野田秀樹の『Q』
野田秀樹が率いるユニット野田地図/NODA・MAPの演劇『Q』を観た。シェークスピアの『ロミオとジュリエット』の後日談という設定で、若き日のロミオとジュリエットを志尊淳と広瀬すずが演じる。そして、その二人の後の姿を演じるのが川上隆也と松たか子である。狂言回しとして竹中直人と野田秀樹が登場し、いつものパラレルな世界を役者たちは縦横に行き来しながら、やがて物語がひとつに集約されていく、という流れはいつもの野田ワールドである。
しかし、今回はそこにもう一つの要素が加わっていた。それがQueenの『オペラ座の夜』。なぜQueenなのか、という疑問はサイトを見ていてすぐに解けた。ソニー側がQueen側に、と言ってもフレディ・マーキュリー以外の現存するQueenたちに「これまでのQueenの音楽を使用して、なにか新しいエンターテインメントを一緒に作らないか」と打診し、これをQueen側が許諾。さらに、ソニーから打診を受けた野田秀樹がこれを受けた、ということだった。
そして、本人も語っているけれど、「Queenの音楽がすごくて、音楽によって場面展開を考えた部分がほとんどだった」というのである。つまり、この『Q』という芝居はQueenの音楽ありきで作られたお芝居と言うことになる。そこが、野田秀樹自身が語っているように「どちらかというと、オペラの演出を頼まれた感覚」に近かったのだろう。これまでの野田秀樹の芝居とは少し違う印象を受けた。
正直、中盤から大団円に持ち込むまでの部分では、Queenがぐいぐいと展開を引っ張りすぎて、「多少強引だな」とか「音楽がちょいと出過ぎだな」という部分があった。さすがに野田秀樹もロミオとジュリエットに源平合戦を持ち込み、さらにパラレルな二人一役状態を作り出し、Queenの音楽にどっぷりつけるのはしんどいのか、と思ったりもしたのだが、でも、さすがに野田秀樹だった。
最期の最期、見事にすべてのストーリーをまとめ上げてくれたことで、休憩込みで約3時間の長丁場の芝居を飽きることなく引っ張り、東京芸術劇場プレイハウスのほぼ全員が総立ちのスタンディングオベーションとなった。
僕は夢の遊眠社の頃から野田秀樹のファンだけれど、その理由は簡単だ。混沌とした世界を創り出して、そこから抜け出そうとする主人公を描いているから。そして、その抜け出す手段がいつもフィジカルな行動とポジティブな思考に裏付けられているから。
80年代の大阪上本町の近鉄劇場、舞台の上で汗だくで走り回る役者たちと鳴り響く効果音のなかに、野田秀樹がふいに弱々しく立ち上がって、「おおおおおおおい」と高く細くかすれた声で呼びかける。「おおおおおおおおおおい」満席の場内がシーンと静まりかえり、野田秀樹の声を聞く。そこから畳みかけるようなセリフが大きなうねりになって野田秀樹の細い声だけで、見ている観客一人一人の心が同じようにうねり始める……。
あの感覚はまるで変わっていない。野田秀樹が直接放っていたあの声を松たか子が、川上隆也が、広瀬すずが、志尊淳が発する。それが、東京芸術劇場の芸術監督という立場にいながら、いまだに体制側につかない野田秀樹の不自由な面白さなのだと思う。しかし、どうして、野田秀樹はいつまでも体制側につかないでいられるのだろう。国立の劇場を遊び場に出来るのだろうと考えていたのだけれど、そういえば、と思いいたった。そう言えば、野田秀樹は元々東大の駒場劇場から彗星のごとく現れた人だった。サブカルチャーのように見えて、実は王道を行くその奇妙な歩みは、出自から決定されていたのか、と妙に納得してしまったのだった。
植松さんとデザイナーのヤブウチさんがラインスタンプを作りました。
ネコのマロンとは?→★
「ネコのマロン」販売サイト
https://store.line.me/stickershop/product/1150262/ja
クリエイターズスタンプのところで、検索した方がはやいかも。
そして、こちらが「ネコのマロン、参院選に立つ。」のサイト
http://www.isana-ad.com/maron/pc/
植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在は、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師も務める。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。サイト:オフィス★イサナ
★これまでの植松さんの記事は、こちらからどうぞ。
Jane
あらー私も野田秀樹が夢の遊眠社やっていたころファンでしたよ。そして今週は娘が参加しているオーケストラの演奏したチャイコフスキーのロミオとジュリエットを聴いたのをきっかけにしばしばロミオとジュリエットのことを考えていたのでした、野田秀樹が今そんな芝居をやっていると知らずに。またまたちょっとシンクロでした。
uematsu Post author
Janeさん
それは奇遇ですね。
なんか、あの頃のワクワクした感覚を思い出して、
とてもうれしい気分になるお芝居でした。