エピソード2 ★ 妻に引かれてマイカー時代へ。
聞いた話を形に残すことを仕事にしている「有限会社シリトリア」(→★)。
普通の人の、普通だけど、みんなに知ってほしいエピソードをご紹介していきます。
【エピソード 2】
戦争中は中学生で、自分も国のために戦うのだと思って育ち、
将来のことなんて何も考えていなかった、と言う博夫さん。
戦後、大学を卒業して就職すると、否応なく高度経済成長の波に巻き込まれます。
イケイケの世相の中、少しずつ豊かに、人生を楽しめるようになった
博夫さん世代の結婚はこんなふうでした。
家内とはお見合い結婚でした。昭和36年のことです。
知り合いの従姉妹という関係だったせいか、
初めて会ったのに、前から知っていたような気がしました。
のんびり屋のわたしとは正反対の性格で、
何事も自分でどんどん計画して実行するタイプ。
あるホテルで結婚式をしたんですが、
当日、わたしが着いたときに家内はまだ来ていない。
普通、花嫁は早く来て支度をしますよね。
当時は携帯電話もありませんし、
どうしたのかなあと心配していると、息せき切ってやってきました。
聞くと、たまたまその日は運転免許証が交付される日だったので、
警察に寄って、免許証を受け取ってきたと言うんです。
運転を習っているとは聞いていましたが、
何も結婚式の日に警察に行かなくても…。
車もないのに、せっかちな人だなあと思いました。
当時の日本は、昭和33年に発売されたスバル360が大人気。
とは言っても、月給4万円の時代に40万円くらいしましたから
普通のサラリーマンのわたしには手は出せないと思っていました。
結婚の翌年、長女が生まれました。
仕事はとにかく毎日忙しくて、
売上が右肩上がりでどんどん上がっていく時代でした。
あるとき、家内が突然、
「今日、車買ってきた」と言うんです。
もちろん中古車ですが、新聞の広告かなんかを見て店に行き、
自分で契約してきたとか。
まあ、買ったものはしょうがない。
それからは、休日に親子3人でよくドライブしました。
最初の頃は家内の運転で、少したってわたしも免許を取りました。
自分の将来なんて全然描けなかった少年が、
自家用車で妻と娘と休日にドライブする、
そんな時代が来るとは思いもしませんでしたよ。
わたしが55歳で定年を迎え、
これからはもっと一緒に旅行でもしようと思っていたら、
家内は病を得て、あっと言う間に逝ってしまいました。
ほんとにせっかちな人です。
もっと面倒を看てやりたかったなあと
今でもそれが心残りです。
(写真はイメージです)
- 写真/佐藤穂高(広島在住のプロカメラマンです)
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いまねえ
淡々と飾り立てもなく、、この博夫さんの世代、
つまり我が両親とほぼ同じ世代ですか、
少ない言葉なのにこちらのご一家の暮らしの息が
すっと鼻から胸に入ってくるようです。
思わず鼻から目へと突き上げて、涙がこぼれました。
まゆぽ Post author
いまねえさん、うれしいコメントありがとうございます。
「淡々と」なんです、たしかに。
その渦中ではさまざまな思いが交錯したはずなのですが、
時間というフィルターを通して残った気持ちを語るときは
「淡々と」なんですねえ。
それだけに言葉は重い。
おっしゃる通り、わたしたちの親世代、
昭和ひと桁生まれは成長期を戦争の中で過ごし、
高度成長期の担い手となり、
バブル後の難しい時代に第一線を退いて、
今、80代を迎えています。
聞きたいことがたくさんある、わたし的注目世代です。