上司に捧ぐ
かつての上司が他界した。ラジオの技術を主に担当した方で、新人の頃、機材の使い方を手取り足取り教えて下さった。通夜の後、当時の仲間が集い、思い出話に花をさかせた。
ミキサー卓のボタンをぶち抜いたことがある。編集作業中のことだった。気合を入れて、同時に二つのボタンをエイ!と押したところ、ボタンがズボッ!と抜けて、ミキサー卓に穴があいた!大慌てで上司を呼びに行くと、「こんな壊し方をするのは、あんたが初めてじゃ」とあきれられてしまったが、一生懸命修理して下さり、頭の下がる思いだった。
ケーブルを八の字巻きにする姿がかっこよかった。ケーブルの近くをハイヒールで歩くと、「こらあ!ヒール履いとる者は、近寄ったらいけん!ケーブル踏んだらダメになるんじゃ!」と怒られたものだ。
忘れられないのは、私が取材用のマイクをぐにゃぐにゃに壊した時のこと。
私の車にレポーターの女性Yちゃんを乗せて、取材に出かけた。取材先は局から車で一時間のところにあるお寿司屋さん。お店について、インタビューを録音しようとカセットデンスケをセット。あれ?マイクがない…。取材ができない…!!
お店の方に事情を説明し、改めて取材に伺うことを約束する。「マイクはどこに消えたんかな~。怒られるよぉぉ・・・」と叫びながら、帰りの車中でYちゃんが買った巻きずしをつまむ。そして、突然ひらめいた!思い出した!会社を出て1キロくらい走ったところで、なにか車の上からずり落ちるような音がしたことを。
その時はなんとも思わなかったが、あれは車のてっぺんからマイクと取材用の画板が落ちた音だったのだ。
私は当時、車に乗り込むとき、荷物の一部をいったん車の上に置く癖があった。その時もマイクと画板を車の上に置いて、後部座席にその他の荷物を積みこんで、マイクと画板を車の中に取り込むことなく、なんと車のてっぺんに載せたまま!!出発してしまったのだ。
そうとわかって、私たちは心当たりのある場所を猛烈に探した。30分くらいして、Yちゃんが「あった!あった!」と叫んだ。国道沿いの建物の傍に、誰かがおいてくれたのだろう。マイクが人目を避けるように、そっと縦に置かれていた。「よかったーーー!」と歓喜したのもつかの間、マイクの先が、車にひかれて、ぐにょんぐにょんになっている!!ひえぇぇぇぇ~!!・・・でももう、笑いしか出てこなかった。見つかった安堵感と、ぐにゃぐにゃのマイクの滑稽さと。涙がでるまで二人で大笑いした。
さて、会社に戻って、どう上司に打ち明けるか。その役をYちゃんが買ってでてくれた。Yちゃんは上司を見つけると、マイクも持って、突進。「○○さ~ん!〇〇さ~ん!取材に行く途中に私たちマイク失くしちゃってぇ、ものすごお~く探して見つけたら、なんでかわかんないけど、マイクがこ~んなになっちゃってぇ!ごめんなさい!ごめんなちゃい!〇〇さん、ごめんちゃい~!」
体をよじらせながらちゃめっけたっぷり演技する姿に、上司も思わず吹き出して、「どね~したら、こんなになるんか知らんけど、、、(笑)ハッハッハ、、、なんかねこりゃあ、、、ブフッ(笑)、、、わしゃぁ、こんなになったマイクはみたことないよ、、、まあええよ、マイクは代わりがよ~け~あるから、、、クックッ(肩笑)、、、」
とお許しを頂くことに成功!ほっと胸をなでおろしたのでした。ああ、懐かしい。
優しい上司、情に厚い上司、本当にお世話になりました。年の瀬に昔を思い出した数日間でした。