『ラブ&ポップ』、その後。
前回、庵野秀明監督が90年代の終わりに作った映画『ラブ&ポップ』がいかに面白いか、という話を書いた。U-NEXTなどの配信で見られるので、ぜひ、という気持ちで書いたのだが、少し待っていただきたい。なんなら、見るのはやめてください、という気持ちになっている。
この映画、1998年の公開なので、僕がまだ30代の真ん中で見ている。なので、いまだにその頃の感覚で見ているからかもしれないが、僕はとても面白く見られる。面白いというと語弊があるかもしれないが、援助交際が盛んだった時代背景を「気持ち悪い」と思う気持ちも含めて、この作品の優れた完成が胸を打つ。
しかし、である。先日、19歳20歳あたりの学生にこの映画を見せたところ、思いのほか不評なのである。中には僕と同様、この作品の魅力にはまった学生もいる。魅力がわからないまでも「なんだか気持ちを代弁されているような気になった」という女子学生もいた。ただ、正反対の声も数多く届いた。「気持ち悪い」「画面が動きすぎて良いそう」「なぜ、庵野監督がこんな映画を撮ったのかがわからない」という声が、思いのほか多くて正直凹んでいる。
好きとか嫌いは、批評にはならない。自分が嫌いでも優れた映画はいくらでもある。僕なんて、自分が嫌いなのに世間の評価が高いという映画のほうが多いくらいだ。でも、そんな映画を「嫌い」と吐き捨てるような真似はしない。僕が嫌いだという思う気持ちはとても大切だが、嫌いなのにどうしてここは心に残るのだろう、とか。嫌いだけれど、ここが気になるのはなぜだろう、とか。極端に言えば、嫌いだと思わせられるからには、なにかあるに違いない、と思ったりもする。
しかし、今どきの学生さんは一刀両断である。「嫌い。二度と見たくない」と来る。こうなると、もう先はない。僕が『ラブ&ポップ』を見せたことで、彼らと庵野秀明監督との接点がなくなってしまう。こういうことが目的ではないのだ。自分の好みでなくても、こんな作り方があるのか。こんな感じ方があるのか。という多様性を見つけることが自分自身の表現の可能性を広げ、新しい発見に繋がるのだということを実践して欲しい。たぶん、いろんな人がそう思いながら、古今東西の名作を学生たちに薦める。しかし、それを頑なに受け入れない学生が増えているのは確かだと思う。
今回に限っていつもの年よりも嫌悪派が多いのか。そこが僕にはよくわからない。どうしてだろう。僕が唯一考えついたのは、今回の授業がオンライン授業だったということだ。いつもの年なら、大きなスクリーンで見せるので、そこに座っていれば「映画」として『ラブ&ポップ』という作品が通り過ぎていく。しかし、オンライン授業の場合は多くの学生が自分の部屋で、自分のパソコンやタブレット、スマホで見る。援助交際に関わる気持ちの悪いシーンも確かにあるので、それらの場面が自分がいつもYouTubeなどを寝そべりながら見ている画面に現れる。と考えると、それはもしかしたら、かなり気持ちの悪い事かもしれない。
でも、もしかしたら、最近の学生が映画やドラマよりもミュージックビデオを撮りたがる傾向があることにも、なにか関係しているのかもしれない。濃い人間関係を描くよりも、いわゆるエモいと言われるカットの連続でムードで見せてしまう。そんな映像に慣れ、そんな作品に憧れていれば、女子高生を性の対象として見る男たちの気持ち悪さは耐えがたいのかもしれない。
「いまがそんな時代じゃなくてよかった」と書いた女子学生もいた。僕から見たら、ブルセラショップもなく、水面下でいくらでも不特定多数の人々と一瞬にしてやりとりできる現代の方が闇が深いと思うのだが、彼女から見ると「欲しいものがあればバイトをする」そんな時代で良かった、ということらしい。そんな馬鹿な、という気もするが、見ないでおこうと思えば、いくらでもなかったことにできる時代なのだろう。そして、見てしまうとその瞬間から地獄から抜け出せない。
そう考えると、『ラブ&ポップ』の牧歌的な地獄が懐くなる。と書くとまた誤解をされそうだが、なんだか、そんな感じ。
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在は、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師も務める。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。サイト:オフィス★イサナ
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