熊本の地震に思う。
熊本を大きな地震が襲った。
いまだに余震と言うには大きめの地震が群発していて、さらに阿蘇山が噴火し、地域も大分へと広がっているという。
今までにも大きな災害はあったけれど、記憶にある中ではなんとなく、今までと違うという気持ちになってしまう。
個人的には九州は旅行で何度が行った程度で、熊本は特に一度しか訪れたことがない。ただ、その一度が強く記憶に残っていて忘れがたい。
確か二十代の前半。8ミリフィルムのムービーカメラを片手に、西日本を旅しながら映画を撮っていた。リュックサックの中はフィルムばかりで、着替えはほとんどなし。泊まった先で洗濯しては乾かして着替えていた。
大阪から夜行列車で鳥取へ行き、そこから4、5日かけて瀬戸内へと向かった。当時、萩・津和野への女性の一人旅がブームのようになっていて、女性であふれかえる萩を滞在時間2時間で後にして九州へと向かったのだった。
小倉から博多へ。そして、地図を見て決めた熊本の小天温泉が旅の最終地点になった。夏目漱石の草枕の舞台となった場所だということも、そこに行ってから知る始末。そんな具合だから、ただただ行き当たりばったりに右往左往するばかりで、いま思えば、もっと見ておく場所があっただろうにと思うのだけれど、結局は旅館に泊まって温泉に入って帰ってくるだけになってしまった。
ただ、小天温泉に向かう列車からの風景は良く覚えていて、夕日が射し込む中、列車は海沿いの土地の際をゆっくりと揺れながら走り、もう片方の窓からは何かの果物畑が延々と広がっていた。
あれから三十年以上経っても、あの風景だけは鮮明に覚えていて、そのほかの「ああ、この風景は忘れないだろう」とナレーションをつけて、8ミリ映画の中に組み込んだ景色のことは、そこに行った記憶さえ忘れてしまっている。
記憶とは不思議なものだと思う。そして、旅とは不思議なものだと思う。二十歳を過ぎたばかりのころ、たった二十日間ほど旅した時の記憶が五十を過ぎた今でもふいに鮮明によみがえる。
いまだに続発する余震の速報に遠く離れた場所から接していると、映像として放り込まれてくる被災地の様子と、三十年以上も前の記憶としての映像がなぜか隣り合わせになることがある。
今は数年後に思い出す記憶が、被災地の悲惨な風景ではなくそこから復興した笑顔であったり、または二十歳の僕が見たのどかな風景であることを祈るばかりだ。
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、神楽坂にあるオフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。
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