抱き合う大阪のオッチャン二人。
前回、大阪のオバチャンの話を書いたのだけれど、じゃあ、大阪のオッチャンはどうなのだ、ということになる。もう、最初から書いてしまうが、大阪はオッチャンだって面白い。面白いけれど、オバチャンほどの派手さはないので、目立たないだけなのだ。
大阪のオバチャンが太陽なら、大阪のオッチャンは月のような存在。オッチャンだけでは輝かないのだけれど、オバチャンの光を浴びて輝くようなところがある。
加えて、大阪のオッチャンの面白さは、若干哀愁を帯びている。僕が以前みたオッチャン二人は、梅田の繁華街で抱き合っていた。もちろん、ほんのり酔っぱらっている。
オッチャンＡ「ほんま、よう会えたなあ」
オッチャンＢ「ほんまや。よう会えた」
Ａ「14年ぶりやでほんまに」
Ｂ「そんな経ってへんやろ」
Ａ「いやいや、14年やて」
Ｂ「13年くらいやろ」
Ａ「ちゃうちゃう。14年は経ってるって」
もうね。どっちでもええねん。13年でも14年でも。どっちにしても中途はんぱやし。
Ａ「それにしても、懐かしいわ」
そういうと、オッチャンＡは、オッチャンＢをギュッとハグしたのでありました。オッチャンＢもオッチャンＡをギュッと抱き返す。
Ａ「ああ、こんな感じ」
Ｂ「なにが？」
Ａ「お前の背中の肉。昔からこんな感じやったわ」
Ｂ「そうか。遠慮なくギュッとしてくれ」
そういうと、二人は人目もはばからず、路上で抱き合っているのである。
なんとなく、長い時間がかかっているようにも読み取れるかもしれないけれど、これは僕が信号に引っかかって、待っている間の出来事。たぶん、ほんの1、2分の出来事だ。
僕が信号待ちをしている間に、やってきたヨッパライのオッチャン二人が僕の隣で涙を流さんばかりに抱き合っているのである。
この二人、意外に品のいいオッチャン。逆に品がいいから、傍目からはちょっと気持ちが悪いんだけれども。すると、同じように思っていたらしい若い女子がそこにいたのであった。そして、若い女子の残酷さを存分に発揮して「気持ち悪っ」と声に出してしまったのである。
すると、オッチャン二人、小さな声で「おい、気持ち悪い言われてるで」「ほんまや。わしら気持ち悪いんやろか」「そら、男どうしが抱き合ってたら気持ち悪いわなあ」「そらそうやなあ」とコソコソ話したあげく、シュンとなってしまったのである。本当に画に描いたようにシュンとなってしまった。
そうすると、さっき「気持ち悪っ」と小さく叫んだ若い女子が、将来のオバチャンらしさを発揮して「いや、それほど気持ち悪いこともないよ」と声をかける。たぶん、自分の発言にシュンとなってしまったオッチャンをかわいそうに思ったのだろう。
それを聞いたオッチャンたちはパッっと顔を輝かせて「ほんまか？」と聞く。聞かれて女子は戸惑いながらも「ほ、ほんまやで」と返す。なんだ、この会話はと思うのだが…。すると、オッチャンたちは女子の許しを得て、今度は楽しそうに笑い出したのである。まあ、女子の許しが必要かどうか、という疑問は残るのだが、とにかくオッチャンたちに笑顔が戻ったのである。
そして、オッチャンたちが笑い出したと同時に、信号は青になり、抱き合っていたオッチャンも、将来おもろいオバチャン確定の女子も、たまたまそこにいた僕も、それぞれが信号を渡り、三々五々、夜の大阪に消えていったのである。
ああ、大阪は今日も平和やで。
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植松眞人（うえまつまさと） １９６２年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、神楽坂にあるオフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。
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はしーば
大阪のオッチャンと言って、真っ先に思い浮かぶのは、御堂筋線の梅田駅ホームで前方を歩いていたオッチャン。
ファッションが、やすし師匠でした。
スーツにマドロス帽。
2、3年前、出張で出向いた朝の通勤時間帯の体験です。
オッチャンも魅力的ですね、大阪。
okosama
uematsuさん、こんばんは
シュンとなるオッチャンも見てておもしろいけど、将来おもろいオバチャン確定の娘さんも、ええなぁ（笑）
通りすがりに赤の他人と「からむ」会話の型があるのは、大阪くらいと違いますか。全くの憶測ですけど。
uematsu Post author
はしーばさん
大阪のおっちゃんは可愛げがある気がしますね。
しかし、やっさんファッションのおっちゃんに遭遇するとは、強運ですね（笑）
uematsu Post author
okosamaさん
そうなんです。
大阪の女子は、若い頃からちょいちょいオバちゃんが顔出しますね。