落語家という生き方。 ( 男のメガネ 第50回 )
落語家になりたかった。
というか、落語家として生まれたかった。
落語家の家に跡取りとして生まれたかったとかそういうことではなく、迷わずに落語というものにまっすぐに突き進んでいくようなそんな人として生まれたかった。
桂米朝師匠のお宅に弟子入り志願しに行った中学3年生の夏の早朝。断られてしまっても、本当なら何度でも押し掛けるつもりでいたのに、たった一回断られただけで、僕はすごすごと夢を諦めたのだった。
これは言い訳でも何でもなく、あのとき僕は、落語家になりたいとは思っていたけれど、自分が落語家になれる人間ではないのだと、とてもはっきりとわかっていたような気がする。
桂枝雀師匠の座付き作家であった小佐田定雄さんが書いた『枝雀らくごの舞台裏』を読んでいて、あの夏の日の朝のことを思い出したのだった。
家族みんながまだ寝静まっている薄暗い明け方に家を出て、学生服をちゃんと着込んで、桂米朝師匠のお宅に生き、断られて帰ってきて、家族に気付かれない間に、また布団に潜り込んでからの眠れないままの数時間の押しつぶされそうな感覚をいまでも時々思い起こすことがある。
※ 小佐田定雄 著 『 枝雀らくごの舞台裏 』→ ★
※ 今回のこの記事が、植松さんからの第50回の寄稿になります。
植松さん、いつも本当にありがとうございます。
思い返せば昨年の6月7日、
「もう、一般男子ではないのだ。」から
毎回、充実の内容をお送りいただきました。
「50代、男のメガネは近視と乱視とお手元用。」
なんと的を射たタイトルでしょうか。
来週もまた、滋味あるエッセイを心待ちにさせていただきます。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。 ( Over40 一同 )
植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、オフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京神楽坂で暮らしてます。
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okosama
Uematsuさん江
祝 連載50回!
今回はメガネを外して遠くを見ておられるご様子ですね。
uematsu Post author
okosamaさん
なんか、たまに遠くを見ると
風景がかすんで見えます。
きゃらめる
祝・50回!!!
おめでとうございます。
弟子入り志願先に米朝師匠を選んだいきさつなども、読んでみたいです。
uematsu Post author
きゃらめるさん
松鶴師匠も、春団治師匠も、小文枝師匠も、本当に好きだったんですが、たぶん、米朝師匠のアカデミックな雰囲気に惹かれたのではないかと。
あと、小学生の時に、米朝師匠の「地獄八景」のレコードを買ってもらったことが大きいでしょうね。