フィンランドにいる小津安二郎の息子
フィンランドにアキ・カウリスマキという映画監督がいる。小津生誕100周年のときに、世界の映画監督にコメントをもらうという企画があり、僕はそれをYouTubeで見たのだけれど、そこで、アキ・カウリスマキは「オヅサン…」と小津の写真に日本語で語りかけた。そして、その後は母国語で「僕はこれまでにつまらない映画を撮ってきた。そして、小津さんに近づくためにあと何本かのつまらない映画を撮るだろう。小津さん、僕の赤いケトルはどこにあるのだろう」と続けたのである。
彼は、文学を志していたのだが、大学時代に小津安二郎の映画を見てしまい、そこから小津に魅せられて映画を撮り続けている。ストーリーや演出は小津とは違うのだが、映画のリズムによって物語を紡ごうという姿勢は、世界中の誰よりも小津安二郎のDNAを宿していると言える作風である。
日本にはほとんどいない小津安二郎の息子が遠く離れたフィンランドで映画を作り続けている。そのことに僕は感動してしまうのである。
そして、そんなアキ・カウリスマキの新作がまもなくやってくる。新作『希望のかなた』は12月に公開予定だ。第67回のベルリン国際映画祭で監督賞を受賞したこの作品は、難民三部作の第二弾と位置づけられている。第一弾は『ル・アーヴルの靴みがき』である。
ご覧になった方もいると思うが、難民三部作と銘打っていたからと言って、『ル・アーブルの靴みがき』がことさら政治的な映画なのではない。難民の少年とふれあうことで、ほんのわずかな生活の変化を楽しむ初老の主人公が実に瑞々しく描かれている。そして、アキ・カウリスマキの作品に出てくる登場人物たちはみんな少し貧しくて、ほんとうに優しい。
願わくば、アキ・カウリスマキの映画を見て、ふと小津映画の素晴らしさに気付いた若い映画作家が、リズムで映画を物語るという基本に立ち返ってくれればと思う。映画の文体というかテンポというか肉体というか。そういうものを確実に小津映画から受け継ぎ、形にしてきたアキ・カウリスマキの新作が同時代で見られる喜びをこの国の観客はもっと手放しで喜んでいい。
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、神楽坂にあるオフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。
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アンジェラ
こんにちは
カウリスマキというと私が思い出すのは20年以上前に観たラ・ヴィ・ド・ボエームのエンディングで流れてた曲「雪の降る街を」
ここでなんでこの曲!?という印象が強すぎて、映画の内容をほぼ忘れるという有様です。
今度の映画にもラ・ヴィ・ド・ボエームに出てた俳優さんが出ているとのこと。
久々にその手のタイプの映画を観に行きたくなりました。行けるかなあ。
アンジェラ
ごめんなさい
ラ・ヴィ・ド・ボエームに出てた俳優さんが出てたのはル・アーブルの靴みがきの方ですね。
uematsu Post author
アンジェラさん
こんにちは。
どちらも大好きです。
アキ・カウリスマキのテンポで見せつつ、同時に人の感情の動きを見せる、というのができる映画作家って、本当に稀有な存在だと思います。
ほんと、あの唐突感も魅力ですね