場人物がより生き生きと感じます。原作小説の力がとても大きいとともに、声優さんてすごいなと思いました。映画よりもアニメの方が、私にはしっくりきました。
「さてつ」や「めれん」といった普段なかなか耳にしない言葉がたまに出てきて、今なんて言ったの?と目を上げる。こういう刺激はありがたいです。原作は2009年連載開始なので、時代を感じるセリフや小道具が出てきます。10年ひと昔とはよく言ったもので。
オープニング曲は、朝ドラ『まんぷく』にも出演した岡崎体育の初シングル『潮風』。豆知識のコーナー『おしえて!じしょたんず!!』がかわいい。
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同じく三浦しをん原作では、『風が強く吹いている』も。
Production I.G.はこういう作品も手掛けるようになっていたのか…。
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*アイキャッチ画像と動画は、当該作品の公式HPより