第56回 イブの時間
「AI(エーアイ/アーティフィシャル・インテリジェンス/人口知能)」という言葉が私の耳に入ってきて10年以上は経っていると思う。自分が高齢者になる頃には、人型の万能ロボットが登場するのか!?とワクワクした。子どもの頃からアニメや漫画で、ヒト型ロボットに親しんできたからだろう。
しかし、今のところ現実で目にするのは、なでると可愛いリアクションをする癒し系や、主に情報を提供してくれる据え置き型、簡単な会話ができるなど単機能のロボット(あるいはこれらの掛け合わせ)だ。先日見た番組では、テレビを一緒に見て会話するロボットを開発中とのことだ。家事においてはロボット一体がこなすわけではなく、スマートスピーカーを使って、スマート家電を家庭内無線通信でつないで、センサーや音声などでON/OFFを制御する方向だ。
ロボットと人間との関係は、家電と人間のような単純なものではないらしい。2017年のWEB記事にあるが、ひとの世話をするロボットには、人間側が愛着をもつ傾向にあるので、心理的な結びつきが深まりすぎる問題があるという。(ご興味のある方は「コンパニオン・ロボット WIRED」で検索すると記事が読めます。)
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「イブの時間」(吉浦康裕監督・スタジオ六花制作・2008年WEB公開/2010年劇場版公開)は、そんな研究紹介に先んじて、人間とヒト型ロボットの関係の複雑さを提示している。
映画では、家電として売られている人型ロボットに精神的に依存する人間が増えており、不法投棄された初期のコンパニオン・ロボットが動き出すなどして人間の生活を脅かす場面も出てきた状況だ。それを問題視し取り締まりを強める動きがある一方、ロボットだけが悪いのかと問う動きもある。
喫茶「イブの時間」では、人間と人型ロボットを区別なく接遇し、誰が人間で誰がロボットか分からないようになっている。ロボットが人間そっくりという振り切った設定が見る者を困惑させる。
人の世話をするロボットというと、かの猫型ロボットを思い浮かべる。確かにあれほど万能であれば、あの少年でなくとも依存心は高まるに違いない。ただ、おもちゃのようなデザインの二足歩行の猫型だから笑って見ていられるのではないか。ロボットは見た目が10割なのか?
漫画やアニメの中の話と現実をごっちゃにするなと思われる方もおられるだろうが、科学技術の種を漫画やアニメで応用・発展してみせることもある。ことロボットに関しては、アニメは重要な情報だ。本作の吉浦康裕監督の新作「アイの歌声を聴かせて」が、今月末公開される。監督が描く未来に興味がある。
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ロボットつながりで、カズオ・イシグロの「クララとお日さま」はいかがでしょう。
始まりは不安気だが、このAIロボットのいる風景はわるくない。むしろ最高では?