楽しいパントマイム
一年の計は元旦にあり。
新年最初の「なんかすごい。」、昨日の更新ができなかった理由は、
なにをかくそう、投稿日を忘れていた。
昨日朝、職場に向かうバスの中でハッ…!と気が付き、ふるえる手でカレンダーの木曜日を数えると、18日は、1…2…3……3つめの木曜日…。
サササーーーッと血の気がひいていく音がして、あわててカリーナさんにメールを送りました。ああ、これがインフルエンザと言えたなら!(←罰当たり)
しかし体はピンピンしている。ほんとうに申し訳ない…。
今年も、どうぞよろしくお願いいたします!
クリスマスから年始にかけて、ワイト島のオットの実家に行っていた。
ポーツマスからフェリーに乗って20分、義母の住むRydeは、フェリーの着く桟橋のある海沿いの町で、ヴィクトリア時代に発展したこの町は、島で2番目に大きい。はずなのだが、町なかとよべるものはユニオン・ストリートとハイ・ストリートという、一本につながった目抜き通りの長い坂道っきりしかない。
義母の家へは、ゆっくり歩いてもせいぜい10分、しかしそこはもう町外れである。義母は、通りに買い物に出ることを「町へ行く」と表現している。
今回は2週間滞在して、その間ほとんど町からでることがなかった。去年の10月、買い物帰りに家の前で転んでひどく顔面を打っていらい、ほとんど外出をしなくなってしまった義母と過ごす時間や、彼女がふだんひとりではできない家周りの細々としたしごと。その間に、クリスマスがあり、新年があり、少ないながらもお客がきたりして、このちいさな世界は、それなりに忙しいのだった。
だいたい、夏の観光でなりたっているこの島は、冬には閉まっているお店が多い。12、1月のこの時期は、4時にはすっかり日が暮れて、開いている店も、日没とともに店じまい。
18時頃、スーパー(スーパーだけは開いている)からの帰り道、まるで深夜のような静けさのなか、10代の女の子たちが「Oh my God!! Ryde is SO DEAD!!!」とさけんでげらげら笑いながら通り過ぎたのを見て、私たちも思わずふきだしてしまった。
そんななか、唯一、年の暮れにパントマイムを観にでかけた。
パントマイムというと、手袋をした人が見えない壁をペタペタさわる、あのパフォーマンスを連想するけれど、イギリスでパントマイムといったら、クリスマスから新年にかけて決まっておこなわれる、家族向けのミュージカル・コメディ芝居のことをいうらしい。
ちょうど、近くの町の劇場で、「ディック・ウィッティントンとねこ」がかかっていたので、オットと、私と、義母の友人Cの3人分予約する。(義母は、「あんなうるさいのは、ごめんよ」と言って来なかった。)
パントマイムは、「アラジン」や「シンデレラ」など、誰でも知っているおとぎ話が題材になっていて、「ディック・ウィッティントン〜」も定番中の定番、ということである。これは、若きディック・ウィッティントンが、相棒の猫に助けられて大冒険をしたのち、みごと初代ロンドン市長になるまでを描いたおとぎばなし。
オットや皆の話を総合すると、イギリスでは、子どもがある程度大きくなると(小学生とか)、必ず一度は連れてこられるものらしい。
そして、伝統的に、主人公の青年は女の人が演じ、どの演目にも必ず登場する中年の女性(Dame)は、男の人が扮するものなのだそうだ。
「パントマイムを観にいくんだー」と言うと、みんな「はじめてなの?!わーお!」と驚き、「観客もいろいろしなきゃなんないことがあるのよ、手をたたいたり、足踏みしたり、かけごえも決まってるの!」とパントの極意を教えてくれる。
当日、車で30分くらいのところにあるShanklinという町にその劇場はあった。
Shanklinは、茅葺き屋根の古い家々が残り、アンティークショップやティーハウスが点在する、夏には人気の観光地だが、真冬の今は当然静まり返っている。まあそれはどうでもいい。
それでも、時刻がせまると、みんなぞくぞくと劇場にやってきて、客席は開演を待つ人々の独特の高揚感でいっぱいになった。
あたりまえだが、みんな子ども連れだ。70代、50代、40代のいい年した3人連れなんて、わたしたち以外に見当たらない。
が、まわりを見渡してみて、わたしは、楽しみにしているのはどうやらおとなだぞ、とあやしんでいる。なぜなら、子どもひとりに対し、ついてくるおとなの数がやたらに多いからである。そして劇場内にはバーがあり、開演までの待ち時間、みんな酒をのんでいる。
舞台は、歌あり、踊りあり、ジョークやスラップスティックコメディ満載の、あっというまの2時間半で、皆が言っていたとおり、私たち観客は、立ったり座ったり、手をたたいて、足踏みして、悪者がでてくればみんなでhissing(威嚇)、はては大きな波が船をおそうシーンでは、「予算がないからみんなが波をやってくれ!」と、ウェーブまでやらされて、たいへんに忙しかった。義母は来なくて正解である。
貧しいが、若く希望にあふれた青年と、町の有力者の娘とのボーイ・ミーツ・ガール、そこに立ちはだかる、町の支配をねらう大悪人King Ratに、相棒の猫と力を合わせて知恵と勇気で立ち向かい、みごと悪人をたおして大団円のハッピーエンド。
夢中で愛を語らうふたりの後ろに、大きな蜘蛛がおりてきて、観客が「わー!わー!うしろ!」というところなんか、完全に「志村うしろ」…ド、ドリフ!!
そして、男性扮するすごいドレスのDameが、観客のひとりをいけにえにして放つひわいなギャグ(言葉の二重の意味をつかったギャグで、子どもにはわからないようになっている(ってことになっている)。わたしもけっこうわからない。)も、いたるところで出てくる失礼きわまりない地元(僻地)ネタのジョークも、すべてが予定調和。なんてすばらしい予定調和!!私は予定調和が好きだ。
あと、まじりけなしの悪人(憎めないけど)King Ratが、ミュージカル「キレイ」のときの松尾スズキにしかみえなかったということも、忘れずに言っておきたい…。
ああ、おもしろかった!と帰ってきたわたしたちに、義母は、「昔あなたたち(オットと兄弟)が小さかったとき一回連れていったけれど、二度と行きたいって言わなかったじゃないの。」と言っていた。
そういうものかもしれない。もし子どものときに観たら、「こんな、子どもだましの出しもの!」と、そう言ってのけるようなおとなでありたくて、とうとうそう思い込んでしまったかもしれないなあ。「楽しかった!」という正直な気持ちはないことにして。
いいおとなで、子どもっぽいと思われることなんか、ぜんぜんなんでもないことになった今だから、掛け値なしに楽しめるのかもしれない。
子どもってわりと不便なことがある。
ところで、この島のありようをよくあらわす地元ネタとしてわりと有名なのが、島で一番大きな町Newportに、ワイト島初のエスカレーターがやってきたときの逸話である。
ときは90年代始め。British Home Stores(BHS)という百貨店の店内に設置された、世にもめずらしい動く階段をひとめ見ようと、多くの島人たちが列をつくったという…。
ちょっと調べたら、2014年くらいのネットの記事で、「つい最近までワイト島にはエスカレーターがそれだけしかなかった。今はもうちょっと、2つか3つくらいはあります。」というような記述があって、そりゃあ小さいけれど、本土からフェリーでたった20分の、ロンドンまで通勤する人だってそれなりにいるくらいのこの島で、なぜ「ワイト島!=時代から取り残された島!」みたいなイメージがイギリス中で共有されているのか…そして島の人々が、どこかそれを歓迎しているようなふしがあるのも愉快で、私はその話がたいへん気に入っている。
by はらぷ
※「なんかすごい。」は、毎月第3木曜の更新です。はらぷさんのブログはこちら。
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AЯKO
なんだか地元の人がみんな集まってる劇場で、観客も参加してとても楽しそう!
いい大人になったから正直に好きって言えることってあります!レジャーだって大体大人が楽しんでるのだよ。子供は疲れてむくれてたりね(笑)。
中年の女性を男性が演じるっていうのは、ロイヤルバレエのアシュトン振付の「シンデレラ」の意地悪な姉さん達(醜い笑わせ役)とかも、そうだわ。そのミュージカルコメディの伝統から来てるのかもと今気づきました。
はらぷ Post author
AЯKOさん
こんばんは。今年もどうぞどうぞよろしくお願いいたします!
そう、そうなんですよー。この劇場、じつは一度町が売却しようとしたことがあるらしく(町の真ん中にある歴史ある劇場なのにひどいな!)、それを地元のひとたちが買い取って、ぜんぶボランティアで運営するようになって6年目なんだそうです。
受付の人も、バーでお酒作ってる人もボランティアの人たちで、きっと運営は火の車…と想像されるんだけど、みんな楽しそうで、その親密な空気が会場にも伝わって、とってもよい雰囲気でした。
あと、地元の子どもたちがたくさん舞台に出演していて、ちょっとした我が子の晴れ舞台的な高揚感もあったみたいです。そんなところもいいなあ!
意外と、おとなになって自由になったことって多いですよね。
わたしは、子どものときのほうがなんだかがんじがらめで(自分で自分をね)、不自由でもったいなかったなあ。だからおとなのほうがいいです(笑)
パントマイムの「シンデレラ」でも、男性が演じるのは2人の姉さんだそうです。
アシェトンは英国ロイヤルバレエのひとなのですね。これはなるほどだぞ!
ネットで調べてみたら、演出もすごく美しくて、いつか観てみたいものです!