〈 晴れ 時々やさぐれ日記 〉ああ、「エレガンスにいたる道」①。友人とわたしのあいだ。
――— 46歳主婦 サヴァランがつづる 晴れ ときどき やさぐれ日記 ―――
「ねえねえわたしたち。こんなおちびでこんな顔だけど、エレガンスっていう言葉にむかしっから弱いじゃない」
「そうそう。恥ずかしくって、ひとさまの前では言えない言葉だけど、エレガンス方面、実は気になる」
「エレガンスって、わたしのことよ♪って言える日は永遠に来ないけど、なんかさぁ、最後の最後にさぁ、このひとはこう見えて、ケッコウ、エレガントな人だったよねって、誰かがかすかにつぶやいてくれれば、それってかなりうれしくない?」
古い友人とのはなしです。お許しください。
先週のカリーナさんの記事 「エレガンスへいたる道は 誰にでも用意されているのかも知れない」。わたしはとても感銘を受けました。
「エレガンス」に弱いわたしと友人は、いまだに「エレガンス」の意味を理解しきれていません。
カリーナさんが紹介してくださった中井久夫先生は、わたしは震災の頃にそのお名前を知り、以来幾編かを読ませていただいています。
追い詰められ、暴力という防御機能で抗しようとする精神科の患者さんに、医療者が興奮してしまわないために、中井先生はこころの中で上のようにつぶやくことをなさる。
攻撃性を露わにする相手を前に、間合いを切りゆるみをもたせ、一歩引くことで視界を広げる余裕とゆとり。「きみもわたしも」と呼吸を同じくする親和性。― 『プロ的エレガンス』
「エレガンスとは、自分を知り、人に優しくなれること」
ファッションエッセイストの光野桃さんはおっしゃいます。「自分を知る」ことはむずかしく、逃げる影を追うような作業でもありますが、「自分を知る」ことで生まれるものは、大きすぎもせず小さすぎもしない、納得のいく「この一枚」の洋服をまとうような、ゆくりない安寧のような気もします。
自分の影を追いながら視界に入るさまざまな光景。どの光景をとってみても、一歩近づけば一歩遠のく逃げ水のような景色。 逃げ水のような景色の中の とるにたらない陽炎のような自分。
そんなものをぼんやり思い描く瞬間があると、どこからだかふしぎと、自他の境界を取り払ったいとおしさという感情が、体のすみずみに充満しはじめます。
冒頭の友人は弾丸トークの主で、「エレガンス」から「美人論」へと、電話回線を猛進します。
「 エレガンスは自分を知るところからくる余裕。。。それはそうよね。ゆとりや余裕のないところにエレガンスは立ち上らないわ。確かに。。。(少しだけ小休止。エレガンスという紫煙をアタマの中で立ち上らせている模様)
うーむ。鶏が先か卵が先かじゃないけどさ、エレガンスが先か、ゆとりが先か、ってことよね。自分を知って、ひととのやりとりがなめらか~になったあと、やがてゆっくりとエレガンスの空気が立ち上る。。。
おーーー、今何時? うちさー、今、卵、いっぱい余ってるのよね。
卵もさ。よーくみると美人な卵とそうでない卵があるじゃない。あのさ、ニンゲンの美人不美人って、結局骨格でしょ。骨格ってあーた、もうどーにもならないでしょ。どーにもならないものって、あーた、見た目の骨格ばっかりじゃないじゃない。
でもさ、このあいだ気が付いたのよ。ちょっとグロテスクなはなしをするけどさ。。。
ほらむかし、怖いから行かなかったイタリアのカタコンベ。あそこにいつの日かずらーっと自分が並んだとするじゃない。何?あそこに自分がずらーっとは並ばないって?それもそうね。
いいから!ずらーっと並んだら美人も不美人もあったもんじゃないってことよ、大事なのは。そりゃ、ひとつひとつ見比べれば、ほらあれ、黄金比っていうの?そのものさしで違いは出てくる。卵のパックの中の卵とおんなじよ。違いはないようである、あるようでない。
言いたいのはね、わたしやあーたが、どれだけ非・黄金比率かってことは、今もこれからも本人以外には誰も関心ないってことよ。 あるのはさー、大美人もわたしたちも、つまりはパックの中の卵とおんなじじゃん!っていう生き物としての愛の発見!わ、ちょっとたいへんなこと言ってるわ、わたし。
生き物としての愛、そんなこと思ったらさー、すんごく欲しくて夢にまで見たバッグなんてさー。 えーなに?なんで急にまたバッグかって?もういいから!まだお米研いでないんだから!
とにかくさ。あーもーあれはいらんなーって、すんごい悟りにいたってさー。おかげでほら、すんばらしい節約ができたってわけ。わたしって、すばらしいでしょー。あんまりすばらしいから、このはなし湯気がたってるうちに報告しとこうと思って、お米も研いでないのに電話したわよ。
なんかこうさ、取捨選択がすぱっとできるってエレガントよねー。あーたこないだ言ったじゃない?「エレガンス」はもともとギリシャ語のエレ…エリ…、とにかくほら「選ぶ」って言葉が語源らしいって。
ね?ほら。ちゃ~んとエレガンスに着地したわよ。 ところでさー、あーた今晩何つくる? 卵よ卵、卵と それからピーマンが大量に使えるメニュー、何かない? 」
朋あり。遠方より(突然電話で)来たる。亦たのしからずや。