なにしてくれてんねん。
小学三年生の時に、夏目漱石の『坊ちゃん』を読んで、冒頭の『親譲りの無鉄砲でこどもの時から損ばかりしている』というフレーズを読んだ瞬間に、「それは無鉄砲というよりも負けず嫌いなのだ!」と思ったことを覚えている。
「短気は損気や」とずっと言われ続けるほどに、気が短くて、それがもとで友だちともよく喧嘩をした。まあ、くだらないことで喧嘩になってしまうのは、だいたい男と相場が決まっていて、ちょっと肩がぶつかったのぶつかってないの、目が合ったの合わないの、とどうでもいいことで一触即発。
よせばいいのに、そんなくだらないことで引けなくなって、「なにか文句があるのか」と関東の男は言い、「なんや、やんのか!」と関西の男は言うのである。
東京に来てから15年ほど経つが、関西の喧嘩言葉の豊富さを懐かしく思うことがある。「あほか、おまえは」が序の口で、「耳の穴、手えつっこんで、奥歯がタガタ言わしたろか」あたりになると、怒っているのか笑わせようとしているのかがわからなくなる。
さすがに「奥歯ガタガタ言わしたろか」まで言うやつは少ないが、「耳の穴、手えつっこんだろか」くらいは平気で使うし、「奥歯ガタガタ言わしたろか」を単体で使う奴もいる。こういう喧嘩の言い回しのなかで、僕が一番怖いなあと思うのが「なにしてくれてねん」である。
「なにしてくれてねん!」
という具合に使う。例えば、相手がこっちを侮辱してきたときも使うし、飲食店でひどいサービスを受けたときにも使う。「おい、こら、われ」はものすごく柄が悪いし、「〜ねん!」という言い回しも上品とは言い難い。けれども、一応、「何をして下さったわけですか?」という妙に回りくどい言い方をして、相手に考えさせるという一手間をかけているところがおもしろい。
居酒屋で、食べ物をひっくり返した店員がいて、服が汚れてしまった。そんな時、店員が謝ればそれで大丈夫。しかし、そんな粗相をしても横柄な態度を取られたら、負けず嫌いな男たちは黙ってはいられない。東京なら「おい、おにいさん。なにしてんだよ!」となるところを、大阪では「おい、にいちゃん。お前、なにしてくれてんねん」となるわけだ。
「おにいさん、お前は肉じゃがの汁を飛ばすなんて、一体全体、俺に向かって何をしてるんだ!」という意味で東京の人は「おい、おにいさん。なにしてんだよ!」と言うのである。これはある意味ストレートである。
ところが、関西の場合、「わいのせっかくの新しい服に、肉じゃがの汁を飛ばすんか!おまえ、ほんまに、わいの新しい服に向かって、何をしてくださってるわけですか?!」と怒り狂っているのに、逆に丁寧に相手に問いただすというややこしさ。
なんだかもう、そのあたりに関西人のサービス精神とアホさ加減がミックスされている気がして、ついつい笑ってしまうのである。
それにしても、喧嘩するときの言葉というか会話というのは、人の切羽詰まった叫びのような物で、その人の思考回路とかいろんなものが噴出しておもしろい。時々、「ああ、これは聞かない方がよかった」という喧嘩言葉を聞いてしまうこともあるけれど。
植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、オフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京神楽坂で暮らしてます。
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okosama
さっき、お昼にふ◯っ◯ーのきつねうどんを食べたんですよ。カップ麺。ナルトが愛嬌あるんでね、つい。
で、調味油が付いてて珍しいなと思て、よう読まんと何の気なしにに入れたんです。
そしたら、◯◯フレーバーが広がって、きつねうどんだい無しですよ!
なにしてくれてんねん!
サヴァラン
家庭内でもめごとが起こったとき、
喧嘩言葉がいちばん貧困なのは今月50になるシュジンです。
「もう!怒った!もう!知らん!」
これだけを何度も繰り返し
プルプルしてしまって回路がちっとも回りません。
面白くないのに笑いがとれる。
シュジンの特技と思っております。
uematsu Post author
okosamaさん
いやほんま。なにしてくれてんねん!ですよね。
僕は今日、道を歩いていて、軽自動車のミラーで引っかけられました。
もうね、ほんま朝から「なにしてくれてねん!」の嵐です(笑)。
uematsu Post author
サヴァランさん
ご主人、子供みたいですねえ(笑)。
でもね、あれですよ。
夫婦げんかして、男が理路整然と返すと、
それはそれで、話がややこしくなっていきますからね。
もしかしたら、ご主人、わざとかも…(もごもご)