イチョウの街で
聖徳太子のような耳が欲しい、と思う。同時に何人もの話が聞けるというあの耳、私にくださいな。
番組中は、放送を聴きながら、段取りを考えたり、原稿を読んだり、スタッフが話すのを聴いたりしなければならないので、結構つらい。あっちを聴いて、こっちも聴いて、その合間に考えて…、指示を出して…、えっとさっきの何だったかな?あれ、私何しようとしたんだっけ??
放送を聴きながら人と話すと、トンチンカンなことになる。必要な書類をブースに届けてくれた局員に対して「ありがとうございました」というべきところを、「ありがとうござった!」と言ってしまい、絶句された。私は何時代の人なのだろう?
放送が終わったら、しばらくは別のことをして、はりつめた神経を休める。軽く耳鳴りもするので、一人で静かなカフェに行ってボーっとすることが多い。行きつけのベーカリーカフェにはたくさんの古本や雑誌が置いてあり、それらを読みながら、熱いオーレとサンドイッチでひと息つく。(先日は星野道夫さんのエッセイを読みふけった。頭の中がアラスカの真冬の風景でいっぱいになった。このお店の本選びは素晴らしいのです。)
11月23日(水)は祝日、勤労感謝の日だった。いつものカフェは混んでいるかもしれない、だからどこかでパンでも買おうと、駅前や商店街をうろうろした。私が住んでいる街は、地方の小規模な工業都市。やや情緒に欠ける街並みだが、この時期は駅前のイチョウが黄金色に色付き、とてもきれいだ。歩道も落ち葉が敷き詰められて、黄色い絨毯のよう。あまりの美しさに、イチョウ並木を歩くこと20分、「コーヒー、飲んでぇ、いきませんかぁ」と子どもの声で呼び止められた。見ると、珈琲豆焙煎店の軒先に、エプロン姿のかわいい子どもが3人。びっくりしていると、お世話役の大人の店員さんが「今日の商店街は、子どもが主役。子ども達の職場体験の日なんですよ」と教えてくれる。
そうか!勤労感謝の日だからだ。紙コップに注がれたコーヒーをいただくと、なんだか嬉しくなって、「じゃ、コーヒー豆買います~!」とお店に入った。すると子ども達、目をキラキラさせながら、でもどうしてよいかわからず、右往左往…。もしかして、私、初めてのお客さん??側でシャッターを押す親御さんにきけば、全員が小学一年生で、これまでコーヒー豆など扱ったことがないとのこと。(大人の飲み物ですものね)
店員さんの指導を受けながら、たどたどしい手つきで豆を測る天使達。マシーンで挽いて(ボタンを押すだけ)・・・、包装して(手取り足とり)・・・、もみじのような手でお代を受け取って、お釣りを計算して(計算するのは店員さん)・・・。
ずいぶんと時間のかかる買い物だったが、子どもたちのドキドキワクワクがこちらにも伝わってきて、いい時間を過ごすことができた。最後に商品を受け取り、挨拶をしてお店を出たら、背後から親御さんや店員さんの拍手と、子どもたちの安堵の声が聴こえてきた。すごく温かい音だった。そして心から癒された瞬間だった。