ベストアルバムを買うなんて。
生まれて初めて自分のお金で買ったレコードアルバム(CDじゃなくてアナログレコードね)は、カーペンターズの『緑の地平線』だった。中学生の頃だ。
当時は邦楽を聴くという同級生がほとんどいなくて、みんな英語もわからないくせに洋楽を聴いていた。それに、日本でポップスやロックをやっているプロたちももっとあからさまに洋楽の中途半端なコピーのようだったから、「本物を聴くなら洋楽だ」という気分だったのかも知れない。
もちろん、あとから「はっぴいえんど」とか日本語ロックのおもしろいバンドがたくさんあったことを知るのだけれど、このあたりはあんまり僕たちが聴いていたラジオやテレビでは流れることが少なかった。
あ、別に当時の洋楽と邦楽について語ろうと思ったわけではないのでした。ベストアルバムについて、です。
当時から、いろんなアーティストのベストアルバムはあるにはあった。あったけれど、僕の周囲でベストアルバムを買って聴いている人はあまりいなかったと思う。どちらかというと、みんなオリジナルのアルバムを手に入れて、それをオリジナルの曲順通りに何度も何度も聞いていたのではないだろうか。
LPアルバムだから5曲か6曲でB面に裏返して、再び針を落とすということを繰り返して、曲順を覚えてしまうほどに聞き込んだものだった。そうやってアルバムを聴いていると、作り込まれたアルバムだと「ああ、ここにこの曲が入るからこそ、次の曲が始まった瞬間に霧が晴れたように感じるんだな」なんて思うことがあるのだった。
ところがCDの時代になると、デジタル技術のメリットを代表する機能として「シャッフル」というボタンが付くようになった。ランダムに曲順に関係なく再生してくれる機能だ。最初はオリジナルの曲順で聴いていても、だんだんと飽きてくると「シャッフル」ボタンを押すようになる。すると、飽きてきたアルバムが新鮮に聴けたりもする。さらに、以前のようにいちいち針を上げたり下げたりしなくてもいいので、少しでも「いまいちだな」と思った曲は飛ばされてしまうことが多くなってきた。
好きな曲だけを好きな順番で聴く。こうなるとオリジナルのアルバムだって、限りなくベストアルバムに近くなる。アナログのLPレコードを曲順通りに何度も聴きながら、なんとなく「いまいちだな」と思った曲がある日突然、「とても良い曲だな」と思えるチャンスが格段に減ってしまったのだ。
僕たちの世代に漂っていた「ベストアルバムを聴くなんて邪道だ。オリジナルアルバムを聴くべきだ」という気分が、デジタルメディアの登場で、吹き飛んだのだと僕は感じたのだった。
いま、僕のCDの棚にはベストアルバムがたくさんある。大好きだったアーティストのアルバムをアナログからデジタルに入れ替える時に、すべてをCDで買い直すこともしなくなった。ベストアルバムを買って、そのベストアルバムにない曲は、配信でダウンロードする。そんなことも簡単にできる時代だ。ということは、聴かない曲はとことん最後まで聴かなくなってしまう。
それが選べる喜びなのかと言われると、なんだか違うなあ、と思うのだけれど、音楽を聴くという趣味の世界に「あえて、邪魔くさいことをしてみればいいよ」という忠告は若い人にはあまり届かないし、逆に選んで選んで退屈してから見つけられる何かもあるだろうと思ったりもする。
ちなみに、生まれて初めて買ったカーペンターズの『緑の地平線』というアルバムの中で、僕が最初「いまいちだな」と思い、途中で「良い曲だ」と思うようになった曲は『デスペラード』という曲だった。
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、神楽坂にあるオフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。
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okosama
uematsuさん、こんばんは。
え?デスペラードてイーグルス違うん?と思って検索しました。カーペンターズがカバーしてるんですね。
そういえば、車のHDDではお気に入りの曲以外は削除してますね。自分で書いておきながら、削除って、音楽とは遠いところにある言葉に思えます。
uematsu Post author
okosamaさん
そうなんです。
「オンリー・イエスタデイ」聴きたさにアルバムを買った中学生にはまだまだイーグルスは遠い存在で。
たしかまだ「ホテル・カリフォルニア」がヒットする前だったし。
ということで、「デスペラード」は渋すぎたんでしょうね。
今更ながら、CDになったから買ったアルバムは、聞いていない曲と聞き込んだ曲の落差がはげしいです。ほんと。
nao
ミュージシャンもひとつのアルバムを作るのにストーリーというか構成を考えているようなので
単品で聴いているよりアルバムを通して聴く方が納得いく時もあります。
ま気に入ればレコード時代でも何度も同じ曲ばかり聴いていましたが。
それに、私のお葬式にはロッド・スチュアートのベストヒッツが流れることになっています(笑)
青春の曲はやっぱ洋楽なんですよ。
uematsu Post author
naoさん
今思えば、大したことのない、割と貧弱なアルバムでさえ「いや、この曲がここに入っているのは、アーティストのこだわりがあるに違いない!」とか思い込んで聞いたりしてました(笑)。