白石一文の『ファウンテンブルーの魔人たち』
白石一文の小説を最初に読んだのは2000年。『一瞬の光』が出版された時だったと思う。平積みされていた本を手に取って、なんとなくタイトルに惹かれて読み始めたら、これが存外の面白くてしばらく彼の作品が出版される度に読んでいた。ただ、読む度に印象の違う作家だなあと言う思いがあって、なんとなく気持ちが離れてしまったのだった。
でも、十年ほど前から再び書店で白石一文の棚をあたることが多くなった。その頃には彼は恋愛小説の旗手的な扱いをされていて、テレビドラマ化や映画化もされて売れっ子になっていた印象がある。その時に、それまで読んでいなかった既刊を読みあさるような感じなったのだが、なんとなくこれまでの白石一文のイメージが変わったのだった。
これはもう僕の個人的な感想なのだけれど、彼は恋愛小説の旗手でもなんでもなく、ただただ小説という分野に対して大きな野心を持っているのではないか、ということだった。どういうことかというと、彼は書けるものを書こうとするのではなく、ふと頭に思い浮かんだ新しいアイデアがきちんと小説に出来るかどうか、ということにとても執着しているのではないか、ということだ。
だからこそ、読む度になんとなく毛色が違っていたり、本当に同じ作家だろうかと思ったりするのかもしれない。そんなふうに思ったのだった。小説の中に、自分が読んだ書籍の引用を大きく持ち込んでみたり、とんでもない設定をしれっと取り入れてみたり。それによって、彼の小説の印象は大きく変わり、それまでのファンが一斉に噛みついたりもする。
今回の新作『ファウンテンブルーの魔人たち』もそうだ。近未来、AIロボット、幽体離脱、隕石衝突など、次々と思いも寄らなかった設定が繰り出してくる。きっと普通の小説家なら、そんなことを思い立っても、実際に書き始める前に「いや、これはちょっと難しい」となるはず。しかし、白石一文はそこに挑戦することこそ、小説家の責務だというように逃げないのだ。
そして、レビューは炎上する。僕はしかし炎上覚悟で書くことが出来る白石一文という作家がとても好ましい。そして、次が読みたくなる。もし、それが読みづらい仕上がりになっていたって構わない。だって、そういうところから新しい小説が生まれてくると思うから。というわけで、この600ページ超えの大作を誰かに勧めたいわけじゃないし、もし読んでもらって叱られるのはいやなんだけれど、ちゃんと僕は面白く読み終えました、ということだけは書いておきたかったのである。
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。現在はコピーライターと大阪ビジュアルアーツ専門学校の講師をしています。東京と大阪を行ったり来たりする生活を楽しんでいます。
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