ああ、「美容」室。自負と偏見のあいだ。
明日は午後から美容院の予約。行くべきか行かざるべきか。
先週からおかしな風邪をひいて、ときおり咳でむせてしまう。
この時期、人が集まる静かな場所へ行くと急に喉がいがいがして困ることがある。咳こんじゃいけない、むせちゃいけないと思えば思うほど喉のいがいがは増すような気がして、がまんするのに冷や汗が出る。
明日の美容院。シャンプー台とかパーマ液の匂いが鬼門だな。さて、どうしよう。
土曜の「サワコの朝」に黒田知永子さんが出ていた。この方は、年齢からの影響を微塵も感じさせないすっきりとした容貌と、気取りなく屈託のない人柄が魅力なんだろうなと思う。
午後に実家の母から電話があり、たまたまサワコの朝の黒田さんのはなしになった。「53歳ですってよ。あーた」。
「あーた」と言われてもわたしには何のリアクションもとりようがない。仕方がないので、「あの方のあのボウタイのブラウスは今期のグッチよね。グッチのフローラ柄、また最近出ているものね。スカートもグッチだと思うからたぶんあのお靴もグッチ。むかし流行ったハマトラが今風にアレンジされて、おはなしの内容と相まってぴったりの衣装だと思ったわ」。
「そりゃご本人の資質も努力も、並大抵じゃないんでしょうけど。なんていうか、ものすごく上手に無理なく時代の波に乗ってると思う。黒田さんは」。とはなしておく。
黒田さんがJJに出られなくなった頃、少しだけ年齢が下のわたしは「そりゃそうよね。」と思っていた。
どんな美女でも雑誌の表紙を飾る年齢は終わる。読む側の女性だって、人生が本格化してくるとファッション雑誌どころじゃなくなる。与謝野晶子だってうたっているじゃないか。「いのち短し 恋せよ乙女」と。
だから、VERYというアフターJJの出現には意表を突かれた。あの雑誌が創刊されたときに抱いた正直な感想は……「こんなの聞いてないよ」だったかも知れない。
「黒田さんが時代の波に乗ってるとか乗ってないとかの分析なんかより。あーた、また太ってるんじゃないでしょーね。何を着るにも問題はボディーよ。ボディーがダメならグッチだろうがセリーヌだろうが、ダメなものはダメってことよ。それにしても53歳であのスマートさはご立派。でも、あのひとのお話しはイマイチ記憶に残らなかったわ。
それよりあーた!阿川さんよ!阿川さん!阿川さんはいいひとなのに、阿川さんのあの番組のファッションはいただけないわ!!」
またしても「それをわたしに言われても」というはなしである。母基準で「あれはダメ!」でも、世間基準は「あれはかわいい!あれはナイス!」ってことになっている。(その証拠に「サワコの朝」の番組HPには、佐和子さんの衣装コーナーがあったりする)
だいたい「いいひとなのにあのファションはいただけない」という理屈が通るのか通らないのか。「いいひとはファッションもそれ相応でなければ『いいひと』としての全幅の信頼を寄せることができない」と母は言っているのかいないのか。そもそも「いいひと」とか「いただけるファッション」とはなんなのか。。。
母のいう「いいひと(女性)」とは、家事全般をそつなくこなし気配り目配りがゆきとどき、人品麗しく教養高く、懐の深い忠恕に通じる人柄に、少々の毒ある会話にも耐えうる「都会的な知性」(?)の持ち主でなければならない、ということになっている。
「年齢相応でTPOに応じたおしゃれができるというのは、それが洋装であれ、和装であれ、そのひとの教養の一部です」。
そんな持論は、前世期のひとの持論として母の中に封印しておいてくれればいいが、「阿川さんのあれはダメ!」と断ずる母の口調には、聞く者の疲労感への配慮はいささかも感じられない。その時点で母自身が「いいひと」ではない、とわたしは電話のこちらでうそぶいている。
よしんばこれが聞こえたとして、「そんなことはあーたに言われなくてもわかってます!」、母はきっとそう言うだろう。
とにもかくにも、注目を浴びる立場の方はたいへんだ。
阿川さんも黒田さんも、何がかなしくてここまでわたしたち母娘の話のタネにされなければならないのか。。。
嫉妬と羨望と。どちらに傾き過ぎてもいばらの棘が待ち構えている。
「阿川さんのあのファッションは…」という母の口調に、明日予約を入れている美容院で聞いたとあるはなしを思い出した。
かれこれ10年、お願いしている美容師さんはわたしより10才下の女性。老若男女幅広い客層で、人気があるので予約が取りづらい。
「そういえばうちにおかあさま(わたしが母のことを少し話したので)くらいのお客様がいらっしゃるんですけど。その方も毒舌なんです」
「これは、そのお客様の娘さんから聞いたはなしなんですけど。そもそもそのお客様は80代にはとても見えないきれいな方で、ここへ来られるときもいつもびっくりするほどおしゃれなんですが、最近おとしのせいで弱られて、ヘルパーさんを頼まれることになったそうなんです」
「担当に決まられたヘルパーさんが、ご挨拶がてらおうちに来られて、娘さんとそのお客様を前にひととおりの今後の説明をされたときに…」
「ヘルパーさんが帰られるまでそのお客様は一言もしゃべらずにじいっとヘルパーさんのことを見てらして、帰られたあとに娘さんに言われた言葉が…」
「ブスね~」。
「ブッスね~。もう少しなんとかすればいいのに」。
「そのはなしをされた娘さんも、母はそんなに悪いひとではないと思うんだけど、こと、女性のこの手のことになると猛烈な毒を吐くって話されてました。年をとって、おまけにこれからお世話をしていただく立場だっていうのに、いくらなんでもそれはないんじゃないの と思うけれど、でも、母はそれで生きてきたところのあるひとだから、娘としては黙って聞いてるいる以外なんとも返事のしようがない。としをとって足腰が弱っても母のその部分は決して弱りはしないってことに、ヘルパーさんには悪いけどある意味感心もした。———そういうはなしでしたよ」。
「これって、聞きようによってはとんでもないいじわるおばあさんってことですけど、別の聞き方では、ぷっと笑ってしまうはなしだと思うんですよね~」。
そりゃ笑う。ヘルパーさんにはとても悪いがわたしも笑わせてもらう。
だいいいち、わかる!わかりすぎる!その娘さんと機会があればぜひともお話しがしたい!
女性にとって、自他の美醜への自負とか偏見は、そのまま「生きるエネルギー」と直結することがあるから、これはとてもデリケートな問題だ。
80代のその豪胆なおかあさまの中には「自分は美しい」という核があり、うちの母には(自分では決して認めようとはしないけれど)「わたしはおしゃれだ」という核がある。ひとそれぞれ、いろんな核があり、核であるから熱量があるし、核であるから危険でもある。
それにしても。こんなはなしを聞かせてくれる美容師さんは、わたしのかなりの部分を理解してくれているようだ。
さて。今日は早めに寝て、明日の午後からの美容院へ行くことにしようか。
仕上がりがどうなるかは………、美容師さんとわたしの明日の波長が合うかどうかのイチかバチか。当たるも八卦当たらぬも八卦。。。
テレジア
なるほど。と拝読しました。
地方の小さな町に住んでいると、ファッションに対する感覚というのは、
(私の実家が特殊かもしれませんけど)都会のそれよりは、うんと偏差値が低いようです。
センスが悪いというのは、母や周囲の大人から聞いたことがありません。
つまり そういう認識がとても低いあるいは、ほとんどないというレベルの中で、
私は成長したわけです。ですので、完全に「センス」は欠落して育った。
ですので、「核」というと 「アイデンティテー」と捉えてしまうようで、それも 思考オンリーと
考えてしまいます。だから「 ブス 」のくだり、よくわからなくて、何度も読み返しました。
ようやく、もしかすると こういうことなんだろう とおぼろげに感じられたというわけです。
いろいろな見方や考え方があるのだな と改めて感じました。
体調早くよくなられますように。
nao
毒舌でいられるのはお元気だからです。
夫の母もきついことを言う人でしたが
娘である義姉が亡くなってから、急に大人しく力なくなってしまい
数年後に認知症になってしまいました。
私が嫁だということも忘れてとてもよくしてくれるようになり
うれしいの半分、寂しいの半分でした。
82歳の時、脳卒中であっという間に亡くなって
「アタシは120歳まで生きるよっ!」って言ってたのにな、と思います。
ま、元気でいたら、それはそれで悩みのタネだったかもしれないのですけど(笑)
爽子
この放送見てました。
サワコの朝は毎週録画してるので、ほぼ見てます。
苦手なゲストのときは、すっとばすときもありますが。
黒田チコさん、同年代なのに、スタイルよくて冷凍保存したかの印象を持ちました。
犬の散歩をするくらいで、特別なことは・・・・のコメントには、半眼の仏像のような顔になっちゃいましたが。
うちの母、義母ともに、他人の容貌にとても厳しいです。
ふたりとも、若いころ綺麗だったせいか、意地悪発言が多いですね。
ちょっとイケてた(たとえ自分基準だとしても)過去が、彼女たちの核となってるのかもしれません。
まあ、他で言うわけでもないので、迷惑もかからないでしょう。
元気の元なら、それでもいいかな・・・・。
その点、平凡な容姿に生まれた私は、そこまで言う気になれません。
私の肥満への口撃も、ビシバシと飛んでまいります。キエエエエ。
サヴァランさんの電話のこちら側の状況、よおぅくわかります。。。。
しまうま
2歳違いの実姉は、若い頃からその辺に厳しいタイプです。
人に対して「ブス」「ゲス」は元より服装に関しても「あんな服どこで買うんだろ?」などなど。
自分にどれ程自信があるのだろう…と私には姉が理解できない部分がずっとありました。
でも、中年期に入ったころから、姉の毒舌に対して決して大否定する事もない自分がズルく感じています。
内心、おんなじように思いながらも「自分を棚にあげてそんなこと…」と逃げ道をつくる自分に対し、いつもいつも「私はああはなりたくないから」と自信満々な姉。
姉が「私」みたいになってしまったら、やっぱり寂しいだろうな…と思ってます。
みかん
女性の本質をついた、鋭い言葉ですね!
「ひとそれぞれ、いろんな核があり、核であるから熱量があるし、核であるから危険でもある。」
自分もきついところはあるのに、他人の毒舌を聞くと、そこまで言わなくても・・・と思いますが、それぞれの人生で培ってきた核、さらっと流すのが一番ですね。
サヴァラン Post author
テレジアさん
お返事遅くてすみません。
お陰さまで風邪はすっかりよくなりました。
そうですね。
「アイデンティティー」ってひとことで言っても
それがインサイドよりの方とアウトサイドよりの方とでは
イメージするものが全く違いますよね。
「センス」というものも
これまた本当にその実態がつかみづらい。。。
若いころは一刻も早くとがった鉛筆で輪郭を捉えたかった
ことばたち。。。
今は鉛筆をとがらせる気持ちはなくなりました。
あれもあり。これもあり。それもあり。。。
それでいい、と小さい声でつぶやいています。
サヴァラン Post author
naoさま
お返事遅くてほんとうにすみません。
そうなんです。元気なんです。
そして そうなんです。
毒舌がやむ、その日が怖い。
軟着陸するっていう方法を
どうして考えないのかなぁ~
周囲のハラハラを燃料に変えて
毒舌老婆たちは今日も我が道を行く???
サヴァラン Post author
爽子さま
お返事今頃になってすみません。
黒田チコさん
VERYで復活された頃より、今の方が素敵な感じがします。
時代がまだコンサバよりだったせいかも知れませんが
なんか固い。なんかきつい。なんかがんばっちゃってる。
今は、
がんばっちゃってないのにさらりとキレイって。
若さの秘訣は「朝、夕の犬の散歩くらい?」って。
なんだよそれ。
爽子さまの
麗しきダブルお母様、ご様子がわかる気がします。
ほんっと「むかし美人」って「いま美人」に手厳しいですよね。
「そんなのあたくしは認めません!」って
栄光の座を後進に譲りたがらない。
あ、うちは違いますよ。
うちの母は
「あたしたちは元がザンネンなんだからすこ~しでもマシにっ!」って
わたしにキーキー言い続けてる。
義母は夢見る夢子さんなので
「あたしはまだイケている~」って、
鏡を♡マークで見続けている。
わたしは……もう何も申しますまい。
サヴァラン Post author
しまうまさま
お返事が遅くなって失礼してしまいました。
亡くなった佐野洋子さんと佐野さんのお姉様が
実のお母様が美貌自慢で美醜批判が手厳しかったことを
「おかあさんはなんであんなに自信があったんだろうね」
というおはなしをされていたように思います。
毒舌って
隣の席で聞かされるととげとげしてうんざりなんですが
少し遠くの席から聞くと
けっこうぴちぴちしていて愛くるしい感じがしたりする気が。
>姉が「私」みたいになってしまったら、やっぱり寂しいだろうな…と思ってます。
ああ、ここ、素敵♡
サヴァラン Post author
みかんさま
お返事が遅くなってしまい
ほんとうにほんとうに申し訳ございません。
コメント
ありがとうございます。
>それぞれの人生で培ってきた核、さらっと流すのが一番ですね。
ああ、ほんとうに。
一番言いたかったことを
さらりとおっしゃっていただいて。
至福。でございます。