『フレンチ・ディスパッチ』でわかる男の値打ち。
オシャレな映画を作る監督として一部女子から絶大な人気を誇るウェス・アンダーソン監督。彼の新作映画が公開されている。タイトルは『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』である。長い!長すぎて覚えられない!とかつてのテレビCMの渡辺謙のように叫びそうになるくらい長い。なので略して『フレンチ・ディスパッチ』ということで映画館でも呼称されている。「すみません、フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊を見たいのですが」と言わなくても「すみません、フレンチ・ディスパッチ大人1枚」と言えばチケットが買える。あ、いまどき券売機で買うから口にしなくていいのか。その昔、家族で映画を見に行って「おっぱいバレー大人2枚学生2枚」と窓口で顔を赤らめながら言った日が懐かしい。
さて、そんな『フレンチ・ディスパッチ』である。これが面白い。ウェス・アンダーソン節が炸裂しているのでストーリーを追うなんてことはせず、目の前で展開するあれやこれやを眺めているだけで楽しく面白いのである。しかし、こうなるとストーリーを追って映画を楽しみたい、という人には苦行のような時間が訪れる。これだけの面白さなのにレビューサイトで「わけがわからなん」「睡魔との戦い」などと書かれてしまうのはそのせいだと思う。
先日、僕も劇場で鑑賞したのだが近くの席で寝息を立てるおじさんも目撃している。さらに、劇場を出たところではケンカするカップルが。彼氏曰く「これはなんの映画なのだ」と。彼女は優しく「だから、あれだよ。雑誌の編集長が亡くなって、みんなで最終号をいい雑誌にしようと頑張るって言う映画だよ」と説明している。しかし、彼氏は「う〜ん、そうなのか。でも、なんでフランス語が出てくるの?」とか「学生運動っぽい若者が出てくるのはどういう意味?」とか「なんで絵を描いてるの?」とかわからなかった苛立ちを彼女に次々とぶつける。
まあ、そうだよね。話しを聞いてると、彼氏もちゃんと見てるんだもんね。見ているのにわからない。しかも、彼女は満足気。こうなるとイライラする。まるで自分だけが馬鹿のようだ。どこか、この映画には欠陥があるに違いない、という感じだろうか。
いま見た映画に満足しているのに、「わからんちん!」と声をあげている人に近づくのはいやなので、そのカップルを先にエレベータの中に見送り、僕は次のエレベータを待つ。しかし、エレベータのドアが閉まるまで彼氏の文句は続き、彼女の説明は続くのであった。いや、ほんと、彼女はとてもいい子だった。あんなに我慢強く丁寧に説明してくれる彼女なんて他にいないよ。でもまあ、正直別れた方がいいんじゃない。と僕は思ったのでありました。
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。現在はコピーライターと大阪ビジュアルアーツ専門学校の講師をしています。東京と大阪を行ったり来たりする生活を楽しんでいます。
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匿名
植松さん、こんにちはー。
ウェス・アンダーソン監督、大好きです!
『フレンチ・ディスパッチ』も公開されてすぐ観に行きましたー。
映画は大体一人で観に行きます。
誰かと一緒に観に行くと、相手が楽しんでくれているか気になって自分が楽しめないんですよね。
でも、誰かと映画について語りたくなることもあります。
この監督の前作『犬ヶ島』を見に行った時は、私が観た回は私ともう一人しか観客がいなかったのですが、そのもう一人の(70歳くらいの)男性によほど声を掛けようかと思いました。
変なナンパだと思われるかなと、思い留まったのですが。
もしかしたらすごく趣味の合う人だったのかもしれないなー。
やっぱり声を掛けてみたらよかったかしら。
uematsu Post author
匿名さん
僕は一度だけ、知らない人に声をかけたことがあります。
あれは、なんだったけ。
映画そのものは覚えていないんですが、
名画座で見ていたんですが、客が高校生の僕とおじさんひとりだけでした。
わりと感動的なラストで、終わった瞬間におじさんが僕の2列ほど後ろの席で、
「よかったなあ」と声に出して呟いたのです。
で、席を立って身支度していた僕が思わず「ねえ」と答えしまい、
しばし、劇場のベンチで話し込んでしまいました。
そこに、もぎりのおばちゃんも加わって、小一時間。
いい思い出です。