〈 晴れ 時々やさぐれ日記 〉 ああ、タブー。家族とわたしと時間のあいだ
――— 46歳主婦 サヴァランがつづる 晴れ ときどき やさぐれ日記 ―――
「 あのね。今からお客さまなの。だからもう切るわよ。んじゃあね!」
たびたび母のことですみません。しかしまあなんです。こういう一方的な電話の切られ方が一番気になるんです。今さっきまでの弾丸トークの主が突如撤収にかかる理由ってなに???
お客様とは誰なのか、その質問をてきとーに誤魔化して
「まーまー、いいから。もういらっしゃるから。じゃあね!」
「まーまーいいから」という台詞。言う方は良くても聞く方は気になります。
まったくもう、子のこころ親知らずとはこのこっちゃ。(アレ?)
煮え切らない気分のまま、二番煎じのお茶などすすろうとするところへ母から再びの電話。
「あ、あのね。考えてみたら あーた方にもカンケイのあるお客さまだから ♪
そーぎやさんよ。そーぎやさん。そーぎやさんが今からみ・え・る・の ♪ 」
「そ、そーぎやさん?? 今から?? 」 アチッ。
なんでもその時に備え、セレモニーの詳細や費用を相談し、「お積み立て?」をする生前契約があるんだそうです。
「お花もね、こういうお花で♪ってお願いできるし、湿っぽいアナウンスは一切ノーサンキューっていうのも、ちゃあんと希望に沿ってくれるんですって!!」
そ、それはたいへんようございました。。。(アレ?)
あのー、つかぬこと伺いますが、
数年前、緊急入院したとき、「帰ってこなくってよろしい!」って口を極めたひと、誰?
子どもはお金のこととか、気にする必要はありません!!ってわたしたちを育てたひと、誰?
タブーの多い家で、わたしのモヤモヤやオロオロを一切寄せ付けなかったひと、ど・な・た?
おソーシキのことがクリアになったとしても、わたしの中のモヤモヤは残ります。 そこまでの道のりは?ウエディングロードならぬエンディングロードの青写真は? のど元までこみ上げる言葉と感情を、どうしても飲み込んでしまう自分がいます。
「 そうそう! テレビが映らなくなっちゃってね。映るには映るんだけど、DVDが映らないのよ!DVDが映らないんじゃぁ、あなた、困るじゃない? それで、何だったかしら…3K?いや4K?とにかく新しいテレビをね、お安く入れてもらうことにしたのよ!パパの車ももう今のが最後だしね!とにかくと~ってもキレイな画面なんですって~。これでわたし、おばあさんになって映画館に行けなくってもだいじょーぶになったってことよー。あーよかった。 じゃぁね~♪ 」
もしも~し。もしも~し。
「家の中のタブーって、時間がたてばたつほど、いろいろ出てくるよねー。親兄弟のこととか、親戚のこととか、それこそほら、お金のこととか。あ。時間が経って出てくるんじゃないわ。目をつぶって目をつぶって、触れないよーに気づかないよーに、なんとかなるさー、なんくるないさーってこころの中で念じ続けてきたものが、ある日ぽっかり、水の上に浮いて出てしまう、みたいな?あらー、やっぱりー、みたいな?」
古い友人とのおしゃべりもここのところ急に、年齢相応、体格相応?の幅の広がりが…。
「ぽっかり、ならまだいいわよ。わたしの場合はそれ、ある意味リアルサスペンスよー。ある日突然ズドン!とか ある日突然胴体着陸!とか。。。ちょっともー、どうする?どうやって胴体着陸回避する?徐々に徐々に降りていく軟着陸って、どうすればいい?」
「すこーじずつ、すこーしずつ、つっつき合いながら。すこーしずつすこーしずつ、お互いの間をつめていく。傷つかんように。すりむかんように。ふくらまんように。こけんように。うわー、これって運動会の最終コーナー?これぞまさに知恵の出しどころ?」
どこに着地するのか。いつ着地するのか。もろもろのモヤモヤと、ちょっと重たい湿度を抱えて。それでも家族という飛行機は飛ぶ。それでも季節という時間はめぐる。いやーん、もう梅雨じゃん。いやーん、もう夏じゃん。
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